第6話 パイセン、俺はやり遂げました。
俺たちは市島先輩に促されるまま、後ろをついていった。市島先輩は前方を見据えたまま、足早に進んでいる。長い髪をサイドでまとめ、垂らした髪の束が動くたびに揺れている。その姿は小柄ながら心丈夫な、意志の強さを感じた。
「童子山さん、あいつ、自分のこと、なんて名乗ってた?」
「名前は聞いてないですけど……僕はこの世界ではなんだってできるんだよ……とかって」
童子山は一瞬目を丸くして、そしてゆっくりと返事を紡ぎ出した。
「神様気取りか、あいつ」
童子山の回答に、市島先輩は憎々しそうに怒りのこもった言葉を投げ捨てる。
「あれは、誰なんですか?」
俺も黙っていられず、市島先輩に尋ねた。
「
「まあまあ、いいじゃない。三人とも無事だったんだから」
市島先輩の横を軽やかに歩く女子生徒が、笑顔を浮かべて言った。三人というのは、童子山の妹も含めて、か。
もう一人、一緒に歩いている男子生徒は黙っていたが、やはり笑顔を見せていた。この二人の清爽な美男美女の、おそらく先輩であろう人たちと会うのは初めてだった。市島先輩の関係者だろうか。
――校舎に入り、一階奥の生徒会室の前まで連れ立って来た時、女子の先輩が思い出したかのように告げた。
「わたし、もうそろそろバイトに行かなくちゃ。悪いけど、ここでさよならするわね」
「え? そうなの?」
「俺も、家の用事があるからそろそろ」
男子の先輩の言葉に、市島先輩が不快感を
「わたしひとりに押しつけてばっかりじゃん!」
市島先輩は、まるで子どものようにバタバタと地団駄を踏んでいた。え、先輩ってそういうキャラだったのか?
「もう、キキちゃん、
女子の先輩が、からかうように言った。その言葉に、市島先輩はさらに不機嫌になったようだ。
「なんだよなんだよ、わたしのことバカにして!」
ぷくーっと、市島先輩が
「あの、俺はどうしたら……」
と、抵抗の言葉を発するのが精一杯だった。
「新田くんも帰っていいよ、もう。童子山さんだけ残って、わたしと生徒会室で話そう」
そう言われても……だった。俺は市島先輩に頼まれて仕事をした。報酬を手にするまでこの場を離れるわけにはいかない。
「ああ、そっか。ご苦労様だったね、新田くん。これ、バイト代ね」
市島先輩はそう言って、俺に布の袋を手渡した。俺はお礼を言う余裕もなくなり、すかさず小さな布の袋をひったくり、袋の
実である。木の実なのか果実なのか、よくわからないがとにかく実である。ファンタジーの世界に登場しそうな、やたらと価値だけは高そうな正体不明の実である。
赤と青と緑がまだらに混ざり合った、毒だと言われれば信じるだろうデザインの実である。
俺は意を決して実を
やがて
冷や汗が止まらなくなり、全身の体毛が逆立つ。俺は夢中になって残った実に食らいついた。
――少し離れた場所に立っていた童子山が、まるで汚いものを見るような目で俺のことを見ていた。
(了)