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4.年配者は年の功ばかり押し付けるんじゃなくて懐の深さを見せてほしい。

東京、巣鴨。

「んしょ、んしょ、ふぅ。この辺のはずなんだけどなぁ、あれぇ?」
皆さんおいでませ!吉原ヒナです!
今日は怪我しちゃった社長のお見舞いに来ました!あ、もちろん勤務時間内ですよ?
ここで診てもらってるからってソートさんに地図をもらって、それで巣鴨まで来たんですけど…
「病院なんて、どこにもないですよぉ?!普通の家ばっかり、病院の看板とかもないしぃ…せっかく二リットルティラミス三箱買ってきたのに、もうぬるくなっちゃうぅ。社長ぉ、ソートさぁん、どこですかぁぁぁああああああ?!」

同じ路地裏をうろうろするが、目に入るのはジジババばかり。
「めんこい子がさっきからうろついとるのぉ。ところでばあさんや、飯はまだかいのぉ?」
「実にやかましいし鬱陶しいですねぇ。これだから最近の若者は。周りへの迷惑も考えず、何かと思いやりや協調性に欠けるんですよ。そのくせいっちょ前に自分たちの権利ばっかり主張しやがる、何とも住みにくい国なったこと。さっさと日本から排斥して、私ら老人にとって住みよい国になってほしいですよぉ。」
「思想が強いのぉ。ところでばあさん、飯は?」
「さっき食べたでしょうクソ爺。用意する私の身にもなってくださいよ。老体に鞭打って二人分作るの大変なんですからこの野郎。」
「さっきって、今日は朝から食べとらんし…一日一食じゃあ身体が保たんし…それに準備って、わしの分はカップ麺だし…自分は出前の寿司のくせに…」
「もう、文句ばっかりで嫌になっちゃう。それ以上ごたごた抜かすなら慰謝料取って離婚しますからねぇ。」
「いやはや、とんでもないのを嫁に貰ったわい。」

地図のピンは間違いなくこの付近を指しているが、見当もつかない。
「もぉぉぉおおおどうしようかなぁぁぁああああ???このまま、帰っちゃおうかなぁぁぁあああああぁぁぁぁぁああああああああっっったぁぁぁあああ???!!!」
家と家の間、小さな隙間に地下に続く階段。傍の朽ちた立て看板に薄っすらと、

『六波羅診療所』

と書いてある。
「ここ、ここですかぁ?!もぉぉぉおおお、初見で分かるわけないじゃないですかぁ!!!ほんっっっとに、帰ろうかと思ったんですからね、もぉう!!!」
プリプリ怒りながら階段を下る。
重そうなドアがあり、何やら言い争う声が漏れ出てくる。片方はサカだと分かる。もう一人は…?
ガッチャン
ギィィィイイイ
「んっっっしょぉ、ごめんくださぁい、うちの社長ぉ、頭真っ白で軽そうな人、いますかぁーあ?」

「おや熱があるじゃないかこれ超高級冷えピタね二万円。ここにもガーゼ当てとこうか金箔入りだから一万円。ハイエンドバンドエイド貼り直しね一枚五千円。伊勢丹の包帯がヨレてるよ巻き直しだね三万円。スーパー湿布が剝がれてきたから替えようね一万五千円。ウルトラビタミン点滴がなくなってきたから補充しとくよ五万円。何となくデラックス抗生物質も打っとくよ六万円。純正松の木から作った添え木に交換するから七万円。あと何やかんやで八万円と、私の稼働費で十万円。」
「っっっっっっっっせぇぇぇぇぇええええええええあああああああああああああああああバァァァッッッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!こっっっちいいいがあ、優っっっしいくしてりゃあ、ええーえええ気になりやがってええええええええああああああ!!!!!ババアーアアアは大人しぃぃぃっく、隅っこでえ寝てやがれええええええええええええええええええ!!!!」
「うるっさい!耳元で叫ぶんじゃあないよ!おら、お前こそ大人しく寝ときなクソガキャア!」
ギャーギャー

サカとババアが口喧嘩している。
ババアは髪をまっピンクに染め、金縁のサングラスをかけ、真っ黒なコートを羽織る。
腕と首にはアクセサリーじゃあらじゃら。
肌からは年齢を感じるが、背筋はしゃんと伸びている。

「あ、ヒナさんだ。遅かったね。」
「分かりづら過ぎるんですよぉ、ここが。これも重いし、もう帰っちゃおうかと思いましたよぉ。」
紙袋をガサガサさせる。
「おやぁ、あったしのために買ってきてくれたのかあい?殊勝な嬢ちゃんだねぇ、あんりがと。」
「え?いやぁその、一応これは社長のために、」
「いいからいいから気にすんナッツ。あれ、ていらみすかいな。こういう軟弱なスイーツは口に合わないんだけど、まぁいいか。いただきまーす。」
「おいいいぃぃいゴッッッルアアアアアアアアアアアアアア!!!!!そりゃあ俺ちゃあんだあバンバアアアアン!!!!意地きったねえ真似してんじゃあああねええええぞおおおおおおあああああああああ!!!!!!」
「ふーんだ、もう全部口つけちゃったもんねぇ。」
ババアはいつの間にか中のティラミス、三箱全部開けて一口ずつ食べてしまっていた。
「BA☆BA☆AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!みっっっじけええええええ余生え、こっこで終わらせっっったっっっるあああああああああああああああああ!!!!!!!!」
「やってみろい、動けば動くだけ傷が開いて儲けになるさね。」
ドッタンバッタン

「賑やかだよねぇ。六波羅さんも腕はいいのに、性格が終わってるんだよなぁ。」
「えぇ、それに何だか社長が手玉に取られてる感じ、珍しいですぅ。」
「年の功ってやつなのかな。経験を積むとサカでさえいなせるようになるみたい、すごいね。」

ババアはサカのベッドから離れ、タバコを吹かす。
フゥゥゥウウウウウウ
「せっかくあたっしゃあが治してやるってんだあ。黙って金だけ出しゃあいんだよボケナス。」
「ハァアアアアン?!手と足をほんのちょっとお治すくらいでボりやがってえからにい。老い先みじけえーくせに金なんて貯めてえどうすんだかあ。未来ある若者ためにゃあ命散らせばええだろうがい。」
「若者ったって、あんたもう三十前だろうが。世間じゃ立派なおじんの仲間入りだがね。」
「あああああんあんあんああん?!俺ちゃあんに世間一般の年齢概念を当てはめるんでねえやい!俺ちゃあんは今の今までずうっと成長期なあんだぜぇあぅ。」
「”俺ちゃあん”って、子供じゃああるまいし。ガワだけ大人で中身が子供なやつほど面倒なもんはないね。」
「あ、それには激しく同意しますぅ。」
ギロリ
赤い瞳がこちらを睨む。
「ひぃぃぃいいい…」
「それでサカ、今からヒナさんとバット作ってもらいに行くからね。いいよね?」
「おぉーうどこにでも行きやがれいさっさと行きやがれい。」
「それが人にものを頼む態度かね…いいや、ヒナさん行こう。」
「え?どこにですか?」
「バット作ってくれるおじいさんのとこ。」
「あぁーーー!そういや電車停める時に削れてなくなっちゃったんでしたっけ。社長もお馬鹿さんですもんねぇ。場所どこですか?」
「高田馬場だよ。じゃあ行ってくるね。」
「好きにしやがれい。あ???!!!おい待てい!!!ティラミスのお代わり買ってこおい!!!!今度はこのババアに食われねえよおになあああ!!!!」
「持ってきたらまた食ってやるよ。ババアの生命力と食欲舐めんじゃないよ。」
「ああああああん???!!!だっっったら二十個買ってきやがれええええええええ!!!!!ぜんっぶ食ってみろおおおおおおお!!!!!糖尿病で死にさらせやああああああああああ!!!!」
「おうおう、あんたに嫌がらせできんなら寿命削ってでも食ってやるわい。」
ギャーギャー
「とにかく、行ってくるから。」
「じゃあまた行ってきまぁす。大人しくしててくださいねぇ、社長ぉ。」

高田馬場。

「あのバットって特注なんですねぇ。スポーツ用品店とかに売ってないんだ。」
「サカの握力と腕力に耐えられるバットなんて売ってないよ。タングステンやら何やら混ぜ込んで強度上げないといけないんだってさ。何をそんなにバットにこだわるんだか。」
「それに、随分お高いんですねぇ。さっき銀行でこんなに下ろしてきたし。」
ヒナの手にはジュラルミンケース。中には現金一千三百万円。
「まぁ、特注だし納期も急ぎだし、それにこんな変なもの作ってくれる人なんてそういないから、言い値払うしかないよね。ほら、着いた着いた。ここだよ。」

『大川地工務店』

錆びついて文字が剥げた看板がかかっている。中は薄暗く、用途の分からない機械だらけ。それとほのかに熱い空気を感じる。
「ここですかぁ?何だか寂れてますけど。」
「元軍人のおじいさんがやってる店だよ。国に愛想が尽きて、ここで好きな機械いじりをしてる変わり者。昔の軍のツテで、珍しい素材やら機械やら仕入れてあれこれやってんだってさ。さ、ヒナさん、入って呼んだげて。」
「うぅん、まぁ仕事ですからいいですけどぉ。」
ヒナが中に踏み入る。油の匂いがする。
「あのぉ、すみませぇん。」

シーン

何の反応も無い。
「あのぉー?!誰かいませんかぁ?!」

シーン
「あのぉぉぉぉ???!!!誰かぁぁぁ???!!!」

シーン
「耳遠くなっちゃったのかな。もっと大きい声で言ってみて。」
「分かりましたぁ。」
すぅっ
「あああっっっっっっっっのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!だぁぁぁああああああーーーーーーーーーれっっっかぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!いぃっ!!!!まぁっ!!!!!せぇっ!!!!!!んんっ!!!!かぁっ、ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ??????!!!!!!!!」
キーン
「…ヒナさんってやっぱりサカに通じるとこあるよね。ブレーキ無いところとかさ。」

ガラララァッ

奥の引き戸が開いた。

ズシャ、ズシャ、ズシャ

床の砂利や埃を踏み潰しながら、誰かがこちらに歩いてくる。

「お、誰か来たみたいですよ。こぉーんにぃーちぃ、わぁ、ぁぁぁあああああ?」
ヒナの視線が自然と上を向く。
「ハッッッアーーーイ♡儂の昼寝を邪魔する子羊ちゃんたちぃ、いったいどおんなお儲け話を持ってきてくれたのかなぁ?」
天井に頭がつきそうなほどの背丈。びっしり白髪をタオルでバンダナを巻いてまとめている。
太い眉にゴツい髭。顔中生傷だらけで恐怖を感じる。
ヒナの五倍はありそうな肩幅と太い腕。ピッチピチのアロハシャツを前全開で身にまとう。
大きく膨らんでFカップはありそうな胸筋、シックスパックもびっくりな腹筋。
パンパンに膨れたジーンズに大根と見間違うほどのデカい革靴。
そのフィジカルはほとんど人間のものとは思えず、見る者を威圧させる。

「んん?おいおいおーーーい!可愛らしい嬢ちゃんが来たのかぁ、珍しいもんだぁ!んじゃまぁ詳しい話は中で、しっぽりずっぽしばっこりやろうやぁ、んん?」
がっし
ぐいぐい
肩を掴まれ、薄暗い部屋の奥へ連れ込まれそうになる。
「ちょっとちょっとちょっとぉぉぉ!!!私違うんですぅ、デリヘルとかじゃあありませぇぇぇんん!!!!」
「えぇ?そうなの?この大川地辰五郎(おおかわじたつごろう)に惚れ込んだいけずな嬢ちゃんじゃないの?」
「バットォ、バット作ってもらいにきたんですうううううううううう!!!!!」
「バット?確かに俺の股にぶら下がってるバットは超一流で、入れるもの全てぶち壊しちまうが、まぁそれもいい経験だわな!大丈夫大丈夫!案外人間って丈夫だから!アソコが裂けて血が出ようがなんとかなるから!」
「嫌ですぅぅぅううううううう!!!!アソコが裂傷ズタボロのまま梶裕貴やツダケンに会うの嫌ですぅぅぅうううううう!!!!心も身体も綺麗にしておきたいからぁぁぁあああああ!!!!」
「はあーあ、何でこうなるかな、もう。」
シューン
ドローンがジジイの顔の横まで飛んでいく。
「大川地さん、サカのです。サカのバットが壊れたので、また作ってもらおうかと。」

きっ
ジジイが顔をしかめ、ヒナの肩から手を放す。
「ひぃぃぃいいいい!男の人ってやっぱりこわぁい!」
「梶裕貴も津田健次郎も男だよ。大川地さん、今度はもうちょっと強度のあるバットをお願いします。またすぐに壊しちゃいそうなので。」
「なぁんだぁ、あんのクソガキのお使いかよ。いきなりバットなんて言うからおっかしいと思ったぜ。辰五郎、テンションだだ下がりぃ!」
「その割に私を連れ込もうとしたくせに!ケダモノォ!」
「おおん、嬢ちゃん覚えときぃ。つまるところ男はみいんなケダモノなーのよう。動物の本能が残ってんだわな。どれだけ言葉で取り繕おうが身なりを飾ろうが、結局はいかに孕ませるかしか考えてな、い、の。お分かり?」
「嫌ぁぁぁああああああああ!!!!梶裕貴はそんなことしなぁぁぁああああいぃ!!!!ツダケンも多分しなぁぁぁああああああいぃ!!!!いつだって私を優しく包み込んでくれるのぉぉぉおおおおおおおお!!!!そのはずなのぉぉぉおおおおおお!!!!!!」
「この人大変態大性豪だから。あんまり言うこと真に受けないで。ヒナさん、お金渡したげて。前払いです。」
ヒナがおずおずと紙袋を差し出す。片手で掴み取ると、中を見ずに袋の上から札束をぎゅむぎゅむ触って、
「はぁ、いつもと同じだけか…あ、いや?ちょっと違うか。三百ぐらい多いのねん。」
「ちょっと色付けときました。その分強度、お願いします。」
「もうもうもぉーーーう!あれ以上硬くしろってぇ?俺のバットの何倍硬くしろってんだよなぁ?どんな思いで一本一本作ってんのか、分かってんだろうなぁ?」
「はい、でもお願いします。」
「ったく、辰五郎様がなんでバットなんか作らなきゃいけないのかねぇ。第一、てめえが自分で頼みに来いって、思わなぁい?!お前らみたいのをパシリにすんじゃなくってさぁ?!」
「サカは今、治療を受けてます。六波羅さんのとこで。」
「あんのクソババアかぁ!まぁだイキってんのか、あのくたばりぞこなーい!生きてるだけで鬱陶しい老害はぁ、さっさとくたばってくれるに限る!なぁ?!」
「こういう人って鏡見たことないんですかね?大ブーメランなのに。」
「自覚が無い方が幸せなことも多いよ。」
「しっかぁし、あのクソガキが仲間を作るなんてなぁ。しかもこんなれでぃーを。やっぱ年を食えば丸くなるもんかぁ、しみじみくるなぁ、くぅーーーーーー!!!!」
「丸いですか、社長?ウニより尖ってますけど。」
「人を寄せ付けない時もあったみたいだよ、僕もよく知らないけど。」
「しっかぁーーーし、やりたかないが、こないだキャバでシャンパンタワー五連続でやっちめぇって金無いしなぁ。やってやるかぁ。」
紙袋を持って奥に引っ込んでいく。
「おう、ちょっとついてきな。大丈夫だぁ嬢ちゃん。襲わないから、ね♡」
指をくいくいされる。
「信用できなあああああああああああああああい!!!!!したくなああああああああい!!!!!」
「多分大丈夫だよ、行こう。」
「は、はぃぃぃ。うぅ…さよなら私の眩い貞操…」
諦めつつ後をついていく。

カチッ
パッ

蛍光灯をつけると、奥行きどうなってんだと思うくらい広い空間が現れた。
ジジイの背丈より大きい溶鉱炉がど真ん中に鎮座し、辺りに熱を放っている。
一面鉄屑だらけの機械だらけ。壁には数多の武器が。銃、ロケットランチャー、ミサイル、造形の深い剣、刀、さすまた…
「うわぁ、武器の見本市みたいですねぇ。」
「ホント、やりたい放題だよね。自分が作りたいもの何でも作っちゃってる。渡す相手が悪人かどうかもお構いなしだよ。」
「どんなやつが使うかなんて関係無ぇのよん。この辰五郎、ただ作りたいものを作るだけよ。銃を作って渡したって、ずっと家に飾ってりゃあ何にもならないし、時計の針を作って渡したって、それで誰かの喉をかっきりでもしたら、それだけで凶器になるしな。最後には使い手次第、だから俺は何を作ろうがノープロブレムってわけぇ。」
「問題ある気しかしませんがぁ。」
「治安に見つかったら絶対逮捕だね。」
「えぇっと、あれはどこにやったっけかぁ…おっと、これこれぇ。」
ズォッ
ドッカン
目の前にドデカい金属の塊を置かれた。一メートル四方くらい。
「今まであのバットはこいつ、特製のタングステンをベースに作ってきた。加工しやすい金属の中じゃあ一等の硬さがあるんだぜ。これにカーボンファイバーなりなんなりを混ぜ混ぜして作ってやってたんだが、これ以上となると…なかなか難しくなってくるねってわけ。あー頭がこんがらがるぅ。」
「そこをなんとか、できませんか?」
「そーさなぁ、この天才辰五郎、できないかと言われりゃあ?できなくは?ないけどぉ?」
「けどぉ?」
ジジイがヒナに熱い視線を向ける。
「その交換条件としてぇ、この嬢ちゃん一晩貸してくれや。悪いようには、あっしっなっいっからぁ~♪」
「ほらぁぁぁああああああ!!!!結局そうなるんじゃぁぁぁああああないですかぁぁぁあああああ!!!!」
「ヒナさん、元気でね。後でコンドーム山ほど差し入れに来るからね。」
「ゾードさぁぁぁあああああああんん!!!!!!あっっっぎらめにゃあいでぇぇぇええええええええええ!!!!!ゔぁぁぁああああたしとぉぉぉおおおおお、だががぁぁぁバッドォォォオオオオ、どっっっちぃぃぃいいいいがぁぁぁあああああ、たいぃっっっ、すぅぅぅううううえええええええつっっっぁぁぁああああああああううううううう、ぬぅぅぅうううううあああああんんんどぅぅぅうううううえええええすぅぅぅううううう、くっっっぅぅぅわあああああああああああああ????!!!!!!」
泣きじゃくってドローンにすがる。
「でもバットが無いとサカの仕事が進まないからね。僕ももっとお金が欲しいから、だからヒナさんには気の毒という他ない。ごめんねぇ。」
「いいいいぃぃぃやあああああああああああああああああ!!!!!やっっっぱぁぁぁあああありぃぃぃいいいいい、いぃぃぃぃっっっやぁぁぁああああああんんんぬぅぅぅううううあああああああああああああんんんぬぅぅぅぁぁぁああああああごっっっとぉぉぉおおおおおおおおはぁぁぁぁああああああああ、月ぃぃぃにぃ、ひゃっっっくぅ、ひゃっくぅまぁんえぇぇぇええええんもるぅぅぅぁぁぁっっってぇぇぇえええええむぉぉぉおおおおおお、むぅぅぅっっっっっっっっりりりぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいああああああああ!!!!!!」
わぁーんわぁーん
「おいおい、そんなに泣かないでよはにぃ!冗談、四割冗談だったから!何もしやしないよぉーーーう。」
「六割本気な人のどこに安心すればいいぃぃぃいいいんですかぁぁぁああああああああ????!!!!」
「まぁまぁ落ち着いてって。おいラジコン野郎ぉよぉ。」
「ソートです、何か?」
「交換条件というか、金が足りないねぇ。良い素材使ってやるから、追加でもう五百持ってきてちょ♡」
「…いいですよ。でも先に、何を使ってくれるのか教えてください。」
「しっかりしてんなぁ。辰五郎嫌いじゃないぞぉ、その真面目さ。何を使うかっていうと、最近意気揚々と仕入れたぁ…あれ?どこやったっけ?…ああ、あったあった、こいつよぉ!」
ドン
さっきよりも大分コンパクトな金属塊。人の頭くらいしかない。赤とピンクを混ぜたような色で、蛍光灯をやけに反射して煌めいている。
「わぁ、綺麗ですねぇ。」
「見たことない金属ですけど、これは?」
「これはよぉ、アダマンタイトってやつらしーわ。南米らへんで発掘された、新発見の金属らっしい。それを日本が大金はたいて買い入れて、その一部が軍に流れてきたってわけよ。」
「アダマンタイト、ゲームか漫画でしか聞いたことないですね。実物があるとは。」
「にしても高いぜぇ?これ。こんだけの大きさでさっきのタングステンより二回りは値が張っちゃう感じだぁい。何より軽くて何より硬い。さらにその南米で一回採れた分しかないときた。超~~~~~~レアもんなんだよぉ?」
「それが本当ならプラス五百万も納得では、まぁあります。」
「でもこんなすごいものぉ、どうやって手に入れたんですかぁ?」
「それはだねぇ、この辰五郎の野太いパイプを使って軍に潜り込んでぇ、それで元後輩が物品管理の代表やってるからねぇ、ちょっっっとばかし脅して叩いて、それで強奪、もとい拝借、もとい頂戴してきたってわけぇよ。すごいっしょお?」
「すごいですぅ。その横暴さ、見習いたいですぅ。」
「日本って今そんなことしないと生きていけないんだ。やっぱ金貯まったら海外に住もうっと。」
「ま!あ!と!に!か!く!こいつで作ってやるから、ちょいとばかし待ってなぁ。あんのクソガキにゃあ、儂の店の方角に向かって毎日二礼二拍手一礼しろって言っとくんなぁ!!!」
「分かりました。五百万もすぐ持ってきます。それで、いつごろできますか?」
「明々後日でいいよ!五百万もそのときでいいわぁ!」
「えぇ?!早すぎません?そんなすぐにできるもんなんですかぁ?」
「この辰五郎のモットーは『昼は手早く夜はおしなべてゆっくりと』よぉ。本気を出してやりゃあ人間、不可能なんてないものヨ。どうだ、惚れたか?ほんなら、抱いてやろうか?」
「モットーは意味不明だし絶対抱かれたくないけど、早くて助かりますねぇ。」
「じゃあ大川地さん、お願いします。じゃあ帰ろっか。」
「そうですねぇ、ここ蒸し暑いしむさ苦しいし。お邪魔しましたぁ。」
「おっとおっと、この辰五郎としたことがぁ。嬢ちゃんの名前を聞くのを忘れてたわぁ。何て言うんだ?」
ドローンと無言で目を合わせる。
(教えてやりなよ。)
(何か嫌ですよ。)
(別に減るもんじゃないでしょ。それに変に機嫌損ねて作ってくれなくなったりしたら困るし。)
(仕事を盾にするのずるいですってぇ。まぁいいかぁ。)
「吉原ヒナです。」
「よっしわぁらぁ?!いーーーい名前じゃあん!古き良きソープ風俗にまみれてらぁあそこはぁ!また一気に百万でも使って遊びたいもんだぁ。んよっし、じゃあヒナちゃあん!今度吉原でデートでもしようやぁ!嬢とヒナちゃんの具合どっちがマシか比べたるからよぉ!」
「教えたの後悔してます。」
「うん、ごめんね。帰ろう。」
足早に部屋から出て店を後にする。
「じゃあねーーーー!!!若者の軟弱なバットに辟易したら、いつでも抱かれにきてねぇーーーー!!!」

戻って、巣鴨。

はぁぁぁああああ
ヒナが長い溜息をつく。
「何だか、まぁ、お疲れ。」
「もぉぉぉぉ、もぉぉぉおおおおおお!!!!すっっっごく疲れましたよぉぉぉおおおおおお!!!何なんですかぁ、この世界の住人ってぇ、セクハラしないと生きていけないんですかぁぁぁぁああああああああ????!!!!」
「皆んなが皆んなそうじゃないと思うけど、そんだけ日本が、東京が荒れてるんだよ。そんな中でも逞しく店を開いて儲けようとする六波羅さんや大川地さんみたいな年配者は、曲者揃いかもね。まぁこういう人がいないと僕らの商売も成り立たないから。」
「うぅぅぅ…分かりますけどぉ、分かりますけどぉ…次は社長と一緒に行きますぅ。もうあのおじいちゃんの相手したくないいいぃぃぃ…」
「そうしよ。サカもさっさと回復するだろうし、明々後日は本人に取りに行かせよう。あ、そうそう、ティラミスも買っていかないとね。」
「あぁぁぁーぁぁぁあああ、そうでしたねぇ、面倒くさいけどぉ。ホントに二十個も買うんですかぁ?」
「うぅーん、どうだろ?六波羅さん本気で二十個奪い取るかと言われたら…そんな気もするし、それに二十個買わないでサカに怒られるのも馬鹿らしいし…買えるだけ買おうか。」
「っっっぇぇぇえええええーぇぇぇぇええええええ????!!!!一個二キロですよぉぉぉおおおおおお????!!!!四十キロもぉ、私が持てるわけぇ、ないぃぃぃじゃあああないですかぁぁぁああああああ?????!!!!!」
「まぁまぁまぁ、僕も一個だけなら持てるかもしれないからさ。サカに殺されないよう頑張ってよ。」
「んんっっっっっぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!もぉぉぉぉおおおおおおおおああああああああ!!!!!!退勤したぁぁぁぁぁああああああいいいいぃぃぃ!!!!!!帰ぇっっっちぃゃぁぁぁぃぃいぃぃぃっっったぁぁぁぁああああああいいいいいいい!!!!!!せぇんめぇてぇ、じゅっっっっっこぉぉぉにぃぃぃ、しまっしょおおおおぉぉぉぉよぉぉぉぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!」
「まぁ十個でも十分でしょ。さぁ買いに行こ行こ。」
「んはあああああああああああああああああああんんん!!!!!!」
ヒナの慟哭を聞き流しながらティラミスを買いに行った。
それと普通に考えて二リットルを二十個も売ってるスーパーが無かったので十個になった。

それからなんやかんやで三日後。
巣鴨。

「はあああーあああーあああーあああーーーーーああああ。よーーーうやっとお、こんの狭っくるしいババア軟禁部屋からだっしつできるぜぇい。マジモンの拷問だったよぉっと。」
サカの包帯も何もかもすっかり取れ、元通りの元気な身体を取り戻した。
ベッドの横にはティラミスの空箱二十個。結局二日に分けて買いに行った。行かされた。
「次はこんな小銭分じゃなくて、もっとでかい怪我するんだよ。腕がちょんぎれるとかね。ほいこれ請求書。払わなかったら一生をかけて呪い殺すからね。」

『請求書』
『六波羅診療所へ¥6,452,175』

「なあーーーーーにいが一生だあ、こんっっっなボりやがってえええ。踏み倒したってえいいんだぜえこちとらよお。」
「一応払えるだけの貯金はあるでしょ。じゃあ、お世話になりました。」
「ウチのギガ傲慢社長をありがとうございましたぁ。」
「正直な子だねぇ。何でこんないい子がこんなののところで働いてるんだか。」
「ババア、目も腐ったかあ?こんっっっのどこがいい子ちゅわあんに見えるんだあ?金のためなら何でもやる、目上に敬意も払えねえクソアマだらあが。」
「むぅっ!失敬です!ちゃんと払うべき相手には払います!これでも社会人、馬鹿にしないでください!」
「天然でサカを馬鹿にできる才能と胆力に圧倒されちゃうよ。」
「まぁこの命知らずのクソガキと付き合うにゃあそんくらい要るさね。身体に気をつけるんだよ。」
「はぁーーーい!」
「おらあさっさと行くぞ。これ以上いたら老化が移らあ。」
「はいはい、もぅ。じゃあねーーー!おばあちゃぁーーーん!」
「はいよ。」
ギィィィイイイ
ガッチャン

高田馬場。

「にっっっしても無駄あに五百万?最初の三百と合わせりゃあ八百万か、そおんなにあんのクッソジジイに払ってやるこったあ無かったのにいよお。なあにがアダマンタイトたあ。厨二病は心に秘めとくもんだあよ。外に出した途端厄介にしかなれねえでしよおが。」
「もっとバットが強くなるのは悪いことじゃないでしょ。僕みたいに商売道具は良い物使わないと。」
「実際そのアダマンタイタイを使って、どのくらい変わるんでしょうねぇ。」
「さぁ、そこだけはサカに振るってもらわないと。」

「世界超平和党党首ぅ、眞流波凛汰倫詫(まるなみりんだりんだ)でぇ、あぁ、ごぉっ、ざぁいぃ、まぁぁぁぁああああああああああああああああああすぅぅぅうううううううう!!!!!!この国はああああっっっ、おおおおおっっっっかしいいいいいいぃぃぃぃいいいいいいい!!!!!国難が迫りまくるぅ時代にぃ、やれ治安だの何だのとあっっったらしいぃぃぃぃいいいいいいい機関をぉ、つっくるだけ作ってけ、税金のぉ、無駄遣いをぉ、しっっってぇぇぇえええええぶああああああっっっっかりぃぃぃいいいいいいいいいいい!!!!!!そぉぉぉおおおおんんんなぁぁぁああああああせいっっっふぅぅぅううううはぁぁぁあああああああ、なくなったっっったっっっふぉぉぉぉおおおおおおおおぐわぁぁぁあああああああああああいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!そんっっっのぉぉぉぉおおおおおおおおたぁぁぁあああああああんんんむぅぅぅぇぇぇぇええええええええにぃぃぃぃいいいいいいいいいいいい!!!!!!!こんっっっっのぉぉぉおおおおおお、眞流波にぃぃぃぃぃぃぃいいいいいああああああああああ、きっっっっっっっすぅぅぅぅうううううううむぁぁぁぁぁああああああるるるるるぅぅぅぅうううううううあああああああああああああぬぅぅぅぅぅううううううおおおおおおおおおおおおおおお、けっっっっっっっぐぅぅぅうううううああああああああああるるるっっっっっっううううううううあああああああああああああしぃぃぃいいいいいいいいいいい、あい、あいいいっ、いいいいいぃぃぃぃぃぃぃっっっっっっっっっっっぷょぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおをぉぉぉぉ、あああんっ、おおんっ、おおおおぉぉぉぉんんんぬぅぅぅううううううううぐぅぅぅううううえええええええええっっっっっっっっっしぃぃぃぃぃしいいいいいいいむぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁあああああああっっっっっっせぇぇぇぇぇえええええええええああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「うるっっっせえこと。なあああーーーんだあありゃあ。」
「車で選挙活動してるみたいだね。何言ってるか皆目分からないけど。」
「こーいうのって現体制を叩くばっかりでいやんなっちゃいますよね。協力して頑張りますって言うだけでいいのに。」
「色々謀略が渦巻いて難しいんでしょ。さぁ着いたよ。」
三日前と同じ装いと雰囲気の大川地工務店がそこに。
ヒナはちょっとサカの背に隠れる。
「ああああん?何ビビってんだあナーヒィー?」
「いやちょっと、ここのおじいちゃん苦手だったんですもぉん。」
「ヒナさんもこうなっちゃうんだ。やっぱり老害ってキツイなぁ。サカ、呼んであげて。」
「あのジジイちゃーあああこの時間寝てやがっからなあ。しっかたねえなあああ。おうおめえらあ、ちぃーとばかしゃあ耳塞いでえろよ。」
「えぇ?」
ドローンの集音マイクオフ
すぅぅぅっ

「んんんんんんんんんんんんんっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっぎぎぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!んんんっっっっっっっっっっっっぐぅぅぅうううううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっっっっrrrrrrrrrrrrrrrrrrるるるるぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ぅぅぅぅぅぅぅううううううおおおおおおおおおっっっっっっっっっっっっっっきぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいゆぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああっっっっっっっっっっぐぅぅぅぅううううううううわああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっっっっっっっrrrrrrrrrrrrrrrrるるるるるるぅぅぅうううううぇぇぇぇえええええれえええええええええええええええええええええええええええいいいいいいいいいいいいいいいいいいあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ピシピシッ、ピシピシッ
ガタァン
ガシャァ、ガシャァァァン

音圧で看板が傾き、入り口の扉が外れ、埃が舞い、壁にヒビが入った。
集音マイクオン
「終わった?終わったよね。ああ危ない。鼓膜やられるとこだった。」

ガラララァッ

奥の引き戸が開いた。

ボォッ
シュアアアアアアアアッ

何かがサカの顔面目掛けて飛んできた!

パシィィィィィン

危なげなくキャッチした、その手には、
「…ほぉぉぉおおおおう???」
真紅に染まったヘッド、黒のラインが入ったグリップ。
日の光を受けて煌々と輝くそれは、目にするだけで濃厚な重量感を抱かせる。
よく手になじみ、グリップを握り込めば握り込むほど熱と躍動が感じられ、まるで生きていると錯覚してしまうほど。
日の光を受けて煌々と輝くヘッドの文字、
『MY JUSTICE』

生み出される前から持ち主が決まっていたかのように、その様は実にサカと調和していた。
「…すごい、僕でも息を吞むくらいすごいのが分かるよ。」
「まあまあまあ?!想像よりは?マシなんじゃあねえーのお???」

ズシャ、ズシャ、ズシャ
ぬうっ
「こんっっっのクッソガキャアがよぉ。でっっっけぇ声出しゃあ何とでもなるとでも思ってんのかよぉ?丹精込めて作ってやったぁこの辰五郎にぃ、感謝の意とか示さないワケェ?なぁよぉ?」
ジジイが耳を塞ぎながら出てきた。

「おーおおおおおう、ジッジジイよお、なあーかなかあ、いーいいい仕事してんじゃあねえかあ。そんなに悪くねえねえ触り心地だぜい。」
「オッフコォースに決まってんだろぉがい。どんだけのセンスと実績があると思ってんだか。カラーリングも文字もバッチシ決めたやったからよぉ、どすこい感謝しろっちゅーことよなぁ。独り善がりで生きてるつもりのお前にゃあピッタシだろぉ?昨日の夜思い付いたときには、こう『ピピーーーン!』と電流が走ったよねぇ。いやぁやっぱり天才辰五郎なんだよなぁ。ここがたまんないよぉってな。」
「文字のことは知ったこっっちゃあああねえけどお、まあまあ気に入ったぜい。」

シュキィィィン
シュキィィィイイイイン
嬉しそうにぶんぶん素振りをする。その度に空気を裂く音が響く。

「ところでなぁ、その嬢ちゃん、ヒナちゃんはどうしたんだぁ一体?なんでそんなとこで寝てんだぁ?」
「あん?」
「あれ?」
ヒナがばったし、サカの足元で倒れていた。
「あああーーーん?何だってえこんなとこで寝んだあ?いかんぞお夜更かしはあああ。お肌にも良くないし日中の仕事効率も落ちちちまうぞおおおお???」
「うーん、生活習慣の乱れは感心せんな。いくら若いとはいえ、そんな生活習慣が染みついていると年を取ってから辛くなっちゃうぞぉ?この辰五郎も若いころは毎日十五回は自慰を催したものだが、さすがに今はもう十回で限界になっちゃうもん。」
「馬鹿ぁぁぁ!!!気絶してんだよこれぇぇぇ!!!サカがデッッッカイ声出すからぁぁぁ!!!ヒナさん、しっかりしてぇぇぇ!!!」
「んなぁにぃ?!睡眠姦だとぉ?!いやそれは辰五郎の趣味には該当せんのだが、このさい止むを得んのかぁ。」
んしょ、んしょ
ズボンとパンツを脱ぐ。
「待てコラジジイ。だんれもおめぇの股にぶら下がってるバァットォにゃーあ興味ナッシングなんでえよ。さっさとしまえええ。今起こしてやっから。」
ヒナの傍に立ち、

スッ
バットの先をヒナの頭に向ける。
「えぇ、サカ?嘘?何する気?」
「よっと。」
頭目がけてバットを下ろす。

シュキン
ズッガアアアアアアアアアアアアン!
ハッ
「えぇぇぇ???!!!何なになにぃぃぃいいいい???!!!!なんでえすかぁぁぁあああああ???!!!!あっ耳痛???!!!頭も痛???!!!!何があったぁんでしょうかぁぁぁああああ????!!!!」
バットはヒナの顔すれすれで地面を叩き込み、大きな亀裂を作った。
「おおーう、だあいぶかるぅーくやったつもりなのによお、結構いくもんだなあ、これ。逆に使いづらくなったかもなあ???」
「威力上がったんだから、おふざけで僕らに殴りかかるの、もう無しね!ほんっっっとぉーに、無しだからね!!!」
「そうだそうだぁ。一回一回に辰五郎様への畏怖の念を込めて振るんだぞぉ。」
「へえーいへいへいへえーいへい。だったらありがとうの意を込めてぇ、ジジイイイで試し打ちしてもいいですかあーああああ???」
「『勿論いいですよ!』って言うと思うかこの辰五郎が?お前がそれで何をぶち壊そうがぁ辰五郎は知らねぇよ?でも店に影響が無いとぉーーーいところでやってくれな?店先の地面割ってんじゃあないよぉ!」

「世界超平和党、眞流波凛汰倫詫でございまぁぁぁあああああああす!!!!!!」

「あんの選挙カーここまで来てやがんのか。よくやること。」
「とりあえずバット作ってやったからな。追加の五百万早く寄越せっちょ。」

「こんっっっの日本という国はぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!おっっっっかぁぁぁあああああしいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃいいいいいいいい!!!!!!!」

「あああああんんん???ああんだってええええ???おっらあ耳がとおーーーおおくなっちいまってえよお。聞こえねえええんだわあああ。」
「だからぁ、ごひゃくまん、」

「わっっっだじぃぃぃいいいいいいいいいはぁぁぁぁあああああああああっっっっっはあああああああああああああああああああんんんんんん!!!!!ごのぐにぃぃぃいいいいをぉぉぉおおおおおおおお!!!!!が絵だああああああああイイイイイイイイィィィィィィッッッッッッはあアアアアッッッッはああアアアアアアッッッッッっはあああああああああああっっっっっはああああああああああああああああああああっっっっっっっっはあああああああああああああああああああああんんんん!!!!!!」

「、だからよぉ、分かったなぁ???」
「すまんマジで聞こえんかったわあ。なんてえ?」
「私も聞こえなかったですぅ、うるっさいんだからぁ。」
「同じく。」
「あ~~~~~~~っもぉ、だからぁ、ごひゃ、」
「だれがやっっっっっっでもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああ!!!!!!おんなじやぁぁぁぁぁああああああああ、おぉんなじやぁぁぁぁあああああああああああああああぁぁぁぁぁっっっっっっっとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおもおおおぉぉぉっっっっっでええええええええええええええええ!!!!!!」

「…で、何だっけか。」
「…だからな?ご、」

「ぃぃぃいいいいやあああああああああああっっっっっっっっとおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああ!!!!!ぎぃっ、ぎぃぃぃいいいいいいいんんんんにぃぃいいいいいいいいいぃぃぃっっっっっっ、なれぇっ、どぅぅぅぁぁぁあああああん、でぇぇぇっっっ、ずぅぅぅううううううううああああああああああっっっっっっぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!ぞれなどじぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!だぁぁぁあああああれっっっっがぁぁぁああああああやぁぁぁあああああっっっっっっっどぅぅぅぅぇぇぇぇぇぇえええええええええええむぅぅぅぅぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!!!!おぉぉぉぅぅぅんんんどぅぅぅぅだぁぁぁあああああああああじぃぃぃぃぁぁぁぁぁああああああああああああああぁぁぁぁっっっっっ、ドゥゥゥううううううんだあああああああああぎぃぃぃいいいいいいやあああああああどぅぅぅううううおおおおおおおおおぼぉぉぉおおおおおおおおおぉぉぉぉっっっっっっでぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

「……なあ。」
「……ああ、殺すなよ。」
「これは止める気もしないよ。」
「行ってらっしゃあい。」

ツッタカター
ピッタァ
選挙カーの進路を塞ぐように正面に立つ。

「どぅぅぅぁぁぁぁああああああああくわぁぁぁぁあああああああああああるるるぅぅぅぅうううううううああああああああああああうわぁぁぁあああああっっっっっっっとぅぅぅぅぁぁぁぁあああああっっっっっっしぃぃぃいいいいいいいいわぁぁぁぇぇぇぇえええええああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーああああああああああああああえええええええええええああああああああああああああ??????!!!!!!んぬぅぅぅんだぁぁぁあああああお前はぁぁぁぁああああ???我が覇道ぉぉぉおおおおおのぉっ、じゃあああああんんんむぅぅぅぅううううううああああああああああああああああああああづああああああああぁぁぁぁぁぁぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええ!!!!!!」

ドルンドルン
ドオオオオオオオオオ
車は速度を落とすどころか突っ込んでくる。

「ジジババやおじおばはなあ、若者の選挙離れや政治の無関心を嘆く前によお、もっっっとおできるこたあああがああああんじゃねえかあ?今の若者に合わせてえ古臭いものにもお、カジュアルさっちゅーの?こりゃーを持たせてやるのがよお、大人の懐深さってやつよのさあ?少なくとも俺ちゃあんはそう思いますぜえい?」

ギュギュッ
ギュギュギュギュギュギュギュ

「んんんずぅぅぅぅぇぇぇぇえええええええええええええええええええっっっっっっああああああああああああああああああああああああああああああああいいいいいい!!!!!!!!!!」

シュッキィィィイイイイイン
ドバァッッッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
バキバキバキバキバキ、ベッキィィィイイイイン
轟音とともに訪れた、大きな地割れ。
「あああああああ、ああああああああああ????!!!!!んなぁぁぁっっっ、なぁぁぁあああああああああ????!!!!!車っ、車ぁがぁ、落ちっ、落ちていくぅぅぅぅうううううううあああああああああああああ????!!!!!!なんっ、なんでぇぇぇぇええええええだああああああああああああああ?????!!!!!!!」
選挙カーが割れ目に落ちて消えていく。やかましいメガホン音声も次第に遠くなっていった。

「うっひょぉぉぉおおおおお???!!!すっごい地割れぇ、あまりにもすごくないですかぁ???!!!」
「ホントに天災そのものじゃん。こんなのに狙われたらそりゃ生き残るの無理だよね。」
「バアッキャアロオイ、アイロニイ、俺ちゃあんが天才なのは今に始まったあことでえねえべさあ。こいつも合わさってえ、これから百二十パーセンテージの俺ちゃあん全開マッスルMAXだぜえな。さあさあ、おっ仕事お探しいに、あ行こうっずええええ???!!!」
「はいはああああああい!!!今日は悪くて高い人がいるといいなぁ!!!」
「字が違うんよ。全くもう、こっちの気も知らないでさ。でもほっとけないのが僕のいいところだよホント。」
三人揃って高田馬場を後にする。今日はどんな悪人を相手にするのだろうか。乞うご期待。

「おいぃぃぃーーーーーーー!!!!辰五郎を忘れんじゃねぇってばぁ!!!お前五百万円、さっさと払いやがれぇぇぇえええええ!!!!!!」
「バレたかあ、走って逃げんぞお。体力は無いはずだからなあ。」
「さよおなら変態おじいちゃあんんん!!!これに懲りたらセクハラ自戒してくださぁぁぁああああああいい!!!!」
「でもお金は払った方がいいと思うけどね。まぁ次の用事があったときに払っとくよ。」
「待ちやがれぇぇぇえええええ!!!!!ガキの悪戯にしてもぉ五百万はやり過ぎだぞぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!いくらこの辰五郎が優しいと言ってもぉ、可愛いとは思えん金額だぞぉぉぉおおおおおお!!!!え、待ってマジで戻ってこないの?払わないの?」
ぜい、ぜい
ジジイの心肺機能と足腰が限界に達する。悪ガキどもの姿はもう見えない。
「こんっっっのぉ、クッッッソどもおおおおおおおああああああああああ!!!!バーーーカバ‐ーーーーーーーーカァァァァーーーーーーーーーーーーー!!!!!!もうぜったいぜぇったい、ずぇぇぇえええええっっっっっとぅぅぅぁぁぁぁああああああいぃ、なぁぁぁああああんにもぉぉぉおおお、つくぅっっってぇ、やぁああああんんんなぁぁぁぁあああああいぃぃからぁぁぁぁあああああああ!!!!!チィッ、クゥッ、シィィィイイイイイイヨオオオオオオオアアアアアアアアア!!!!!!!!」
憐れ、ジジイの嘆きが高田馬場の街並みに吸われていった。

一方そのころ。
東京治安維持機構特別本部。

一人の男がスマホ画面を睨みながら廊下を歩いていた。
百八十は優に超える長身に、眉毛にかかる黒髪。
鋭い眼光には青が滲み、白い軍服を着こなしている。
背にはメタリックな長い鞘を背負っている。柄は分厚い金属で覆われており、鞘に秘められし刀身の仰々しさを表している。
『ダサい名前に白い影?!日本賢者党、暴走列車の実行犯はこの男?!』
『バットの悪魔の都市伝説十三選』
『ダークヒーロー降臨【魔窟の東京で粛清の嵐】』
『一般企業にも断罪の魔の手か?夜露死苦建設一斉行方不明事件の不思議』

塑月(さかつき)…派手にやってくれやがって…」
スマホをしまう。
「あ、隊長、ここにいたんですか。軍会議、もう始まりますよ?」
「今日は休む。代わりにパトロールに行く。」
「はぁ、そうですか。じゃあ代わりに私が出ます。それにしてもなぜ急に?」
「昔の傷を窘めに行く。」
「…?まぁいいや。それじゃあ部下を何人か連れて行ってください。経験ってことで。」
「いい。一人で行く。」
「そうはいきませんて。ご自身の立場、分かってください。おぉーい、隊長がパトロール行くから、お前らついていけぇ。」
「勝手にしろ。」
男は廊下を早足で歩き抜けていった。
次回、ライバル邂逅。乞うご期待。

しおり