第1話
少年は目を覚ました。開かれた目には病室の無機質な白い天井が映っていた。少年はしばらく天井を見つめたまま考えていた。
昨夕のニュースで自分たちが巻き込まれた事故に関する警察の会見が放送されていた。その際に、事故原因とされる二十代男性の名前と顔写真が公表された。その様子を見ていた少年は、狂的に冷然と脳裏に言葉を巡らせた。
こいつだ、と。
看護師が朝食を運んできてくれた際には、自分がいる病院内に、その二十代男性がいると確信して震えるほどの高揚感を覚えた。
当然だ。あいつが正面を見て運転していれば、事故は避けられたはずだ。過失であろうと絶対に許せないことをしでかした。おれから腕や脚だけじゃなく、大切な家族を奪った。
人殺し。
そうだ、この三文字以外にあいつに相応しい言葉があるはずがない。司法がどのように裁いたとしても、おれは納得しない。納得できるはずがない。納得してはいけない。絶対に。
ただ、冷静になって考えてみると、現実問題として、右腕と右脚を失い、更に左脚を骨折した今の身体の状態では、一人で自由に院内を移動することができない。退院できたとしても状況が改善されることもない。結局は、司法の裁定に委ねるしかない。それは、少年の望みが叶えられないのと同義だった。それでは、気が済むことは永遠にない。たとえ少年が死んだとしても悔いが残ってしまう。
いや、少年は頭を振った。そう結論を急ぐことはない。こんな不自由な身体でもやりようはあるはずだ。
少年はゆっくりと目を閉じた。例えば。
ニュースを見ていると、昨今世間を賑わせている事件に闇バイトに関する事案が数多く見受けられる。どこの誰ともわからない依頼者が、破格ともいえる報酬を提示して実行者を募り、犯罪の片棒を担がせる。依頼の内容は様々で、特殊詐欺の受け子や掛け子、出し子などの微罪から、貴金属などの高額品の窃盗や強盗、禁止薬物の運び屋や単純に薬物の購入、中には警察に捕まれば懲役刑をくらう重罪などもある。そこには、殺人という物騒な仕事も含まれているそうだ。
連絡の際に使用するのは秘匿性の高い通信アプリで、すべてがこのアプリ上でのやり取りで完結する。実行者も依頼者も相手の名前も性別も年齢も、どこに住んでどのような仕事をしているか、家族構成もなにもわからないので、実行者が検挙されても依頼者の足がつくことがない。うまくできた
この方法を使えば、少年はそこまで思考を進めてから目を開いた。虚ろな瞳の奥底には、鈍く歪んだ光がたゆたっていた。
少年は感情を抑制した表情で、小さく呟いた。
コ・ロ・ス。