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天国の門

「あと、5分で天国への門は閉じます。急いでくぐってください。くぐらないと、現世に残って、悪霊になってしまいますよ」
「待って、まだ彼が、来ないの。一緒に心中したはずの彼が」
「ああ、彼なら、生きていますよ。死んだのは、あなただけです」
「え、誰か、彼を助けたの?」
「いえいえ、彼は、最初から、自分は死ぬつもりはありませんでしたよ」
「まさか、一緒に心中するふりをしたと言うの」
「そういうことです。実は、彼、会社の金を横領してまして、それを会社の同僚で恋人でもあったあなたのせいにして、あなたが会社の金を横領して、それが発覚して捕まるのが嫌だから、一緒に心中してとあなたに誘われ、何とか自分だけ助かったという嘘の供述を、いま警察でしてますよ」
「私が横領?」
「そうです。あなたは何も罪を犯していません、騙されて死んだだけですので、天国の門が開かれました、あと3分です」
「私、天国には行かない」
「え? 天国に行けるのですよ」
「彼の元に行って真実を確かめたいの」
「つまり、現世に残って、彼を恨む怨霊になりたいと」
「あなたの言葉が事実なら、そうなるかしら」
「分かりました、天国に行くも行かないもあなたの自由です。あと2分」
「親切に色々と教えてくれて、ありがとう」
「後悔しませんか」
「するかも。でも、自分で真実を確かめずに天国に行く方が、絶対に後悔すると思うから」
「そうですか、あと1分・・・」
「いいわ、門を閉じても」
「では、さようなら」

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