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聖女との約束

「そして私は、お前の姿にディナレを見たのだ。
私の姿に神というものを見たように、お前にその一端を感じたのだ」
ふん……‬もうその時から俺はディナレに見染められていたってわけか。
「お前も知っている通り、マルデでの戦いは熾烈を極めた。投入したリオネング兵のほとんどがここで命を散らせた。
そして私もだ。一心不乱に鉄球を振るい続けていた時、遥か前方から一直線に飛んできた矢に、左の目を貫かれて。
地に伏すということ自体、生まれて初めてだったように感じる。こんな場所で死にたくはないという思いからふわりと張り詰めた思いが抜け去り、そして自身の命が尽きたことを知るのだ」
ああ、それは俺もマルデで感じた。全身に矢を受けた時な。身体が熱くて重くて、でもだんだんどうでもいいやって感じてきて……‬

その時に、そう。目の前に立っていたんだ。彼女が。あの時と変わらぬ、ちょっと寂しげな笑みを浮かべて、
ーまた、逢えましたね。と。
消えゆく意識の中で、私は彼女の姿に涙した。抱きしめたかった。だが指先一つ動かす力すら残されてはいなかった。
血の海に沈む私の頬を両手のひらで温めて、彼女は……‬ディナレは私にこう言ったのだ。

ーナウヴェル。偉大なるサイ族の戦士にして最後の一人。あなたは死んだのです。いま私があたためているのは、あなたの魂なのです。
「そうか……‬ついに私も仲間や家族の元へ行けるのだな」
ーそれも一つの選択です。が、今一度生を受けることも私にはできます。ただ……‬
「生き返ることができる、だと?」
ーええ、だけど覚えていてください。生き返ったとしても、これからまだまだリオネング兄弟国の戦いは続いてゆくでしょう。たとえ終戦という隠れみので一時的にしのげたとしてもです……‬あなたには、ぜひ護ってもらいたい人がいるのです。今以上に辛い日々があなたを待ち受けているでしょう。けど護るべき人にも同様の日々が待ち受けています。あなたはその人の鎧となってもらいたいのです。
「ヨロイ……‬?」
ーええ、私の遺志を継ぐ子がこのマルデにいるのです。あなたも会ったはず。
「ああ、あの少年か……‬」
ー10年後にまたあなたは彼と出会うことになるはず。その時に……‬

私は全てを察したさ。ディナレの遺児。お前が新たなディナレとなってこの戦乱に終止符を打つのだろうと。
だからこそ、私は今一度命をもらうことを決心したのだ。また生きていく事が死ぬことよりどれほど辛い道であろうとも。
だが、憔悴しきっていた私は人と会うのを極力避け、漂泊の末に着いた場所がこの島だった。
ディナレの面影だけを像として残し、神としてお前がここにくると信じて。

「それが今日だったってことか」
「ああ、全てはディナレが私に告げていたこと。だがここから先はわからん。お前たちを無事ここから帰したら、私は……‬」
「バカ言うんじゃねえよ。俺と一緒に戻るんだろ? おっさん」
ナウヴェルの小さな耳が一瞬、ピクッと震えた。
「ちょうどいいさ、ここであったのも10年前からの縁なんだ。俺の鎧になれってディナレに言われたんだろ、だったら俺たちと一緒にリオネングに帰ろうぜ」

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