第52話 極小的歓迎会
「ちょっとまってね……」
そこに水を差したのはアメリアだった。紺色の髪をかき上げながら感情の読めない糸目でじっと誠を見つめてくる。
『相変わらず何を考えてるか分からないオバサンだな』
失礼とは思いながら誠は満面の笑みで自分を見つめてくるアメリアを見ながらそう思った。
「なんですか……」
「今日は私達と飲みましょう。私とカウラちゃんとかなめちゃん。以前来た補充パイロットの五人も一緒に呑んだのよ。まあ連中はいなくなったけど他のとは違って誠ちゃんはきっとうちに居つきたくなるから……ね?」
誠と同じくらいの185センチ前後の長身のアメリアはそう言ってにっこり笑った。
「そんな……今日はこいつを称えて吐くまで飲ませるんだって……」
強気そうな島田がおずおずとアメリアに申し出る。
「シャラップ!これはうちの新人パイロット教育の一環なの。二人の先輩パイロットと運用艦の艦長のアタシ。新人を仕込むにはいいメンツでしょ?」
アメリアの言うことがあまりにもっともなので、島田達も何も言えずに黙り込むしかなかった。
「じゃあ、とりあえず機動部隊の詰め所で終業時間まで潰したらカウラちゃんの車で出発ね」
笑っているような顔の作りのアメリアはそう言ってシミュレーションルームを去っていった。
アメリアを見送った誠の視線にカウラのエメラルドグリーンの髪が飛び込んできた。誠が見下ろすと、真面目そうなカウラの瞳が誠を捉えた。
「貴様。なかなか面白い奴だな」
誠を見上げるカウラの瞳は深い緑色で誠は思わず飲み込まれそうな感覚にとらわれた。
「最初に言った言葉は訂正する。これまでの連中とは違って貴様にはここに残って欲しい……これは私の個人的な意見だが」
そう言うとカウラはアメリアが去っていったのと同じようにまっすぐにシミュレータールームを出て行った。
「残って……いいのかな?」
誠は不安ばかりだった心の中に希望の灯がともっていることに気づきながらカウラの後姿を見送っていた。