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1-7:いとこ登場


「アルムエイド=エルグ・ミオ・ド・イザンカ様ご入場!!」


 衛兵の声が鳴り響き、扉が開かれる。
 長兄のアマディアス兄さんの先導で私はいよいよパーティー会場へと足を踏み入れた。

 本日私、アルムエイドは五歳の誕生日を迎えそのお披露目を兼ねる社交デビューもする事となった。

 扉を過ぎたそこは階段を挟んで低い場所がホールとなっている。
 そこにいた、きらびやかな装飾や衣服で着飾った人々が一斉に私の方を見る。


「あれが第三王子様か?」

「まぁ、なんて可愛らしい!」

「彼が噂の」

「あら、小さいながらになかなかですわね?」


 ひそひそと聞こえるその声に、ちょっと緊張しながらアマディアス兄さんについて階段を下りる。
 そしてひと際人だかりの多い場所へ行くと、あのちょい悪オヤジが談笑をしていた。

 一応私の父で、現イザンカ王国の国王、ロストエンゲル=エルグ・ミオ・ド・イザンカその人である。
 アマディアス兄さんに連れられ、私は国王である父の前にまで進み出る。
 父は私を見て頷く。


「アルムエイド、此度の五歳の誕生日、誠にめでたい。そなたの成長を女神様に感謝し、健やかに育たんことを祝おう」


 両の手を広げ、このちょい悪親父はそう言う。
 もっとも、このセリフはあらかじめ決められたもので何度もマリーに練習させられた。
 なので、返答も決まった形で行わなければならない。


「陛下、有難きお言葉。不肖このアルムエイド我が国の為今後も精進してまいります」


 マリーに一字一句間違えないよに何度も練習させられた台詞をしっかりと言ってから右手を左の胸に当て、左手を腰の後ろに回しややも腰を低くしながら頭を下げる。
 これで一応の誕生日の決まりの挨拶は終わり。

 その決められた様子にちょい悪親父様は満足そうに頷く。


「貴殿の益々の発展を共に祝おう! 皆の者、彼が我が息子アルムエイドである!」


 そうわざと仰々しく言うと周りから一斉に拍手が沸き起こる。
 私は今この瞬間、社交デビューをした事になる。


「おめでとう、アルム!」

「おめでとう、アルム君!!」

「おめでとう、アルム~」

「精進するがいい、アルムエイド」

「お兄ちゃんおめでとう!!」


 兄や姉、そして妹たちからもう一度祝辞を受けてから私は母親であるジェリア=エルグ・ミオ・ド・イザンカに手を取られ、少し高くなっている椅子の上に座らせられる。
 その後ろにちょい悪親父や二人の妃も座り、目の前に行列が出来あがる。


 マリーから聞いてはいたけど大変なのはここかららしい。
 社交デビューをして、しかも誕生日会だから貴族やら何やらが祝辞を述べる為に一人一人私の前に来て挨拶をするらしい。
 勿論、ここでプレゼントなども渡されるらしいが、今回は数が多いとの事で目録を作成して挨拶時に読み上げる事となったらしい。

 そして早速私の目の前に有力貴族たちが並び、一人一人挨拶をしてくる。
 マリーが隣に立ってサポートしてくれるけど、今日はやたらと奇麗なドレス姿だった。
 
 マリーは挨拶に来る貴族一人一人の名前を私に告げ、プレゼントの目録を読み上げる。
 事前に準備して置いた挨拶に対応する方法を、マリーと私にしかわからないサインで一人一人対応してゆく。

 行くのだけど……


 何この多さっ!!
 既に三桁行ってるよ!?
 最初の数十人は何とか覚えたけど、四十人あたりから名前と顔が一致しない。
 なのにどんどん挨拶に来るから頭がこんがらがって来る。


 マリーのサポートが無ければとうの昔にパニクっている所だ。
 
 と、私の前に私より少し年上っぽい男の子が現れた。


「お前がアルムエイドか? 魔力がすごいって話だそうだよな? 俺はエイジ、エイジ=エルグ・ミオ・ド・イザンカ! お前のいとこだ!!」

「は、はぁ…… アルムエイドです、よろしくお願いします」


 なんかやたらと元気な男の子じゃない?
 口調もやたらとなれなれしいと言うか。
 赤茶色の髪の毛にややも釣り目な元気そうな男の子。
 いとこと言うだけあって、結構な美少年。
 でもどこか猫の様な感じもする。

 と、彼はいきなり私の手を取って引っ張り上げる。


「お前、凄い魔法使いなんだってな! 俺と勝負しろ!!」

「は、はぁ? あの、僕……」


 引っ張り起たされた私は困惑するが、その後ろに立っていたどことなくちょい悪親父に似ている男の人がずいっと出てきてエイジの首根っこを掴む。


「やめんかエイジ! 今日はアルムエイドの晴れ舞台ぞ! すまんな、アルムエイド。初めて会うな叔父のマクルスだ」


 そう言って叔父と名乗ったこの人はその場でエイジの頭を殴る。


 ごっつ~ん☆


「まったく、王族のくせしてどうしてお前はそうガサツなんだ! アルムエイドを見習わんか!!」

「いてぇ~、親父殿殴る事は無いだろ? だって噂じゃアルムエイドってもの凄い魔力量があって難しい魔法をどんどん習得しているって話じゃないか!! あの始祖魔王法ガーベルの再来とまで言われている!! 俺だって魔法は得意だぜ! だからどれほどのものか見てやろうって言うのによ!!」

「だから止めんかバカ者! 時と場所をわきまえんか!!」


 親子漫才を目の前で見せられているけど、初めて会ういとこと言うのに興味を引かれる。
 と言うのも、私に友達はいない。
 しかも美少年!
 将来これは有望株になるはず!!


「えっと、エイジさん。今度また機会がある時なら……」

「エイジで良いぜ! 俺もお前の事はアルムって呼ぶからな!! じゃあぁアルムよ、パーティー終わったら中庭に集合な!!」


「エイジっ!!」


「まぁまぁ、お父上、そう興奮なさらずとも。初めましてアルムエイド。私はイザーガ、君のいとこだよ」

 親子漫才の続く中、その後ろからアマディアス兄さんくらいの赤茶色の髪の毛を後ろでひと房にまとめた長身イケメンのお兄さんが出て来た。
 彼もいとこと言っているけど、エイジのお兄さんポイ。

「初めましてですわ、私はミリアリア。よろしくねアルムエイド」

 更にその後ろから、アプリリア姉さん位の美少女が出て来た。
 どうやら彼女も私のいとこらしい。


「アルム様、レッドゲイル領主様御一行です。国王の弟君に当たります」

 つかさずマリーが補足を入れて来る。
 私は彼らを見て、にこりと愛想笑いをして言う。


「本日は私の為に来ていただいてありがとうございます。どうぞ若輩者ですが今後もよろしくお願い致します」


 マリーに教わった上級貴族たちに言う言葉を言うと、マクルス叔父さんは目を丸くして私を見る。


「まったく、兄上の所はどうしてこうも優秀な子供が生まれるのか? アルムエイドほどの器量であれば儂が欲しいほどだな!」


 マルクス叔父さんはそう言って高笑いをするも、すぐにエシュリナーゼ姉さんたちが声をあげる。


「それはだめよ、叔父様!!」

「そ、そうですアルム君は私の可愛い弟なんですから!!」

「アルムぅ~エイジとばかり遊んでないで僕とも遊ぼうよ~」

「叔父上、あまり公の場でそのような事は口になさりませんように」

「お兄ちゃん、何処か行っちゃうの?」


 兄姉妹たちは口々に講義をする。
 するとマクルス叔父さんは更に高笑いして国王である私の父親に向かって言う。


「兄上、素晴らしい子供たちだ。これならばブルーゲイルは、いや、イザンカは安泰だな!!」

「お前が言うか…… まあいい。今日は存分に楽しんで行ってくれ」

 
 何故かその瞬間二人の目線が合うとバチバチと火花が散る。

 ええぇとぉ、これってもしかして兄弟であまり仲が良く無い?  
 なーんか嫌な予感がする私だった。

 が、エイジがニカっと笑って親指で中庭の方を指さす。
 後で来いって事かな?
 まあ、せっかくだかこれが終わったら休憩がてらに行ってみよう。





 私は気を取り直して、また苦行の挨拶を受け付け始めるのだった。
  

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