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012 その一口がデブの素

 スープを口に入れた瞬間、やや残る酸味。
 しかし二口目にはその酸味よりも凝縮された野菜の旨味が口の中に広がった。

 反対側が透き通るほと煮込まれた野菜たちは、驚くほど柔らかい。
 そしてこれでもかと野菜が入っているので、食べごたえも十分ね。

 ほろほろの手前で止め、やや残る食感が口を動かし満腹感を満たしてゆく。

「すごい。美味しいですねミレイヌ様」
「そーでしょう、そーでしょう?」

 味は少し落ち着かせたとはいえ、まだ少し薄くはある。
 ただウインナーが出汁となり、また肉がちゃんと入っているという心の安定を誘い、私のお腹も満足……。

「おかわりー」
「え? ミレイヌ様?」

 まだ半部も食べ終わっていないシェナが、かなり嫌そうな顔をこちらに向けた。
 そんな風に目で抗議されたってさぁ。
 満足はしても、満腹にはならないんだもん。

 これでも炭水化物抜いてるし。
 朝は食べたけどー。いつもの十分の一も食べてないのよ。
 おかわり一杯くらい、いいじゃないの。私が作ったんだし。

「奥様、あのー」

 その声でシェフたちを見れば、皆どの皿も空になっていた。
 どうやらこの世界でもこのスープは合格だったみたい。

 昔、野菜がたくさん食べたくてレシピ見た時に覚えたのよね。
 あっちでは、セロリとか入ってて燃焼系スープとか言われてたっけ。

 セロリってあんまり得意ではなかったけど、スープにいれると気にならないのよね。
 しかも食物繊維たっぷりだし。

「私はあと一杯だけ食べればもう十分だから、残りはみんなで食べてしまっていいわよ」
「ですが……」
「ミレイヌ様は本日よりダイエット中なので、お気になさらずに結構です。あ、あとおやつも必要ありません」

「シェナ!? な、なんで断っちゃうのよー!」
「だって、お菓子は一番太るのですよね?」
「ぐぬぬぬぬぬ」

 頭では分かっているのよ。あれはカロリーの塊だって。
 でも、でもでもでもでも。

「い、一枚だけなら……」
「その一口がデブの素」
「ううううう」

 美味しさはカロリーなのよ。仕方ないじゃない。
 だって、カロリー高いものが好きだから今があるんだもん。

 って、そうも言ってはいられない状況なんだけどさぁ。
 でも一枚くらいいいと思うのに。

「今日は諦めるわ。そんなに動いてもいないし」
「そうですね。それがいいよ思います」
「でもスープのおかわりはちょうだい」

 そんなジト目で見てもダメよ。これだけは譲れないの。
 だってスープ一杯だけじゃさすがにお腹が空いて夕食までもたないもの。

「ではそのおかわりを食べたら、せめて中庭をお散歩いたしましょうね」
「……はい」

 シェナの圧力に負け、私はおかわりのスープをあっという間に飲み干したあと強制お散歩へと連れて行かれた。
 もちろん私はそのお散歩について行くので精一杯で、景色を楽しむ余裕などどこにもなかった。

 日頃の運動って本当に大切なのね。
 ランド様との食事がいつもの半分くらいしか入らなかった私に、かなり心配されたのは言うまでもなく。

 ただそれでも、やっと前のドレスが入るようになったというだけで、劇的に痩せるということはなかった。

 でもあのスープがシェフたちに好評で、あの後何回かお昼に並んだことは嬉しい限りだったけどね。

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