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持久走2

「よーい。スタート!」
体育教師の合図でみんな一斉に走り始めた。

しばらく俺は黙って淡々とグラウンドを周回していたのだが、ふと白石の方を見てみると粉雪に声を掛けながら走っていることに気づいた。

ちょっと近づいてみると、白石が粉雪にどんなことを言っているのか聞き取ることができた。

「いけるって花火ちゃん! まだまだこれからだー!」
「う、うん。はぁ……はぁ……」
粉雪は息も絶え絶えだが、白石は全然余裕そうだ。

白石たちのちょっと後ろを走りながらなんとなく様子を眺めていると、月酔が二人に近づいていった。

「花火。大丈夫か?」
「だ、大丈夫」
「頑張るのはいいが、無理はするなよ」
月酔は粉雪にそう言った。

白石はひたすら熱く鼓舞している。
「いけるぞ花火ちゃん! 我らは乙女、ダイエット戦士なりィ!」
「お、おーう……。ダイエット戦士なりぃ……」

「脚線美! あそれ脚線美!」
「脚線美ぃ……」
白石はノリノリだが、粉雪はなんとか食らいついているという感じだ。

白石の声を聞いて、今度は睡酒が寄ってきた。
「なんだか愉快な掛け声ねぇ~。私もまぜて~」
「おぉ部長! よし、それじゃあ一緒にダイエット!」
「ダイエット~。ほらほら燈花ちゃんも~」
睡酒が月酔に微笑みかけた。

「だ、ダイエット」
月酔は控えめに繰り返した。

白石がまた叫ぶ。
「脂肪燃焼ォ!」
「「「脂肪燃焼」」」
粉雪と月酔と睡酒がそれを繰り返す。

なんか段々とクラスの女子が白石たちの周りに集まり始めていた。

「脚線美!」
「「「「脚線美」」」」

白石の言葉を繰り返すやつが一人、また一人と増えている。
気づけばクラス中の女子が白石に付き従っていた。

そしてそれを追いかけるように男子軍団が後ろについている。
最後尾には何故か体育教師までもがついて来ていた。

白石の掛け声に野太い男子たちの声も混ざり、いつしか大合唱になっていた。

「プロテイン!」
「「「「「「プロテイン」」」」」」

「白飯!」
「「「「「「白飯」」」」」」

「焼肉!」
「「「「「「焼肉」」」」」」

「ネギマ!」
「「「「「「ネギマ」」」」」」

「お餅!」
「「「「「「お餅」」」」」」

「ドーナツ!」
「「「「「「ドーナツ」」」」」」

「マカロン!」
「「「「「「マカロン」」」」」」


……。
数学の授業中。

グラウンドの方から天姉の声が聞こえてきた瞬間、僕は窓の外を睨むように見た。

何をやってるんだあの姉は……。
教室中の顔が唖然としている。

多分他の教室でも同じようなことになっているだろう。

なんかめちゃくちゃ恥ずかしい。
しかも途中から欲望駄々洩れじゃないか。

けいが苦笑いしながらこちらに振り返った。
僕たちは互いに顔を見合わせてため息をついた。

余談だが、あの大合唱は普通にうるさいということで、あの授業以降禁止となった。

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