決戦の後
……
次に目を覚ました時、わしは見知らぬ部屋のベッドで横たわっていた。
体が重いので視線だけを動かしてみると、ベッドの隣には寺川殿。懲りもせずに美容雑誌などを読んでいやがる。
そしてわしの右半身には生温かい感触。がんばって首を動かしてみれば、なぜか康高がわしと添い寝するようにすやすやと寝息を立てていた。
「ここは?」
「あら、起きた?」
「うむ。いい目覚めじゃ。んでここは?」
「天国よ。あなた、心臓刺されちゃって死んじゃったの」
「笑えぬ冗談だな。寺川殿? ここは本当にどこなのじゃ?」
「うふふ。ばれた?」
「だって康高がここにおるもん。寺川殿がついていながら、あの後わしが死んでから康高が天国に来るようなことになるなどありえん。つーか康高の涙と鼻水じゃろ、これ? めちゃめちゃぐちゃぐちゃで冷たいんだけど。でもそれがリアリティあり過ぎなんじゃよ」
「んふ! 流石ね。それで……ここはね、仙台市内の病院よ」
「そうか……じゃあわしは助かったのじゃな」
「えぇ。ぎりぎり。華代ちゃんがね。あの後もんのすごい速度でこの病院まで運んでくれたのよ」
「そうか。……あれ? じゃあ、華殿は? 勇殿もいないようじゃが……?」
「2人は……いえ、明兼ちゃんと清美ちゃんも学校あるから昨日東京に戻ったわ。ジャッカル君たちも」
「ん? ということはわし、そうとう長く寝ておったのか?」
「えぇ。心臓にちょっとだけ刃先が刺さっただけだったけど、そもそも怪我したのが心臓だもんね。緊急手術にICUでの経過観察。戦いが終わってから3日間も寝ていたのよ」
「ちょっ……待て! 3日も寝ていたのか? じゃあ、なんで康高がここに?」
「動くな! 点滴の針が取れちゃうでしょ!」
「いや、そうじゃなくて……康高は? いや、もっと大事なことがあったわ! 戦いは? あの戦いはどうなったのじゃ!?」
「え? ふっ。知りたい? ねぇ、知りたぁーいぃー?」
なんかむかつくな。じゃあいいや。
「じゃあいいわ。大方あの戦いも勝利。康高はわしから離れようとせず、ずっとここにおったのじゃろう。今は寝てるけど……多分かなりしつこくわしにしがみついていたはずじゃ。それぐらいは分かるわ」
「あはは! せいかーい! 流石ね!」
「うむ。3日も経っておるということは……戦いも終わって、頼光殿辺りが戦後処理をしてくださっておるはずじゃ。いや、信長様あたりが上手く処理して下さっておるじゃろう」
「おぉ。それもせいかーい!」
「簡単じゃ。つい先日まで敵地だったこの仙台の病院にわしがおるということは、政治の力を利用した大規模な戦後処理が行われたということじゃろ。
まぁ、この病院の周囲にもわしを守る護衛役の戦国武将の武威が散開しておるけどな」
「えぇ。今は80人態勢であなたを守っているわ。それはそうと信長様が褒めてたわよ。まさか数日でこの戦いに終止符を打つなんて。ってさ」
「むう。それは嬉しいことじゃが、わし1人の力ではどうにもならんかった。素直にわしごときに従ってくれた頼光殿のおかげじゃろう。あっ、あと三原も……あれ? そう言えば三原は?」
「ふふふ! あいつも重傷よ。相手はあの弁慶。たとえ三原といえども無事では済まなかったの。今隣の部屋で集中治療受けているわ」
「ということは……逆に……三原は勝ったのじゃな? あの弁慶を相手に?」
「えぇ。これでめでたく三原はこの国最強の称号を得た感じね。なんか腹立つわ」
いや、そこは素直に感心せぇよ。
なんで敵対心燃やしとるんじゃ……?
つーか、三原は今そんな高みに登ったのか? 凄すぎるわ。
「ほう。それはそれは……」
まぁここは適当に流しておこうぞ。今寺川殿に逆らっても、抵抗できんからな。
「じゃあ頼光殿は? あっちはどんな感じじゃ?」
「えぇ。昨日旧坂上勢力が集まって会合が行われたらしいんだけど、無事に彼が田村麻呂さんの後釜につくみたい」
「ほう、それはめでたい」
「しかもあなたとの連携は今後も継続して続けていくって。武威センサーを利用したあなたの指揮官っぷり、彼そうとう褒めてたわよ。さすがにそんな人材との関係を緩めたくはないんじゃない?」
「うむ。嬉しい誤算じゃな。では今後もあのメンバーの誰かがわしらの警護に回ると?」
「そうね。でも、今回の件であなたと康高君の幼馴染メンバーも全国に名をとどろかせたでしょ? そのおかげで明兼ちゃんたちにも政府からの護衛がつく話になっているわ」
「そうか……めっちゃ大事になっておるな。それにまだ各勢力との連携が十分ではない。これから忙しくなる。坂上殿の墓参りにもいかんとな」
「えぇ。田村麻呂さんのお墓、出雲に建てられるらしいから、今度私が連れて行ってあげるわね」
「よし、ひと段落ついたらみんなで行こうぞ。それとこの病院の屋上に頼光殿の気配があるな。呼んでくれ」
「いえ。あなた働き過ぎよ。今ぐらいはゆっくりと休みなさい」
……
……
そうか。たまにはそういうのもいいかもしれんな。せめて……せめて今ぐらいは……。
「うむ。そうじゃな。じゃあもう少し寝るわ」
「そう、いい子ね。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみなさい」
寺川殿がわしの頭を撫でながら挨拶してきたので、わしも挨拶を返しつつ――そしてわしは寺川殿に見守られながら深い眠りへと落ちた。