いきなりクライマックス!
あいつは突然俺の頭を両手でつかむと、今度は額をググッと俺に近づけた。なんだ頭突きか!?
「ああ……キミはなんて壮絶な人生を送ってきたんだ。ボクの髪の先にすら及ばぬ短い命なのに、これほどまでに激しい生き方をしているだなんて! 本当に素敵だ!」
俺とあいつの……ズァンパトゥの青白い額がごつんとぶつかった瞬間、つかまれた頭から全身へとまるで雷にも似た、奇妙な感触がほとばしった。
例えるなら、無数の手でくすぐられているような……いやそれも違うか。とにかく俺の身体から頭の中へあいつのたくさんの手が伸びて、それらが……
「キミに今日出逢えてボクは最高に幸せだよ。黒き衣のラッシュ。いや、オルザンの末裔にしてボクたちの同胞でもあるよね。願わくばその武器でボクの首をはねてもらいたいくらいさ、すぐにでも死んでもいいくらいにね……いや、それは姫から止められているんだっけね。実に悲しいことだ、だから……!」
手じゃない、根だ! 無数の根が俺の皮膚の下へと潜り込んで、そいつらが俺の頭の中へと潜り込んでいる。
「ぐああああああああああああああ!」
遠くへ消え去っていきそうな意識をぐっと踏みとどまらせる。だが根っこの侵食は止まる気配すらない。
「怖がらなくていいさ。キミの身体はひとつも傷つけてはいないからね。ただキミのその血塗られた全てを知りたいんだ! 分かりたいんだ!」
コイツの気持ち悪い講釈なんて聞きたくない。しかし離れようにも身体が動いてくれない、くそっ!
「だからラッシュ! キミの願いは全部聞いてあげる、叶えてあげるよ! だけどボクの願いも聞いて!」
奴の声がだんだんと、洞窟の中で叫んでいるかのように反響しつつ、遠く小さくなってくる。
「そうだ、キミの未来を見せてよ! 沢山あるキミの未来を! そうだな……どんなのがいいかな? やっぱり戦いに明け暮れる日々が好き? それともどこかの国のお姫様に求婚されたい? それとも……」
ふと、ズァンパトゥの口が止まった。
「そうか……王様か。ならば……!」
突然、大量の水が俺の身体を包み始めた。
鼻から、口から水が容赦なく入ってくる。溺れる!
相変わらず手足をバタつかせる事すらできぬまま、俺の意識が今度こそ、一気に……遠く……
小さな水中に、俺とズァンパトゥの二人きりとなった。
ふわりと水に漂う感覚……俺は死んだのか?
「違うよ、ボクと戦ってもらいたいだけさ」
戦う……? 水の中でか?
「ううん、キミの未来へキミを連れてゆくのさ」
「いっ……てることが、わから……ねえ」
「怖がらないで、ちょっとだけ意識が遠くなるだけさ、目が醒めたら、そこは……」
「どこに、いくん……だ?」
「言ったろ? キミがいるとっても素敵な未来さ。そこでボクを倒してくれないかな。もちろんボクも全力で立ち向かわせてもらうからね」
ちょっとだけ、あいつの口から笑みがこぼれた。そして……
俺の意識が、途切れた。