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聖女の告白

さて、ルースはまだまだ仕事が残ってるっていうから早々に俺のところから去っていっちまった。話したいことまだまだあるっていうのにな。
だけど……一人自室で寝かせたままのチビの方も心配だし、俺も寝よっかな、なんて思ってたときだった。

裏庭の奥に流れている小さな川。
そう、俺が親方に身体を洗えと叩き落とされて以来、濡れるのが大嫌いになっちまった、あの小さな川。
小さいとはいえ当時の俺が溺れたほどだ、それなりの深さはあるけど。
その川岸に腰掛け、流れに足をひたしている人影が。

久々の……いや、もしかしてここに来たのってはじめてじゃ?
つまりは、ロレンタのことだ。

あんまりあいつとは話したくなかった。だっていつも口を開くなり唐突に聖女だなんだって聞いてくるし。今んとこ苦手な相手トップかも知れない。
……とはいえ、こんな場所に一人っていうのもな。

「寝ないのか?」
「ここはまだ侵されてないんですね」
ほらきた、相変わらず全然話が噛み合わねえし。
「土だけじゃないんです、ここ最近は川や地下の水まで腐りはじめてきてしまって……」
ロレンタは俺にくすっと微笑むと、そう言ってきた。
色白のつま先で川面を蹴ると、側を泳いでいた小魚たちが小さく跳ねていた。
そうか、ダジュレイの障気は水までもダメにするのか。
となると井戸も同じかも知れないな、つまりは飢饉につながる可能性も……

「お前はなんで教会に入ったんだ?」
そういやまだこいつの事って全然聞いたことも話したこともなかったっけか。前に同行してきた時だって馬車の中でずっと押し黙ったままだったし。

そういえばまだお話ししたことなかったですね、って彼女はいつものペースで軽やかに俺に説いてくれた。
「まだ私が小さかった頃なんですが、流行り病にかかって、熱で生死の境を行き来したことがあったんです。そんな中、夢でうなされていた時に……」
「ディナレが現れた、そうだろ?」
「いいえ、ラッシュ様でした」

「えええ!?」思わず変な声が出ちまった。
いや、だってそうだろ? ディナレが現れたんだから教会に入ろうと……って流れだったら分かるけど、なんで俺が? しかも彼女がまだ子供の時だぞ?
「不気味な黒い影が、私の住んでいる村や友達に覆い被さってきて、それがいよいよ私にって時に、あなたが……ラッシュ様が現れて、その影を一撃で吹き払ってくれたんです」
「俺じゃなくてディナレじゃねーのかそれ?」
だがロレンタは首を左右に振るだけだった。「いいえ、書物に見たディナレ様とは明らかに違ってました」
それは戦士の姿をしていたそうだ。もちろん獣人、そして鼻面に傷跡があって。
「その夢をみた翌日、私の中の病はすべて消え去っていたんです……そう、これは夢で会ったあの方が治してくださったんだって、私は直感しました」
呆気に取られた俺に構わず、ロレンタは続けた。
「その事を親に話したら、きっと聖女様がお救いに来てくれたんだって。私もそれを確信しました、だからすぐに村を出て、教会に入ろうって決めたんです」

先代のシスター・エレムはロレンタの夢の話を聞くなりこう言ったそうだ。

「その方はきっとディナレ様の遺志を継ぐ新たな聖女様に違いない、私はその預言を受けたのだ……って」

いや、だから俺は男だっつーの!

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