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俺みたいにね

 花火大会当日。
俺は家までヒロインを迎えに行った。

インターホンを押すと、家の中からドタドタと音が聞こえてきた。

そしてガチャっと玄関の扉が開いたかと思えば、花柄の浴衣姿の桜子が姿を現した。

「おぉ……。気合入ってんな。そんなに楽しみだった?」
「は、はぁ? 違うけど? バカじゃないの?」

「ごめんな、俺だけいつもの感じで」
「私だって普段着なんだけど?」

「なんだそのわけわからん嘘。まぁいいや。行こうぜ」

桜子が足を動かすたびに、からんころんと小気味いい音が鳴る。

「下駄、歩きにくくないか?」
「は? 舐めてんの? 普段から履いてるんですけど」

「いや、だからなんなんだよその嘘。意地を張りすぎて事実を捻じ曲げてるじゃん」

いつもと変わらない会話を繰り広げながら俺たちは会場を目指した。


 お祭り会場は酷く賑わっていた。
俺は迷子にならないように桜子の手を握った。

「ちょ、なにすんのよ! 離せ、このッ!」
「お前アホだから絶対迷子になるじゃん」
「あんたの方がアホでしょ!」

「お前がアホであること自体は否定できてないぞー。そういうとこがアホなんだよ。まぁいいや。嫌なら振りほどいてみろや。絶対離さねぇけどな! はっはっは!」

桜子はしばらく抵抗していたが、やがて諦めて大人しくなった。

それから俺たちは屋台を回った。
桜子は途中りんご飴を買っておいしそうに食べていた。

「俺にもひと口くれよ」
「やだ」
「ケチ」

「なんであんたなんかにくれてやんなきゃいけないのよ」
「ケチ」

「そんなに食べたかったならさっきあんたも買えばよかったじゃない」
「ケチ」

「絶対あげないからね」
「ケチ」

「どんだけ粘っても無駄」
「ケチ」

結局桜子は凄い勢いでりんご飴を食べきってしまった。

「ケチ」
「いつまで言ってんのよ……。で、次は何食べる?」
「んー。俺かき氷食いたい」
「じゃあそうしよっか」
ということでかき氷を買った。
俺はメロン味、桜子はいちご味だ。

「ほれ、やるよ」
先端がスコップのようになっているストローでかき氷をすくって差し出すと、桜子は怪訝そうな顔をした。

「なんのつもり?」
「別に。俺はお前と違ってケチじゃないってだけさ」
「しつこいわね。……あー」
桜子が食べようとした瞬間、俺はストローを手前に引いた。

「ちょっと! しょうもないことしないでよ。ほんとくだらない。バカみたい。クソが」

「かかったなバカめッ! 俺は誰よりもケチなんだよ!」
「誇らしげに言うことじゃないわよバカ」
桜子は呆れたようにため息をついた。

俺はそれを見て少し笑って、ふと思い出して言ってみた。

「ちょっと行ったとこに穴場的なとこがあるんだけど、そこ行かないか?」

「へぇ。そんなとこがあるんだ。ロクでなしのくせによく知ってるわね」
「いやロクでなしとか関係ないし」

そういうわけで、俺たちは穴場スポットに移動した。
そこは小さな公園で、会場からちょっと離れていて人気(ひとけ)は少ないが、花火が良く見える場所なのだ。

「このジャングルジムの上が特等席なんだよ」
「そうなんだ」
「下駄なんだから気をつけろよ」
「はいはい」

俺たちはジャングルジムの一番上まで登って並んで腰かけた。

ちょうどその時、会場の方から花火開始のアナウンスが聞こえてきて、それからすぐに花火が打ちあがり始めた。

「わぁ……綺麗ね」
「お前がな」
「……え、なんか言った?」
「いいや。……なあ桜子」
「なに?」

終わる予感がした。
この世界の終わり、俺たちを登場人物としたラブコメの完結。

それが今この瞬間訪れてもおかしくないという予感があった。
あと何秒あるだろうか。
気づけば俺の体は動いていた。

隣に座る桜子に対して身を乗り出すように近づく。
桜子は一瞬目を見開いて体をこわばらせたが、すぐに脱力してまぶたを閉じた。

夜空に大きな花が咲き、桜子の横顔を照らす。
徐々に桜子の顔が迫る。

そして今まさに互いの唇が触れる、寸前……俺の視界はブラックアウトした。


……。
俺は状況を悟って苦笑いした。
作者め、いいとこで終わらせやがって。

どうやらたった今、俺たちのラブコメは完結したらしい。

……ははは。
作者に反抗してばかりだったが、なんだかんだ俺もラブコメを楽しんでいたらしい。
終わってみると寂しいものだ。

この後はどんな風に展開するのだろうか。
もう完結してしまった以上、俺は読者と同じ目線で物語の行く末に想いを馳せることになってしまった。

……。
めそめそしてても仕方ないな。
最後くらいビシッと決めよう。

えー、ここまでお付き合いしてくださった読者の皆様。
作者に代わり、心から御礼申し上げます。

俺たちの拙いラブコメを見てくれてどうもありがとうございました。

そしてこれから物語を書いてみようかどうしようかと迷っているそこのあなたへ。
偉そうなことを言わせてもらおう。

自分が書いた話に自信がなくても、面白いかどうか不安でも、あなたが一生懸命書いたのなら、きっとその物語の登場人物たちはなんだかんだ言いながらもその世界を楽しんでくれる。
俺みたいに。

でも、キャラはなるべく大事にしてあげてくれ。
じゃないと言うことを聞かなくなって勝手に暴走しだすかもしれないよ。
俺みたいにね。

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