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決戦の伍



 幼稚園の城門の前で、わしは三原の小脇から降ろされた。

「着いたぞ。じゃあまたな」
「応。重ね重ね恩に着るぞ」

 別れを告げる三原に頭を下げ、感謝の意を伝える。
 三原も軽く手を挙げ、わしの言に応えた。

 これで悪魔の化身とはおさらば。

 と思ったのも束の間。別れ際に三原が予想せぬことを言ってきおったわ。

「あっ。お前、野球に興味あるか?」
「大好きじゃ」
「じゃあお前が小学校の4年生になったら俺のチームに入れ。俺、少年野球のコーチしてるから。まぁお前だったら特別に3年生の時点で入部させてやるけどな」

 ……

 おっと! 珍妙過ぎてスルーするところじゃったわ!
 なになにっ!?
 5歳のわっぱにひざ蹴りを入れるようなやつが、わっぱに野球を教えておるじゃと?
 しかもよりによって他のスポーツより教育的意味合いの強い野球じゃと?
 どんな殺人鬼の卵たちが育っておるのじゃ、そのチームは!?
 絶対入るか、そんなもん!

 百歩譲ってわし自身も将来そういうものに入ってみたいとかうっすら思っておったけど、貴様のような輩が師事するチームになど絶対入るかッ!
 あと面白そうだからその話をもっと詳しく聞きたいけど、今はそれどころじゃないのじゃ!

「か……考えておく……」
「いや、お前はさっき野球が好きだと言った。もう逃がさねぇよ。俺から逃げ切れると思わないほうがいい。それはわかってるだろ?
 じゃあな」

 最後にストーカーのような言を残し、三原は姿を消した。

 くそ、目をつけられた……。
 まいっか。後で考えよう。

 気を取り直して前を見れば、いつも通うておる幼稚園。
 でも夜の帳(とばり)が下がっておると、いつもとはいささか雰囲気が違うな。
 わしは学校に参陣したことはないけど、夜の学校に忍び込むワクワク感とは今わしが感じておるものと似た感覚なのじゃろうな。
 まぁ、今もいくつかの部屋に明かりが灯っておるから、ワクワク感は多少かき消されてしまっておるけど。

 この明かりのうちの1つが、わしの目指しておるPTAの臨時総会の会場じゃ。
 おそら、総会ともなれば相当な数の父兄が参加するだろうから、場所は室内運動場か多目的ホール。
 だけど多目的ホールはひまわり軍の足軽組拠点のさらに奥にあるから、あんまり行きたくはない。
 まぁ、そんなわがまま言っても仕方ないけどさ。

 まず向かうは教員室。それから総会の開かれておる部屋。
 温和な解決を望む――いや、わしらが耐え忍ぶだけの温和な“結末”のみを望む寺川殿なら、わしの撮影した重要なデータを隠ぺいしかねない。
 だからわしは先にそれを手に入れる必要があるのじゃ。
 寺川殿の中身がねね様といえども今回ばかりはすまん。
 意に沿ぐうことはできんのじゃ。

「よし」

 こぶしを握りながら、わしは半分だけ開いた城門を通過し玄関へと走る。
 いつもと違い、わっぱ用の玄関は大人用の草履が幾十も並んでおり、その向こうにはスリッパという簡易型の内草履がわずかに並んでおるのも目に入った。
 やはりかなりの数の父兄が参加しておるらしい。

「とう!」

 それらを軽い身のこなしで飛び越え、わし専用の下駄箱へ。
 いつものように外草履と内草履を履き替える。
 あとこの時間は廊下を走っても怒られないだろうと思うので、内草履の装着を確認したわしは再び走り出すことにした。

 次の瞬間、大きな声が廊下に響いた。

「こいつ! 篤弘(あつひろ)君に逆らったやつだ! みんなぁ! 敵が出たぞーぅ!」

 びっくりした!
 でも“篤弘”って誰じゃろう?
 あっ、由香殿の兄上の名前だったっけ?

 じゃなくて、廊下を歩いていたわっぱがわしの姿を見た瞬間、背後に向かって大きく叫んだのじゃ。
 そんでその背後。廊下を20メートルほど隔てたところにいた別のわっぱがさらに後方に似たような言を叫ぶ。

 まるで狼煙伝達の手法じゃな。山頂で狼煙を上げ、それを隣の山の山頂に待機した別の兵が真似ることで、敵軍の動きを拠点の城まで速やかに届ける。
 みたいな。
 わっぱとしてはなかなかの伝達手法を用いておる。

 そんでその叫びが遠く離れた室内運動場まで伝わり、扉からわっぱがわらわらと出てきた。

 いやいやいやいや。
 まて、おかしいじゃろ。
 まずさ、なんでこの時間にこんな人数のわっぱがおるのじゃ?
 PTAの会合の時にはわっぱの同伴も可。
 んで父兄と同伴したわっぱは、会合が終わるまで幼稚園の別室にて遊びながら待つ。
 ――なんていう習わしはなかったじゃろう?

 たまに華殿がご両親の都合によってPTAの会合に同行したりしておるけど、普通総会だからといってこれだけの人数が父兄に同伴するか?
 現にわしも勇殿もこの会合のことなど聞いておらんかったし、会合があるからといって母上から「一緒に来る?」などと提案されたことも一度もない。

 しかもそのほとんどがひまわり軍のわっぱじゃ。
 数えてみると……いや、正確な数を計るのも不可能じゃ。
 ひまわり軍の1組と2組の混合軍で、数は40ぐらいか。

 この幼稚園は1つの足軽組が25人前後の編成で、それが学年ごとに2組。ひまわり軍、ばら軍、そしてもも軍が各々50ぐらいの手勢で組織されておる。
 つまりひまわり軍のうち8割にのぼる軍勢が目の前に集結されておるのじゃ。
 総会というからには総数の9割近い父兄が参陣しておると見るが、そのさらに9割近くがわっぱを連れてきたということになる。

 あり得ないじゃろ!
 なんでさも当然のようにわっぱを連れて来てんじゃ!

 ……いや、この軍勢は意図的に用意されたものなのかも知れん。
 父上が言っておられた、PTA幹部の気持ちの悪い連帯感。

“総会が終わったら、皆さんでお食事会しますよ!
 これは子供がよりより環境で育つために必要なことですので、できる限り参加してください!
 お子さんの世話が心配な方も総会の間は幼稚園の先生が面倒見てくれますし、その後のお食事会に同伴してもらっても大丈夫です!”

 みたいな文言で収集を募っておったならば、よほどの事情じゃない限り辞退する父兄はおるまい。

 もしそれを断ったら仲間外れにされる。
 親だけではなく子供までな。
 それがママ友じゃ。
 “できる限り”とか言いつつも、その意味が“冠婚葬祭以外認めない”という強制参加方式に変わるのが、ママ友なのじゃ!

 そんでやつらは今現在、わしのことを敵方の侵入者と見なしておる。
 わしとしてはそれっぽく「曲者じゃー! であえーであえー!」とか叫んでくれた方が、侵入者としてのわしの意気込みも増すけど、そんなわしの想い、今はどうでもいいな。

 おそらく今ここにいるのがわしじゃなくて勇殿やジャッカル殿だったとしても、やつらは似たような反応を示したはずじゃ。
 そう考えるとやつらはわしらをPTAの総会に乱入させないように、ばら軍向けの警戒態勢を敷いていたと考えるのが普通じゃ。

 でも相手はただのわっぱの集団じゃ。
 PTAの間でここ最近やり取りされてきた大人同士の戦いの意味を、これだけの数のわっぱが皆しっかりと理解するなど無理だろうし、わしがPTAの総会に乱入したことによる影響も正確に予測できるとは思えない。
 なのにわしの動きを阻むこの真剣な警戒態勢。違和感マックスじゃ。

 おそらくは、由香殿の母上か祖父。または役員会の誰か。
 その誰かがこのような高レベルな索敵陣形をわっぱに仕込んだ。
 特にその動きをばら軍側の人間にばれないようにしつつ、こんな幼いわっぱにこれだけ見事な動きをさせるあたりがあっぱれじゃ。
 これを仕込んだやつは、なかなかに有能なやつじゃろうて。

 とやつらに包囲されるのを嫌い、わしが後方の下駄箱まで移動しながら思考しておったら、1人の大人が廊下に姿を現した。
 ばら軍の足軽組拠点が並ぶ廊下。それら拠点の向こう側にある室内運動場まで行く途中にある丁字路から、そやつは姿を現したのじゃ。

 ひまわり軍のばばあ先生殿じゃ。

「まぁ、またあなたなの!? てっきり入院してると思ったのに! まぁいいわ。会議の間、あなたたちばら組の生徒は教室に閉じ込めておかないと!
 あなたも他の子と一緒に、ばら2組の教室でおとなしく教室で遊んでいるのよ! 出るのも許さないわ! さぁ、みんな。あの子を捕まえなさい!」

 なんてわっかりやすい……。

 京都陰陽師の諸君。先に謝っておこう。
 ラスボスは貴兄らではない。このばばあじゃった。
 今のわしにとって完全にこやつがラスボスじゃ。
 あとその背後に由香殿とその兄一味がおる。完全に共犯者じゃ。
 それと他の友軍はすでに我が拠点にて監禁中らしい。
 耳を疑うぐらいの事件じゃな。

 でも昨日わしのことを殴っただけに、やつも保身に必死なのじゃろう。
 それゆえ、わしらが会合に入り込まないようひまわり軍のわっぱたちにこのような警戒網を下知した。
 わっぱにもかかわらずこれだけの連携。出来の良過ぎる索敵陣形に加え、ばら軍の父兄に気づかせない完璧な情報隠匿。
 でもそれを下知したのが幼稚園教諭であるこのばばあなら納得じゃ。
 昼間のうちにじっくり時間をかけて思う存分説明できるだろうし、わっぱ相手に難しいことをわかりやすく説明するなど、こやつにとっては造作もない。

 さて……
 ばばあの掛け声を合図に、見渡す限りのわっぱたちがわしめがけて突撃してきた。

 まずはばら軍の下駄箱に挟まれた通路をこちらに直進してくるわっぱが5人ほど。
 あと左右の通路から下駄箱を乗り越える形でわしとの距離を詰めようとするわっぱが、左右合わせて10人ほど。
 少し遅れて、玄関の扉側まで下駄箱を迂回したわっぱが後方から迫ってきよる。

 ゾンビ系のホラー映画みたいじゃな。
 コモドドラゴンさんのようにわらわらとわしに迫りくるゾンビたち。生き残りをかけて抵抗する主人公のわし。
 ――みたいな!
 そう考えると……やばい! 楽しくなってきた!

「お化けども! かかってこい!」

 思わぬスリルに興奮しつつ、わしは叫びながら周りを見渡す。
 右手側の下駄箱によじ登っておったわっぱに攻撃を仕掛け、そやつを落としつつ下駄箱の上を占拠した。

 戦は高いところから。
 戦術の鉄則じゃ。

 でもひとえに“高地の利”と言っても、今は下り坂をかける勢いを軍勢の突撃力に利用するような状況でもないし、騎馬の上から徒歩の敵を攻撃するような状況でもない。
 今わしはそういう手勢を用いた集団戦はしておらんし、薙刀や槍も手にしておらんからじゃ。
 でも囲まれて取り押さえられるのを防ぎつつ、下駄箱の上に上がろうとするわっぱの手を踏み潰すことで敵の戦意を削ぐためにはこれしかない。

 あとはやつらのおててを踏むのみ。
 踏んで踏んで踏みつけまくるのみ。
 わっぱの体は痛みに弱いから、わしに手を踏まれただけで戦意を喪失し、床にうずくまって泣き始めるのじゃ。
 道端のアリさんを踏みつぶしているみたいだけど、敵の数が減るまではこれしかなかろう。

「えい! えい! えい!」

 わしは地団太を踏むような動きで、下駄箱の上ににょきにょきと湧き出る敵の手を踏みつけ続けた。

 でもこの戦法を長く続けることはできないのも事実じゃ。
 現に十数秒に1回ぐらいの頻度で、下駄箱の上に登ることに成功するわっぱもおる。
 まぁ、そういうのは逐一わしが蹴り落としておるがな。
 このパターンで敵軍勢を全て駆逐することなど到底無理なのじゃ。

「うーん……さて……?」

 さすれば狙うべきは大将の頭。
 それしかあるまい。
 でもばばあは敵陣の後方からこの戦いを見ておる。抵抗するわしを腕を組みながら見てるだけじゃ。
 くっそ、腹立つ!

「僕に暴力振るったことを隠すなんて、先生としてあり得ない! 辞職すんのが普通じゃん!
 お前みたいなばばあなんて辞めちゃえ! あっ、でも旦那さんと離婚したから、仕事辞めたら生活できないね!
 いい歳して園長先生と不倫なんて、頭の中は盛りのついたわんわん以下なんだろうね!」

 ちなみにばばあの離婚原因など知らん。
 園長先生との関係などなおさら知らん。知りたくもない。
 これは挑発じゃ。
 ばばあの冷静さを失わせ、わしに接近するように仕組んだのじゃ。
 やつがこの挑発に乗れば、直にやつと戦えよう。

 ついでに今のわしの言を聞いたわっぱたちが、後日それぞれの両親に不倫とは何かを聞いたりしたらさぞ面白いことになろうぞ!
 と思っただけで口にした戯言じゃ!

 そんでわしの思惑通りに、それを聞いたばばあが血相変えて動き出した。

「むぎゃーー!」

 おーう。「むぎゃー」と叫ぶ人間を初めて見たな。
 でも鬼の形相と合わせると、意外と怖いな。
 んで話逸れるけど、まさかこのタイミングで三原との遭遇に感謝するとは思わんかった。

 運のいいことに、わしはここに来る途中三原と会うておる。
 そんでわしの移動をやつに助けてもらうことで、当初の予定より早くここに着くことができた。
 でも三原との遭遇がもたらした恩恵は、それだけじゃないのじゃ。

 武威じゃ。
 移動に使う武威を節約できたことで、今のわしは武威の残存量にいくらか余裕を持っておる。
 ちなみに昨日この婆から一撃を受けたことで、わしの生存本能がまたちょっとだけ活発化し、武威の総量も少し増えておるしな。

 でも、渡す限りの敵と、そもそも大人相手の格闘戦は予想外じゃった。
 なのでこのペースで武威を纏いながらやつらに応戦しておっても、途中で武威が切れることは明白じゃった。
 その時は武威なしの戦闘能力で戦わねばならんし、そうなるとわしが倒せる数はわっぱ10人が限度じゃ。

 だからその前に――武威に余裕があるうちにこのばばあを倒しておかねばなるまいて。

「よし! かかってこい、ばばぁ!」

 わっぱをかき分けながら迫りくる鬼神に対し、わしは構えを向ける。

「ぎゃあ!」
「ぐわ!」

 ばばあに押しのけられたわっぱが壁や下駄箱に体をぶつけ、短く悲鳴を上げておるが、そのシュールな光景に言及する余裕もない。
 いつものように1度四肢の力を抜き、そして肩から順番に力を込める。
 深く息を吐き、重心が丹田に乗っておることを意識する。

 それで――
 今、わしは下駄箱の上じゃ。
 それならば目線はあやつと同じだし、リーチの差こそあるものも、比較的同等の条件で戦えよう。

 まずは発狂したあやつの見境なき攻撃をしっかりと弾く。
 掴まれたら不利だから、しっかりと弾いておかないといけないのじゃ。
 そんであやつはおそらく“間合い”という概念に乏しかろうから、両の手をわしに弾かれても、それがなんじゃとばかりにがっつり距離を詰めてくるじゃろう。

 でも間合いが詰まったらこっちの番じゃ。
 一瞬だけ武威を最大に発動しつつ、渾身の一撃を鼻っ面にお見舞いする。
 それで相手が退いたら、ここから跳躍して全体重を乗せた追撃を食らわせる。

 うん、いける!

 最近“いける”って思った時はあんまりいい結果にならない気がするけど、これは絶対に上手くいく!

 とわしは頭の中で入念に準備をし、ばばあに対して迎撃態勢をとる。
 しかし次の瞬間、ばばあの横顔をかするような軌道で細長い何かがわしに向かって飛んできおった。

 あと、聞き覚えのある声も……

「光君! これ!」

 華殿じゃ。
 まさかというか、やっぱりというか。
 廊下を埋め尽くす敵の後詰めを突破した華殿が、わしに向かって箒を投げてくれたのじゃ。

 いやいやいやいや。

 こちらに向かって箒をスローイングする瞬間、下駄箱の上に上がっておるわしの目線と同じ高さまで跳躍した華殿の脚力はこの際スルーしてやろう。
 おそらく垂直跳びで自身の身長と同じぐらいの高さまで跳躍できるレベルだけど、スルーしてやろう。
 あとばばあの話によると、華殿も足軽組拠点に閉じ込められておったはずだけど、その監禁から抜け出た見事な乱波っぷりも華殿ならありえよう。
 ついでに、こないだの日曜日にわしが勇殿の家に遊びに行った時、華殿はPTAの役員会に参陣した華殿の母上について行っておったから、もしかしたら今も幼稚園に来ておるんじゃなかろうかとうっすら思っておったわしの予想がしっかり当たったのも、この際どうでもいいじゃろう。

 問題は箒を投げるその速度とコントロールじゃ。
 陸上のやり投げでわかるように、細長い棒をブレないように投げるのって意外と難しいのじゃ。
 それなのに華殿は跳躍したままの体勢でそれを完璧にこなし、投げた箒の速度もめっちゃ速い。
 挙句は、ばあの頭蓋のすぐ脇をかすめ、わしの手元にしっかり届くようにコントロールされておる。

 それだったらさ。
 そこまでできるんだったら、この際ばばあの後頭部を直接狙ってもらった方が、わしとしては助かるんじゃが……。

「うん!」

 いや、そうじゃない! 華殿の加勢に感謝せねば!
 ありがとうと伝える時間はないし、“こいつの頭狙えよ!”とツッコミを入れる時間もないけど、わしは華殿の言に短く答え落ち着いた動きで手元に迫る箒を掴んだ。
 ものすっごい速かったけど、武威を強めればこのように超速で迫る箒もしっかりと掴めるのじゃ。
 そんであとはこれを武器にばばあを迎え撃つだけじゃ。

「いっち!」

 わしは左足を下駄箱の天板にしっかりと置き、右足を高く上げる。同時に上半身もバッティング動作に入った。
 日の本が世界に誇るあのホームラン王の構えじゃ。
 あとわしは左打ちじゃ。

 そんでもってコースは真ん中高め。
 いや、ばばあの頭蓋はわしの目線と同じ高さじゃな。
 さすればその高さのボールを想定せねばなるまいから、バックスイングのバット位置をもうちょい高めにして、ボールを上から叩くイメージじゃ。

「にーぃ!」

 次の瞬間、待ちに待った瞬間が訪れた。
 ばばあの顔面がわしの間合いに入って来たのじゃ。

「ふん!」

「ぎゃ!」

 直球に合わせたリズムで振り抜いたわしの箒が、ばばあの顔面をジャストミートした。

しおり