Sideアレクサグランドフ
「もう国費は出せないだと!? なぜだ!? 税収は入っているんだろう!?」
いつものように可愛いエスターニャにドレスでも買ってやろうと国費からねん出させようとしたところを、宰相が首を横に振った。
俺は激怒した。
今まで俺の言うことには従ってきた宰相が、初めて俺に逆らったのだ。
俺の言葉に、宰相はもう一度首を横に振った。
「もうほとんど国費は残っておらず、税収も減る一方でございます」
「はぁぁあ!? なぜだ!? 各領の領主は何をやっている!?」
納税は国民の義務だろう!?
それを国に納めることができんとは反逆罪じゃないか!!
「それが……ほとんどの領地はもうずいぶん前から疲弊して、干ばつや災害で税収が思うように上がらないとのこと……。改善をと何度も嘆願書が来ていましたが、陛下はご確認もなさらず……」
「何だと? それはお前が何とかすることだろう!!」
まったく。
何のための宰相だというのだ。
無能な奴め。
「そんな……」
「そんなに深刻な状況なのか? 少しも国費を使えぬほどに?」
どうせ宰相が事を大きく話しているに決まっている。
そう思っていた俺は、この後の宰相の答えに初めて危機感を覚えることとなった。
「……はい。千奈様を追放されてから、各地で雨が降らなくなりました。土地は干上がり、作物は育たず、枯れ、水も不足し、衛生状態が危機的状況に陥っている村もあるほど……。加えて各地で地震や山火事などの災害まで起きて、国はもうめちゃくちゃです。このままでは、この国は終わります……」
「なっ……国が終わるだと!?」
そんな……。
そんなこと……。
そこで俺の脳裏に、あの異国から召喚した元婚約者の顔が過ぎる。
『国王が異世界の女人と婚姻を結べば、国を繁栄に導くであろう』
あのお告げ……まさか……。
異世人を追放したから……繁栄とは反対に、この国に災いが起こっているというのか?
くそっ!!
「宰相!!」
「は、はいっ!!」
「すぐにあの女──千奈をここへ連れてこい!!」
「は、は? ですがあの方はすでにゼノンディウス殿下の──」
戸惑ったように視線を彷徨わせる宰相に、俺のいら立ちは最高潮に達する。
「俺の前でその名を口にするな!!」
忌々しいあの男。
優しく聡明で誰にでも分け隔てなく接するのだと臣下からも慕われていた義兄。
魔の力を持っていると分かって追放されてからも尚、あいつを慕う者は多いのを、俺は知っている。
本当に……忌々しいものだ。
「さっさと千奈を連れてこい。あいつには気づかれないように。一人の時を狙え。逆らったら──宰相、お前の一族郎党、首をはねることになるぞ」
「!! わ、わかりました。……お心の、ままに」
そう頭を下げると、宰相は部屋から立ち去った。
千奈──。
仕方がない。
口うるさい女だが、あの男との婚姻の破棄の手続きをし、俺との婚姻手続きを進めなければ。
俺のものにしてから、ここで飼い殺してやる。
結婚すれば、繁栄するのだから、それでいいだろう。
そうして俺はエスターニャを正妃として迎え、繁栄するこの国で何不自由なく暮らすのだ。
俺は窓の外から見える魔界へ続く門を睨みつけるように見つめると、これからすべてうまくいくことを信じてにたりと笑った。