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第36話 復活の『廃帝』

「こいつが復活したおかげで……神前には迷惑をかけそうだ……こいつさえいなければ神前の野郎には平和に暮らしてもらえたのに」

 その写真の男を見る嵯峨の目つきはこれまでの眠そうなそれとは明らかに異なっていた。

 敵意と憎悪に満ちた鋭い眼光がそこにはあった。

「この男は俺達とは『力』に対する認識が違うんだ。この男は『力』は神から与えられた『権利』だと思ってる。そうじゃなくてそれは『責任』だという気持ちがあれば……みんな平和になるのに……」

 ランの目が殺気を帯びる。

「わかってる。こいつ、『廃帝ハド』は同じ力を持つアタシ達『遼州人』が倒す。こいつにはアタシ等、『力』を持つものじゃなきゃ対抗できねーからな」

 かわいらしい少女の顔に不敵な笑みが浮かんだ。

「そうだ、俺達の『廃帝誅滅』の邪魔な奴は殺して神の世界に返してやんな。『永遠に続く1984年』に住んでる『ビッグブラザー』の信者は殺して地獄に落とせ。俺達『遼州人』の『特殊な部隊』の本当の目的がそれだ」

 嵯峨の自分への視線に気づいたランは、静かにうなづいた。

「その為の『(つるぎ)の戦士』には神前がぴったりなんだ。そのために『力』に目覚めれば……そんときゃ、俺達と同じ『法術師』だ。そうなったらあいつは逃げたくても逃げられなくなる……『力』を持った責任があるからな」

 嵯峨は静かに焼酎の入った小鉢をあおった。

「アタシ等と同じ『法術師』……」

 ランの目が少し悲しみに染められた。

 そして一言つぶやいた。

「そうなりゃ、神前と俺達『特殊な部隊』の出会いは『悲しい出会い』になるな。『素敵な出会い』を求めて……人はいつも……道を誤る」

 嵯峨は目の前のいかがわしい雑誌の山を無視して語り続ける。

「俺は『力』なんて欲しくなかった。だが、その存在を知った以上責任がある。そのために俺は『生かされている』……と思う」

 嵯峨のあきらめに似たような響きの言葉が響く。ランは覚悟を決めたように静かに嵯峨に背を向けて隊長室を後にした。

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