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覚えてろよ

 そこからの流れは大体お察しの通りだ。

なぜか桜子はただの風邪ごときで学校を休んで俺を看病することにして、なぜか俺はただの風邪ごときで体が動かなくなって大人しく看病される羽目になった。
酷いご都合主義である。

俺は看病されている間、ずっと舌打ちしていたが、作者によって桜子は難聴系ヒロインになったようだ。

都合の悪いことは聞こえない便利な耳を手に入れた桜子には俺の舌打ちは届かなかった。

俺の額に濡れたタオルを置きながら桜子が言った。
「昨日は……ありがと。傘、ここに置いとくわね」
「おぉ……。気にすんなぁ……」
声を出すのも億劫になるくらい体がだるい。

桜子はその後、お粥を作って持ってきた。

「はい。できたわよ」
「そうかぁ。ありがとなぁ……」
「自分で食べれる?」
「……」
普通の風邪であればそのくらい多少しんどくてもできるだろう。

しかし、ここはラブコメの世界だ。
ほんとに体が動かない。

作者の狙い通り、人に食べさせてもらうしかないのだ。

諦めの悪い俺はなんとかそっちの方向に持っていかないようにしようとしてみた。

「食欲ない……あとで食べる」
「ちょっとでも食べなきゃだめよ。ほら、口開けて。食べさせてあげるから」

ちくしょう。
抵抗できない。
桜子は俺の口元にスプーンを差し出した。

「……あくまでも仕方なくね。別にあんたのためじゃないし」
「……おう」
ツッコむ気力もない。

クソ……。
俺は作者の思い通りに、ヒロインから食べさせてもらうという屈辱を受けた。

不覚にも桜子がちょっとだけ魅力的に見えてしまったのが悔しくて仕方ない。

風邪が治ったら覚えてろよ……。

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