第十一話 「バレぬよう」
ガコン! 足下の床が消え、しゃらくが落ちていく。穴の面積があまりに大きく、
「どわァァァァ!!!」
悲鳴を上げながらも、穴の底へ向きを変えると、暗闇の中にうっすらと、こちらへ伸びる剣山のような無数の巨大な針が見える。
「やべェェ!」
しゃらくは
「“
ガキィィン!! 交差させた腕を素早く広げ、鋭い爪で十字に切り裂き、巨大な針の山が砕け散る。しかし落下の勢いは止まらず、すかさず回転して尻から地面に落下する。
「いってェェェ!!!」
しゃらくが尻を抑えて転がり回る。痛がりながらも辺りを見回す。
「・・・真っ暗だな。まァおれには関係ないけどな」
しゃらくは
「落とし穴ばっか掘りやがって! ムカつくぜ!」
のそのそと立ち上がり、通路へ向かって歩いていく。パリパリ。すると、しゃらくの足元から妙な音がする。見ると何かを踏んだようで、白く細長い物が足元に伸びている。
「何だァ?」
何気なくその白い物体の先に目を向けると、暗闇の中から
「ぎゃァァァァ!!!!!」
ビルサ城最上階の大広間。城主ビルサが横になり
「ビルサ様。侵入者は大穴に落ちたようで御座います」
それを聞いてもビルサは、変わらず険しい表情をしている。
「小僧が死んだか確認しろ。運よく生きていやがるかもしれん」
「
ビルサが、二本牙の二人をキッと睨む。二人は今にも飛び上がりそうである。
「初めから俺が出向けば良かったか? 俺がいねぇと小僧一人も捕まえられねぇのか? なぁおい」
ビルサが目の前の盃を手に取り、ぐいっと飲み干す。
「・・・お、俺達にもう一度行かせてください! 次こそは必ず!」
カァン! ビルサが
「・・・必ずだ」
そう言ってビルサは立ち上がり、大広間を出ていく。
「はっ!! 必ずや首を持って参ります!」
二本牙が深々と頭を下げる。
一方、城下を抜けた荒地に一人佇むウンケイ。目の前には、無数の大穴が広がっている。
「こりゃあ異様だな」
すると、ウンケイの後ろで侍達が隠れて様子を伺っている。
「・・・なんて力だ。穴を全て出現させるとは。城に侵入してきた男との関係は分からんが、要注意人物だってことは、火を見るより明らかだ。ビルサ様に知らせよう」
ヒソヒソと侍達が話をしている。ウンケイに後ろを気にする素振りはない。
「いや、いっそここで仕留めちまおうぜ。奴の首を持ち帰れば、出世も夢ではねぇ」
「しかし、奴はバンキさんを倒したと聞いたぞ。そんな怪物、俺たちにやれるか?」
「だからこそ価値があんのさ。いいか? わざわざ出向く必要はねぇ。ここから弓を引けばいいのさ。それで怯んだところを斬ればいい」
「なるほど名案だ。乗ったぜ。ここで奴を仕留めよう」
侍達が全員一斉に弓を用意する。
「おい! 誰がトドメを指すんだよ! 皆で弓引いてどうすんだ!」
「それならお前がやれよ! 奴に近づくのが怖ぇのか?」
「まぁまぁ。皆で弓引いて、皆でトドメを刺しゃいいじゃねぇか。それで抜け駆けはねぇ筈だぜ」
「おぉ、名案だな。乗った! 皆で奴を仕留めよう!」
侍達が大声で盛り上がっている。ウンケイは、侍達にはとっくに気がついており、会話も丸聞こえである。
「・・・もう少し静かに話せねぇのか。奇襲するってんなら、せめてバレるなよ」
ウンケイは侍達に呆れている。
「いくぞ! 撃てぇ!」
侍達が、奇襲とは思えぬ大声の合図で、一斉に矢を放つ。すると当たる前に、そのまま一斉に刀を抜いて突進する。
「馬鹿め」
ウンケイが振り返り、
ビルサ城内地下通路。しゃらくが悲鳴を上げ、腰を抜かしている。目の前には骸骨が横たわっている。
「ひえェェ! が、が、骸骨だァァ」
ガタガタと震えている。実はこのしゃらく、幽霊やお化けといった類が大の苦手なのである。
「・・・この針で死んだ奴なのか?」
震えながらもようやく立ち上がり、再びその
「・・・まかせろ」
そう言って、冷や汗をかきながらも前を向き直り、通路へ足を進める。前へ進むしゃらくの足音は、静かながら力強く、深い深い暗闇に響き渡る。すると、通路の先から何やら音が聞こえ、しゃらくは足を止める。その音は何者かの足音のようで、どんどんとこちらへ近づいて来ているようである。
「・・・三人、いや四人か」
しゃらくは壁に寄りかかり、じっと息を潜める。侍達がどんどんと近づいて来る。そしてしゃらくの目の前を、気付かずに通り過ぎようとする。
「おらァァ!!」
ズドォン!! しゃらくが侍達の脇から突進し、そのまま壁に激突する。侍達は全員白目を剥いている。
「わっはっは! 誰にもバレずに暗殺だって出来ちまうんだぜおれはァ! 今バレるのは面倒くせェからなァ!」
しゃらくが高らかと笑っている。しかし、その激突の衝撃があまりに大きく、城の上階にも衝撃が伝わっている。
「な、何だ今のは! 地下で何かあったのでは!?」
しゃらくの思惑とは裏腹に、上階では完全に警戒され、地下へ大勢の兵達が放たれる。
そんな事とは露知らず、しゃらくは呑気に地下を歩いていく。
「何だここ、迷路みてェだな。どっちに行きゃいいんだァ?」
しゃらくは、複雑な通路に訳も分からず、あちこちを曲がっていく。しかし、気まぐれに曲がる道はどれも、奇跡的に大勢の兵達とすれ違わぬ道で、大勢の兵達は、全くしゃらくの姿を見つけることが出来ない。
「おい、どこに行ったんだ奴は! 何故こんなにも兵を放って見つけられんのだ!」
兵達は血眼になってしゃらくを探すが見つからず。一方のしゃらくは呑気に歩いている。すると、しゃらくの前に大きく頑丈そうな大扉が現れる。扉には、いくつもの
「何だァ? 大判小判でも入ってんのか? あ! こんなに厳重にしてるって事は、食いもんだろ!」
しゃらくが腕をまくると、赤い模様が浮かび上がる。両の手からは鋭い爪が伸びる。ガキィン! その爪で、錠を容易く切ってしまう。そして、上背の二倍はあろうかという大扉を開ける。
「食いもん食いもん! やっと飯にありつけるぜ! これであいつも・・・。ん? 鉄の匂い?」
しゃらくが扉を開き中を覗くと、大量の銃や刀、槍や大砲といった武器が敷き詰められている。しゃらくが不思議そうに中へ入っていく。中には甲冑などもあり、その全てが黒々と怪しく光っている。奥を見ると、加工場のような部屋もある。どうやらこの城では、秘密裏に大量の武器を製造しているようである。ふと武器を見るとそこには「ウリム将軍献上品」の札が貼られている。
完