74.こぼれる勇気
体の奥底から、嫌なモノがこみ上げてくる。
ああ、まただ。
戦いの時の恐怖がよみがえったんだ。
しかも、スラッグヴォンズやショックダイルの時より怖いよ。
リッチーさんの宣言のせいだよ!
「うっうっ。うぇああ」
こみ上げたモノ、意味が通じない泣き声がもれちゃう。
「あんた、泣くほどイヤなの? 」
安菜、当たり前だよ。
・・・・・・返事ができない。
漏れるのは泣き声だけ。
リッチーさんの言う通りなら、これからの戦いには、暗号世界の貴族たちが介入するってことだよ。
あの人たちは自分で自分の運命を決める人たちだ。
ランニュウ。
そう、乱入。
自分たちの力を示すためなら、いくらでも乱入するだろう。
そんな人たちを、よけながら戦う。
できるわけがない。
命の保証なんてできない。
そう考えるだけで、また嫌な叫びがこぼれてしまう。
「ちょっと! うさぎ! 」
返事なんか、まだできない。
そしたら安菜が。
「ちょっと!
リッチーとやら!
私は安菜 デ トラムクール トロワグロ!
このウイークエンダー・ラビットのパイロット、佐竹 うさぎの主君です! 」
外部スピーカーで、がなりたてた。
「あなたが"この世界のために戦う"と、それと"他の生産者"も同じようなことを考えているだろう"とおっしゃってから、うちのうさぎが泣き止まないんですけど!? 」
私の主君は、こんな時でも察してくれた。
でもやめて!
はずかしい!
一緒に、私の泣き声もスピーカーで広がってる!
でもその言葉さえ、泣き声にさえぎられて言えない。
『お初にお目にかかります。
トロワグロさん』
それに対するリッチーさんは、前とは違う。
『あなた方の心配は、理解しています。
指揮系統が違う戦力がひとつの戦場に集まっても、混乱するだけ、と言うわけですね』
すごく堂々としてる。
『しかしながら、それは過剰な心配なのです。
怪獣を少数や単体で狩ることのできる者は存在します。
彼らを狩りの中心にすえることで、全体の犠牲を減らすことができるのです』
安菜が言い返す。
「私に言わせれば、この世界にいる人全てが弱者です。
地球のハンターキラーだって、それなりの力があります。
その戦いに巻き込まれれば、命の保証はできません!
そんなジャマになることをすると断言したのが問題なのです!
この事は覚えておいてくださいよ」
言いたいことだけ言って、安菜はスピーカーを切った。
・・・・・・これも交渉術と言うのだろうか。
「安菜さん。
リッチーさんたちが介入したとして、本当に妨害となるのでしょうか? 」
はーちゃんが話しかけた。
「むしろ、協調するのではないでしょうか?
暗号世界のハンターとプロゥォカトルがであった場合、暗号世界のハンターは士気を上げます」
「それは当然でしょ! 」
え?
はーちゃんと安菜が"当然"と思うこと?
「・・・・・・本当かなぁ」
ようやく言葉をだせた。
泣き叫ぶのにエネルギーを使ったからかな。
「「本当です」」
「なんだっけ」
安菜は考えて。
「ほら、狩り場で会ったらキャリアが上の魔法使いでも、お偉い女王さまでも、最近じゃイヌネコからも先に敬礼されるって言ってたじゃない」
それは・・・・・・そんなこともあったけど。
頼りにされてるってこと、だよね。
そこから最初に思いだしたのは、朱墨ちゃんとアーリンくんだった。
グロリオススメでの、困り果てたかわいそうな顔。
その時、連絡が来た。
「あ、朱墨ちゃんからだ」
『こちら、ファントム・ショットゲーマー。
あの、九尾 九尾から意見具申? があるそうです。
いいですか? 』
なんとなく元気がでてきたかも。
「いいですよ」
『お電話、変わりました。
九尾 九尾です』
あの、パーフェクト朱墨の肩に乗っていた朱墨ちゃんのおばさんだ。
『私はさっきの安菜さんの話に大体賛成です。
ですが、異能力者がワガママだと思われるのは嫌です。
そこで、やってみたいことがあるんです』
それは、何をするんですか?
『あのポルタからでてきた人たちには、堤防の上にならんでもらいます。
まずは、破壊された私たちの街を見てもらいます。
そしたら、新しい力を見てもらいます』