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脱出

 周囲を警戒しながら出口に向かった。
俺の勘だと、多分脱出するまでに最低あと一回はモンスターに遭遇する。
油断はできない。

俺だけならどうにでもなるが、今この場には戦意喪失しちまった新人ちゃんたちがいるのだ。

面倒だが、死なれた方がもっと面倒だからしっかりと守らなければならない。

まぁネガティブなことばかり考えるのもよくない。
こんな時だからこそポジティブなことを考えよう。

牛肉戦士の角は結構高く売れる。
宝箱の中にあった剣は売っても使ってもいい。
どちらも素敵な戦利品だ。
イェーイ。

あ、ちなみに牛肉戦士の生首は角だけ切り落としてあとは置いてきた。

ダンジョン内のモンスターの死体は一定時間が経過すると消滅する。
その前にダンジョンの外に持ち出せば消えないけど。

そして、一回ダンジョンから持ち出したものは、もう一度ダンジョンに持っていっても消えたりしない。
豆知識だ。

俺は意味の分からんことが嫌いなので、この謎のシステムも好きじゃないけど。

とかなんとか考えていると、入ってきた扉が見えてきた。

「あ、出口だ……」
俺が牛肉戦士を倒してからここまでずっと無言だったリサがようやく口を開いた。

「油断するなよ。完全に脱出するまではまだ危険地帯にいるってことを忘れるな」
リサは小さく頷いた。
なんかこいつちょっと素直になったな。

と、その時

「グォオオオ!」

牛肉戦士の雄叫びが後方から聞こえてきた。
俺は苦笑いした。

「またお前かよ」
「シ、シラネさん」
「慌てなさんなリーダー。ちゃんと守るから」

今度は出口と反対側に敵がいるので、無視して走って出口を目指すのもいいと思うかもしれないが、牛肉戦士は足が速い。

魔法攻撃してこないくせにこいつがSランクのダンジョンにいるのは、単純に身体能力が高いからだ。

俺はともかく、他の三人は絶対追いつかれる。
特にリーダーはランを背負ってるし。
だからちゃんと倒しておかなければならない。

振り返ると、俺の目前まで槍の穂先が迫っていた。
俺は咄嗟に右手の親指と中指でつまんで止めて、左の手刀で穂(刃のとこ)を切り取った。

牛肉戦士は俺から飛び退いて距離を取る。
俺は着地のタイミングに合わせて牛肉戦士の首に向かってトランプ投げのようにして穂を投げた。

それがちょうど喉仏のあたりに突き刺さり、本日二体目、牛肉戦士を倒した。

俺は戦利品である角を回収してから三人の元へ戻ろうとしたのだが、
「きゃあぁああ!」
急にランが叫んで、リーダーの背から滑り落ちると、出口に向かって走り出した。

「ラン! 待って!」
リサが追いかける。

俺は黙って見送った。
多分俺のことが怖すぎて逃げ出したのだろう。
俺が追いかけるのは逆効果だ。
二人は無事隠しダンジョンから脱出した。

まぁCランクのダンジョンも二人からすればそこそこ危ないかもしれないが、命の危険があるってほどじゃないし、とりあえず放っといても大丈夫だろう。

「で、あんたは追いかけないのか?」
俺は突っ立っているリーダーに訊いた。
リーダーは神妙な面持ちで俺の顔を見た。

「シラネさんにお尋ねしたいことがあります」

「答えられることなら答えるよ。まぁその前にここから脱出するのが先だけど」
「……ですね」
俺たちはすぐそこの出口まで早足気味に向かった。


 隠しダンジョンへの扉を閉じると、そこは壁と同化して扉は見えなくなった。
俺は壁に印をつけて扉の場所を覚えた。

「ここも一応ダンジョン内ではあるけど、どうする。今話すか?」
「はい。今話したいです」
「じゃあ出口を目指しながら話すか」
俺たちは一応周りに気を配りながら歩き出した。

「それで、俺に訊きたいことって?」
「シラネさんの前パーティーのランクはBでしたよね」
「そうだな」

ダンジョンと同様に、パーティーにもランクがある。
冒険者一人ひとりにもあるけど。

「冒険者は自分自身や所属しているパーティーのランク以下のダンジョンにしか入れないことは知ってますよね?」
「ああ」

つまり、BランクのパーティーはBとかCとかそれより下のランクのダンジョンには入れるが、AやSのダンジョンには入ることが許されていないということだ。

「でも……さっきのシラネさんの様子を見るに、どう考えても入ったことありますよね。Sランクのダンジョン」
「まあな」
リーダーは不安げに俺の顔を見た。

「シラネさんは冒険者になってすぐにあのパーティーに入ったとお聞きしました」
「その通り」

「だったら……本来Sランクのダンジョンには入ったことがあるはずないですよね」

「規則に則るなら、確かに俺があんなとこに入るのはおかしいな」

俺個人のランクはB。
これより上のランクだったことはない。

だから俺がAとかSとかのランクのダンジョンに入るのは本来あってはならないことなのだ。

リーダーが真剣な表情で訊いてきた。
「どういうことなんですか? シラネさんは一体……何者なんですか?」
「……俺は」

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