第2話 そんなことより千年ウォーク。
あの童子山はどうなのだろう。俺に対する突き放したような態度は、記憶が混濁していることに戸惑っているのか、それとも元の性格なのだろうか。
――童子山、あいつはまるで
非暴力主義を信条としている俺としては、あのようなタイプとは可能な限り関わり合いたくない。
だが、これも仕事である。仕事なので仕方がないのだ。まだこれが初仕事ではあるが、こんな業務を繰り返していれば、過重労働でいつかこの世界からおさらばしかねない。
だって、告白してきた女子に殺意を向けられるんだから。もしこれがハーレム状態になって、毎日告白されるようなことになったら、三日目には確実に死んでいるに違いない。
――話がかなり
立ち位置的には俺は、適当に「やれやれ」とか言ってればいいんだろうし。
入学したばかりの俺には、まだ頼れる友人も知人もいない。童子山を見つけるための情報源など、皆無に等しい。仮に親しい生徒がいたとしても、この異常な状況をどう説明すればいいのか皆目見当もつかない。単に怖そうな女子生徒に絡まれただけではないのだ。
俺だって、
おそらく、俺と同じように息を潜め、目立たないよう学校生活を送っている者も他にいるはずだ。だけど見分けがつかない。
童子山はどうだろう。明らかに
しかし結局、童子山に関する確かな手掛かりは何一つなく、動きようがなかった。
途方に暮れて立ち止まり、次に踏み出す一手を考えていたその時、ポケットの中でスマホが唐突に震えた。画面を確認すると、俺の心の支えとも言えるお笑いコンビ『千年ウォーク』がライブ配信が始めたという通知だった。
今の俺にとって、これが唯一の
俺は慌ててポケットを探り、イヤホンを探した。だが、見つからない。焦って
「もう、なんなんなんなん!」
俺は、一時代を築いた千年ウォーク・ひらっちの伝説的ギャグを忠実に再現した。最初の「なんなん」で右を向き、手のひらを向かい合わせて上下に振る。そして左を向き、残りの「なんなん」に合わせて同じ動作を切り返す。
前の世界では、お子様からお年寄りまで誰もが知っている、まさに国民的ギャグだ。しかし、今ここで俺がひらっちの物
考えすぎると気が
気持ちを切り替えて、イヤホンを回収しに教室へ向かうことにした。校舎に入り、廊下を歩きながら「なんでこんな時に限って忘れるんだよ」と自分を責めつつ、足早に進む。教室までの道のりがやけに長く感じられる。今の俺にとって最重要なのは、千年ウォークのライブ配信だ。お笑い好きの血が沸き立っている間に、童子山のことなどすっかり頭から消え去っていた。