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上洛の伍


 訓練が始まった。
 んで、開始から2時間ぐらい経っておる。
 夏のお日様はまだまだ高いところにいるけど……。

 あのね。めっちゃしんどいわ。

 ゆーても、それほどじゃなかろう?
 とか思って甘く見ていたけど実際に武威を放ちながら読経すると、目の前がぐるんぐるん回るどころか、2つの力で内臓をごろんごろん掻き混ぜられておるみたいなんじゃ。

 最初の頃はもって20秒。
 2時間経った今のわしの最長記録は22秒だけど、5秒の時もあれば10秒の時もあるし、1秒もたずに膝をつく時もある。

 法威と反発する武威についても、弾けるように消えたり、静かにしぼんだり。または体からすーっと抜け出たり……。
 そこら辺のパターンもいまいち掴めん。

 お経の種類も色々試してみたけど、悲しいことにタイヤやホイールのメーカー名を口ずさんでる時が、一番耐久時間が長いような気がする。
 わしの神って何なんだろうな?

 そんでそんなわしの右前方、10メートルぐらい離れた所には勇殿じゃ。
 勇殿はまだ武威に目覚めておらんから、黙々とお経を唱えておるだけじゃ。
 だけどやはり勇殿の体の奥底深くには、武威の源が存在しておるのじゃろう。
 たまにふらって倒れて、頭から砂利に突っ込もうとするので、新田殿に頼んで座布団を用意してもらい、勇殿にはその上に座らせておる。
 でも昔って10歳でもお経をそらで言えるぐらいに毎日読まされておったから、勇殿もなかなかしっかり読経しておるわ。

 んで、やっぱり問題は華殿じゃ。

「ぎゃーーーーーぁ……あがぁーーーあ……がーーー……! げほっ! ぐわーーー! ぐるるぅぅーー……げーごぉーーーがーーぁあぁがぁーー!」

 もうね、怖すぎるわ。
 これ見てると新田殿がさっき言ってた“天使と悪魔”って例え、言い得て妙じゃな。
 華殿の体内で双方が激しい戦いをしておる。そんな感じじゃ。
 そんなぎりぎりまで自分を追い込まんでもいいと思うんだけどな。

 でも華殿はこの叫びをするのも3分に1回ぐらいじゃ。
 間に30秒ぐらいのインターバルをおいているから、単純に2分半の読経を続けることができておる。
 そう考えると、華殿がこの中で1番のエリートじゃ。
 まぁ、華殿は元から武威が強い設定だから当然っちゃ当然なんだけどな。

「はぁはぁ……くそ。もう少し……あともう少しで掴めそうなのに……」

 台詞はかっこいいけど、華殿? 今日明日ぐらいじゃ、おそらくなにも掴めんぞ?

 いや、華殿のことを観察しておる場合ではない。
 わしもそろそろ集中し直そう。
 この訓練、法威の存在を認識するための作業で、あくまで第1段階とのことじゃ。
 別に長い時間耐えよというわけでもなく、コツさえつかめば後は武威が切れるまで半永久的に続けられるらしい。
 もちろんこんなもんを極めたぐらいじゃ、強くなれるとは思わん。

 ふと見れば、寺川殿と三原の聖戦は幕を閉じ、寺川殿は本堂の外廊下にだらしなく横たわりながらこちらを眺めておる。
 あれ? 三原は?
 と思ったら三原はお墓エリアの方に移動し、墓石と墓石の間の通路をせっせと掃除しておった。

 この差はなんなんじゃろうな。

 まぁよい。
 何事も1歩から。
 第1歩からが重要なのじゃ。

 じゃあ次は……あれじゃな。

「………………………………」

 わしは前世で帰依していた宗派のお経をブツブツとつぶやく。
 同時に武威を発動し、小さなわしの体に纏わせた。

「はぁはぁ……はぁ……ふーう」

 今回は10秒ちょい。
 相変わらず先が見えん。

 でも、忌みなる力っていっても、武威は前世の戦場でひっきりなしに使っておったものじゃ。
 わしとしてはそんなに悪いイメージはない。
 ちょっと可愛い“じゃじゃ馬”って感じじゃな。

 生け捕りにしようとしていた敵に対し、予想以上に鋭い斬撃をしちゃってとどめを刺しちゃったり。または敵から受ける攻撃を武威で防ごうとした時に急に武威がしぼんで大怪我したり。
 油断してるとそういうことがあるけど、武威はあくまでわしの体に備わる、わしの意思に従う能力なんじゃ。

 しかも、わしは噂に名高い“後方支援専属武将”じゃ。
 豊臣家の軍力が充実してくると、わしの主な役割は各軍の連携と物資運搬、あと後詰の兵力の投入管理になっておった。
 だから武威のじゃじゃ馬っぷりに足元をすくわれるような状況も、他の武将に比べて比較的少なかった。
 わしが武威に対して、悪いイメージを持つはずもないのじゃ。

 もちろん武威使いのわしがそんな後方でもしっかりと活躍できるように、その頃のわしは、それはそれは知的でクリエィティブでクレバーな武威の使い方を……

 ……ん?

 そうじゃ!
 物は試し。ここはわしら以外に人気のない山の中だし、あれをやってみよう!
 東京の一軒家城では絶対にできないやつだけど、今ならあれをやってもいいはずじゃ!

「ふん!」

 わしは気合いの入った声を一言吐き、体に纏っていた武威を広げる。
 うすーく均一に。
 他の武威使いでも気付くことができないぐらい存在感の薄い武威を広範囲に広げるのが、わしの特技じゃ。
 前世のわしは決して武威使いの上位におったわけではないけど、他の武威使いには決してまねのできないとっておきの技なのじゃ!

「光成? これ、お前の仕業か?」

 んでわしが武威を広げた瞬間背後の砂利が音を立て、三原の気配がそこに移動していた。

 おいおい! 待ってくれ!
 三原? おぬし今の今まで墓場の掃除しておったじゃろ?
 50メートルぐらい離れてたはずなのに、なんでわしの後ろに立っているんじゃ?
 じゃなくて、百歩譲って目にもとまらぬおぬしの動きはわかったから!
 なんでわざわざわしの背後に立つ必要あるんじゃ!
 別に敵同士ってわけじゃないし、わしの前に来ればよかろう!

「ん? お前じゃないのか?」

 あとさァ!
 わしのとっておきの技、簡単に見破んなよ!
 これ、誰にも見破ることができないわしの特技なんだけど!

 ふーう……ふーう……。

 くっそ。

 こやつ、本当に武威の達人じゃ。
 強いだけじゃなくて、頭もいいし策略戦も上手い。
 もし三原が戦国の世に生まれておったら、多分天下を取っておったはず。
 それぐらいの人材じゃ。

 あぁ……こんな奴にこんな動き見せられたら、自信無くすわ……。

「そうじゃ……」
「ほう。なかなかに面白い武威の使い方だな。お前、こんなことできたのか?」
「あぁ」
「ん? どうした? 疲れたのか?」
「いや……」
「じゃあ教えろよ。これ、何の意味があるんだ?」
「これは……離れた所にいる武威使いを見つけ出す技じゃ」
「ほうほう」
「わしの特技じゃ。前線より少し引いたところでこれを広げれば、敵味方の武威使いの場所と強さが分かって、全体的な戦況把握ができるんじゃ」
「おー! いいなそれ! どれぐらいの広さまで分かるんだ?」

 三原のテンションが若干ウザいな。
 でもこんなにウキウキしてる三原も初めて見たわ。
 武威関係のことだと、こんなにテンション上げるもんなんだな。
 やっぱこやつも戦いの中に生きる者だったということか。

 でもやっぱちょっとウザいわ。

「全盛期で半径10キロぐらいじゃな」
「おぉっ! それだけ広けりゃ1つの戦場まるまるカバーできるじゃねぇか! なんだよ、お前! なんで今まで言わなかったんだよ!」
「人が密集してる東京でこれやると、失敗した時にわしの位置がばれる。だから今までしなかっただけじゃ。別に隠したつもりもない」
「そうかそうか! でも、これだけ武威を薄く張れるなんて! お前、武威の話になるといつも自分のこと低く言ってるくせに、やるじゃねぇか!」

 そして三原に背中をぽんぽんと叩かれるわし。
 これ、わし自慢の隠し技だから絶対に誰にも気づかれないはずなのに、なんで三原にばれたんじゃ?

 もちろん勇殿も華殿も、わしらの会話の意味を理解できずにぼーっとこっちを見ておる。
 寺川殿ですら寝っ転がったまま動いておらんから、これには気付いていないのじゃ。
 それをこうもたやすく暴きおって……しかもわしがこれまで見た動きの中でも最速なんじゃないかってぐらいのスピードで接近しやがって。

 なんかもう渾身のストレートを軽々とホームランされたのに、「お前、いい直球持ってるな!」って言われた感じじゃ。

 やばい。三原に褒められれば褒められるほど、ほんとに凹んできた……。

「み、三原? なんで分かったんじゃ?」
「ん? あぁ……まぁ、俺は本当に強いからな。武威の扱いだって、日本で一番上手いという自信もある。でも、お前のこれもなかなかのもんだぞ! そこらへんの武威使いじゃこれに気づけないだろうし、多分日本で五指に入るレベルの使い手でも察知できないだろうな。光成? 胸張っていいからな!」

 三原は最後に再びわしの肩をぺしぺし叩き、“ふっ”っと消えて、元居た場所に戻った。
 三原が踏ん張った足元の砂利が小さな地雷が爆発したような音を立て、急激な圧力で破裂した石の破片がわしの脛のあたりにめっちゃ当たったわ。

「いったぁ……」

 見れば右脚のすねの部分に小さな傷が4、5か所できておる。
 ちっくしょう。こんな傷すぐに治るだろうし、蚊に刺された方が遥かに厄介なくらいだけど、こういう点でも周りに配慮するのが本当の侍魂じゃろうがよ!

「くっそ……脛は弁慶さんの泣き所――義仲のくせにそんなことも知らんのか……?」

 少しだけ恨めしい瞳で遠くに行った三原を睨み、脛をさする。
 すると三原と入れ替わる形で勇殿が話しかけてきた。

「大丈夫? 僕、絆創膏貰ってこようか?」
「うん。これぐらい平気だよ」
「そう……ならいいけど。なに話してたの? 光君、なんかやってたの?」

 うーむ。
 さてどうしよう。

 あれはわし独自の技だからそれを勇殿に教えると、勇殿がわしの素性に気づく可能性もある。
 豊臣配下の武将のほとんどはわしのこの特技を知っておったからな。
 もちろん一時的に豊臣の傘下に下った徳川勢にも知られておるんじゃ。

 勇殿の前世は誰だったのか……?

 うーむ。

 いや、この修行中はお互いのことを調べるのはご法度だし、勇殿に気づかせて余計な気遣いさせるのも心苦しい。
 ここは1つ、上手く誤魔化すしかあるまいて。

「うーん。ちょっとしたテクニック……みたいな感じかな。でも、三原コーチに説明したけど、あんまり理解してくれなかったっぽい。すっごい褒められたけど、あの人多分なにも分かってないんじゃないかな。勇君にも説明しづらいんだよねぇ」

 すまぬ、三原。
 直接詫びる気はないけど、ほんとすまん。

「ふーん。それなら教えてくれなくてもいいよ。でもすごいね。光君、武威ってやつをそんなに上手く使えるの?」
「うーん……使えるっちゃ使えるけど……でも……」

 わしはここで華殿を指差した。

「ぐぉーーえぇぇえ……ぶろーーーぉーーーあおう……ずびゅーーーー……べぇぇーーーえぇ」

「華ちゃん。今はあんなんだけど、華ちゃんの方が武威の扱い方上手いと思うよ」
「やっぱりそうなんだ。すごいね、華ちゃん……怖いけど」
「うん、怖いね」
「そうだね。怖いよね」

 ……

 いかんいかん!
 勇殿と喋ってるとこういう雰囲気になってしまうんじゃ!
 今は修行中じゃ!
 のんびりと世間話してる場合じゃない!

「勇君? どんな感じ?」
「うーん……よくわかんない。第一、僕まだ武威ってやつに目覚めてないから……」

 まぁ、そうじゃろうな。

「でも、お経唱えてるとたまに急に眠くなるんだ。居眠りじゃないよ? ほんとにいきなり眠くなるの」

 世間ではそれを失神というんじゃ。
 でも、やっぱり勇殿の体の中には武威の芽が確かに存在するということじゃ。
 さっきわしが特技を試した時も、勇殿の位置からかすかな武威の反応があった。
 まぁ、その隣ででっけぇ武威を暴れさせてるやつがいたけどさ。

 昔国営放送でやってた“寝れない現代人”で、おねえさんが言っておったのじゃ。
 自律神経が狂うと、生活リズムも狂うことがあって、昼間にいきなり眠くなったりするらしい。
 勇殿は体の奥底深くに武威を持ちながら、それをまだ覚醒させておらん。
 だから体が武威の荒ぶりにまったく抵抗できず、内分泌系が異常をきたすのじゃろう。
 武威の荒ぶりに慣れたわしですらあの様じゃ。
 勇殿が一瞬で意識を失うのも仕方のないことなのじゃ。

 ……じゃなくて、そういえばさっきのわし、物の試しに特技を発動させながら読経してみようと思ってたんだった。
 三原の乱入ですっかり忘れてたわ。

 まぁいっか。
 なんかもう休憩モード入っちゃったから、休憩がてらちょっとだけ勇殿と喋っていよう。

「うん。勇君、完全に意識失ってるよね。でも大丈夫? 苦しかったり気持ち悪くなったりしない?」
「全然。逆に目が覚めた時、すごいすっきりしてるもん。毎回起こしてくれてありがとうね!」
「あはは! 大丈夫そうでよかった!」
「うん。大丈夫!」
「そのうち武威が覚醒したら、なおさら大丈夫になるよ! 勇君? 今は次の段階に行きようがないから、しばらく我慢してお経読み続けようね」
「うん、我慢我慢! 僕頑張るっ!」

 その時、叫び声の後に地面に突っ伏していた華殿がむくりと起き上った。
 そして息を切らしながら、こちらに近づいてきた。
 さすれば華殿も交えての作戦会議じゃな。

「うぅー。全然わっかんないよぅ……」

 そりゃそうじゃ。
 でも不機嫌そうにほっぺをぷくーって膨らましてる華殿が康高に似てて、なかなか可愛いぞ。

「先は長そうだね。僕なんて武威に目覚めていないから、始まってもいないし」
「そうだね。僕も全然修行の手ごたえない。華ちゃんがそんなに苦労してんだったら、僕らはもっと苦労するのかもね」
「うー。そんなもんなのかなぁ……ところでさっき三原コーチが来てたけど、光君なに話してたの? 秘密の話?」
「いや、さっき勇君にも言ったんだけど、ちょっとしたテクニックの話してただけ。でも法威とは関係ないから、今必要な話じゃないよ」
「おっ! なにそれなにそれ? 教えて教えて?」
「えぇ? 華ちゃんに教えても、本当に意味無いと思うよ。いいの?」
「うんうん!」

 さてどうするか。
 話の流れで逃げれなくなっちゃったわ。
 でも、よくよく考えたらこの2人はまだ前世の記憶が幼いままじゃ。
 この歳で戦場の武威使いたちの情報に精通しておったわけでもないだろうし、わしの特技のすべてとは言わないまでも、その一部をちょっとだけ教えるぐらいならいいのかもな。

「こう、こうやって……」

 なのでわしは武威を発動し、体に纏う武威を厚くした。
 でも武威の存在感を薄めることはしていないし、数キロメートルという広範囲に広げることもしない。
 体の周りの武威の量をちょっと増やしただけじゃ。

「おぉ!」

 勇殿は何が起きたか分かってないけど、華殿はわしと同じく武威を操れるので、わしの武威の変化にもしっかりと気付いた。
 挙句、両手を上げて驚いておるのじゃ。
 まさかこの21世紀の世において、こんなリアクションが見れるとは思わなかった。
 さすが華殿じゃ。

「まっ、それだけなんだけどね。でも華ちゃんも本気になればこれぐらいの量出るんじゃない? でも、体から遠くなるにつれて武威が薄くならないように、武威を均一にするの。わかった?」
「う、うん。行くよ?」
「はーなちゃーん! がんばっがんばっ!」

 勇殿の突然の応援ソングに背を押され、華殿が両脚を肩幅に広げる。
 真剣な表情で唸り始めた。

 あと、関係ないけど遠くの方から寺川殿のいびきが聞こえてきたわ。
 もう寺川殿は東京に戻ってくれてもいいような気がする。

「ぬぉぉおぉぉおおぉおぉぉおぉ」

 おなごとしては絶対に出してはいけない類の声をあげ、その声の伝わりとともに破壊の空間が広がっていく。
 うるさかったセミさんが声をひそめ、遠くの方で鳥さんたちが慌てて飛び立った。

 て……天災じゃ。
 災害レベルの破壊の源が目の前におる。

「はぁはぁはぁはぁ……ダメだね。均一にできないや……」

 いや、そうじゃなくて……そんなことはどうでもいいんじゃ。
 武威の範囲だけでおよそ20メートル。
 この状態で蹴りを入れたなら、山そのものが吹っ飛ぶぐらいの破壊力じゃ。
 いやそれは言いすぎかもしれんけど、最低でも50メートル大のクレーターが出来上がる。
 そんな武威じゃ。そんな武威を華殿が放ちおった。

 んでそれを間近で見たわし――破壊の空間の中心近くにおったわしはあまりの絶望感に、正直ここで死ぬと錯覚してしまったぐらいじゃし、武威に目覚めておらん勇殿でさえ異変を察知して怯え、ついでにもう1回気を失ってしまった。
 なのでわしは失神して沈み込む勇殿の体を慌てて支え、ゆっさゆっさと揺する。
 2秒ほどして勇殿が「はっ!」っと叫びながら目を覚ました。

「ゆ、勇君!? 大丈夫?」
「はぁはぁ……う、うん。大丈夫」

 ふーう。勇殿が脂汗べっとりの顔で意識を戻したけど、これで一安心じゃ。
 でも……うーむ。新田殿は華殿になんてことをしてくれたんじゃ?
 これ、オプションなんて言葉で片付けられるもんじゃないぞ。

 人類皆平等。
 そんな言葉があほらしくなるぐらい、華殿はこの世に生きるありとあらゆる人間の上位に位置しておる。
 3段ぐらい上の位置じゃ。
 いや、華殿が老衰で死ぬ頃には、本当に“武神”と呼ばれるであろう。
 そういう武威が華殿の身に仕込まれておる。
 わしの神はどうやらそこらへんの車の足元にもれなくついておるっぽいけど、世間一般でいう“神様”というものになれる逸材なのじゃ。

 そうだ! 寺川殿?
 いじめとかそんなこと言っておる場合じゃないぞ。
 華殿に嫌なことがあったら、それが原因で国1つ滅んでもおかしくない。
 華殿には国をあげてご機嫌伺いするべきじゃ!

 あと、こんな量の武、遊び半分で制御なんでできるわけがないから、普段の華殿はわしらの想像以上に武威の制御に気を使っておる!
 褒めてやるべきじゃ。華殿の事を褒めてやるべきなんじゃあ!

「ぐがーーー……ぐがーーーー……」

 寺川殿なんて、永久に寝てろ!

「どうした? 何があった?」

 んで今わしらが唯一頼れる大人、三原の再登場じゃ。

「はぁはぁ……今、光君の真似してみたんだけど……上手くいかなかったみたい……。三原コーチ? これ、なんかコツとかってあるの?」
「ん? うーん。いや……それは多分、宇多には無理だ。光成の個性みたいなもんだから」
「僕はー? 僕はー?」
「うん。小谷? 俺の話、聞いていたか? 光成以外無理だって」
「……そうなんだ……」

 いやいやいやいや。
 勇殿、凹みすぎじゃ!

「でも、勇君は勇君で勇君だけの特技があるかもしれないよ。その前に武威に目覚めないとね。あといつ武威に目覚めてもいいように、今は法威の修行しよ?」
「……う、うん。そう、そうだね! ありがと、光君!」

「どうでもいいけど、お前ら法威の修行してたんじゃなかったのか? なにしてんだ?」
「あ!」
「あ!」
「あ!」

 その後、本来の目的を取り戻したわしらは再びそれぞれ距離をとり、修業を再開する。

「あっ、できた……」

 30秒後。
 わしが特技を発動しながら読経してみたら、割と簡単に法威に目覚めることができた。


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