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1-8:襲撃


「やっと来たか、アルム! さあ、お前の魔法を見せてくれ!!」

 
 誕生日会の挨拶をやっと受け終わり、しばし談話となったので休憩と言って私は中庭に来ている。
 そこで待っていたのはいとこのエイジ。
 彼に呼び出され、私は疲れてはいたけどやって来たのだ。


「魔法を見せろって、何をすればいいのかな?」

「そうだな、あまり派手だとまた親父殿に怒られるから、水生成魔法をやってくれよ」

 水の生成魔法かぁ。
 基本中の基本で、この世界の人なら誰でも呪文を唱え集中すれば使える生活魔法と言うやつだ。
 最初の頃、私もこう言った生活魔法を宮廷魔術師に習った。
 
 この世界が技術的に進歩しにくい理由はこう言った基本の所で魔法が便利に代行しているかららしい。
 生活魔法は基本生活の中で特に重要視されるいくつかの魔法の事を示す。
 水生成魔法、着火魔法、明りの魔法、そして軽いものを動かす念動魔法がそれにあたる。

 エイジの言う水生成魔法はその中の一つ、たとえ砂漠でもこの魔法さえ知っていれば水には困らない魔法だ。


「ん、じゃぁそこの噴水に【水生成魔法】してみるね」

 私は言いながら手の平を噴水に向けて水生成魔法を発動させる。
 私の場合、イメージしてそこへ魔力を送り込めばその魔法は発動する。

 程無く噴水の上に噴水の大きさを凌駕する水の玉が浮かび上がる。


「へっ?」


 エイジが間の抜けた声をあげると同時にその水の塊が噴水に落ちて、一気にあふれ出す。
 中庭一面にあふれ出た水が流れ出し、排水溝へ次々と向かって流れだす。


「ちょ、ちょちょちょちょちょマテぇっ!! アルムお前なにしたぁっ!?」

「え? 【水生成魔法】を使っただけなんだけど??」


 バシャバシャとくるぶしまで水に濡れたままエイジは私の所までやって来てガシッと肩を掴む。
 うーん、後十年もしたらこのシュチュエーションはなかなかなのだけど、いくら美少年でも今はまだね。


「どう言う事だよ!! お前呪文も唱えずにしかもあんなデカい水の塊作り出すだなんて!!」

「え~あ~、あれでもかなり魔力しぼってはいるんだけど……」


 そう、これが今の私の問題点。
 魔法が使えるのは楽しくていろいろ学んでいるけど、試して使うと力加減が出来ず必ず目的の数段上のレベルの魔法になってしまう。
 込める魔力を極限に押さえてもあれだ。
 普通の【水生成魔法】は、一回につきコップ一杯程度の水しか生成できないらしい。  
 だからこそ一般生活魔法として役には立つ者の脅威にはならない。
 着火魔法だって、釜戸に火をつけたり、たばこの先端に火をつけるくらいの威力しか出せない。

 今私が出した水生成魔法は、宮廷魔術師に言わせれば【水の壁】ウォーターウォールと言う防御系魔法の上級レベルらしい。


「あ、ありえねぇ…… いくらイザンカ王家血を引いててもここまでだなんて、ありえねぇっ!!」

 少し涙目のエイジ。
 何そこまで興奮しているのかしら?




『まったく、末恐ろしい子供だ……やはり今のうちに消しておくべきだな!』


 しかし涙目のエイジに揺さぶられていると聞いた事のないくぐもった声がして首元に冷たい空気が忍び寄る。


 
 がっきーんッ!



 が、すぐにそれは甲高い音に弾かれる。


「アルム様!」


「え? マリー??」

 見ればマリーがなぎなたを構えて私のすぐ後ろにいた。
 

『ほう、あれを防ぐか? 貴様ただのお着きではないな??』

「アルム様に手出しをするとは恐れ多い! ただでは済みませんよ!!」


 そう言ってマリーはなぎなたの刃ですっとドレスのすそを切って、奇麗なすらっとした足をむき出しにする。
 なぎなたを構え、周囲を油断なく見渡し、向こうの茂みの方へと走り出す。


「はぁっ! 操魔剣なぎなた奥義、疾風!!」


 踏み込みの二歩目のマリーは常人のそれをはるかに凌駕した動きをした。
 まるで爆発したかのように二歩目が十数メートルの距離を縮め、茂みになぎなたを突き刺す。
 するとその突きにまるで風の渦が巻き付いているかの如く茂みを爆散させその後ろにいた黒装束の人物を弾き飛ばす。


『くっ、操魔剣だと!? 貴様、ジマの国の騎士かっ!?』

「ふっ、昔の話。今はアルム様専属メイドです!!」


 いや、マリーって私専属だったっけ?
 確かに色々お世話してもらっているけど……
 

「あれほど愛らしいアルム様に刃を向けるとは、貴様一体どこの者です!?」

『言うと思うか? だがっ!』


 そう言ってその黒装束は足元に何かを投げつけると、それが破裂してまばゆい光を放つ!


「くっ!」

『ここは引かせてもらう!』


 そう言って光が収まる頃にはその黒装束の姿は完全になくなっていた。

   
「逃がしたか…… アルム様、お怪我は有りませんか!?」

「あ~僕は大丈夫。それよりエイジが……」

 なんか一度にあったので内緒で防御魔法系の最上位、【絶対防壁】を展開していたのだけどマリーのお陰で不要だったみたい。
 でもエイジはあまりの事で腰を抜かしている。


「な、なんなんだ!? あれは一体!? それにその女、何モンなんだ!?」

「エイジ様、お騒がせ致しました。私はアルム様専属のメイドにございます」

「め、メイドぉ!? メイドがなんであんな戦闘できるんだよ!?」

「自衛のために鍛えておりましたので。ささ、アルム様ここはまだ危険やもしれません、どうぞ私の元へ♡」


 マリーはそう言って私を抱きしめる。
 相変わらず胸が大きいから抱き着かれるとその胸に顔がうずまって苦しい。


「ぷはっ! 僕は大丈夫だから放してよ!」

「いけません、まだ近くに刺客がいるやもしれません!! 私から絶対に離れませんように! 何なら今晩はベッドの中まで護衛いたします!!」

 何故そこで鼻息荒くなるマリーさん?
 いや、昔っから私の事面倒見てくれるのは嬉しいのだけど、最近さらに近くないですか?

 何となく姉たちと同じ雰囲気を醸し出すマリー。
 私はじたばたもがいているけど、騒ぎを感じた人たちがやって来た。


「どうなされましたか!?」

「賊がアルム様を狙いました、残念ながら逃げられました、すぐに追っ手を!!」

 こちらに来た衛兵にマリーは要点だけ言って私とエイジを引き連れて部屋の中へと行く。
 
 しかし、いきなり物騒な事に巻き込まれたけど、あの刺客って一体。
 私の事を『まったく、末恐ろしい子供だ……やはり今のうちに消しておくべきだな!』とか言ってたけど、あれって一体?


 私はまだまだ知らないことがいっぱいあるって事かしら?



 マリーに抱きかかえられたまま私はそんな事を考えるのだった。

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