第9話 運命のいたずら
今、誠がいるのは地球から一千光年以上離れた植民第二十四番星系、第三惑星『遼州』。そこに浮かぶ火山列島は『東和共和国』と呼ばれていた。『東和共和国』は中立を国是とし、戦乱のうち続く遼州星系にあって平和に繁栄を続けていた。その首都の『東都』の都心。そこにたたずむ赤レンガで知られる建物が東和宇宙軍総本部だった。
地下三階駐車場。目の前には駐車場と言うだけあり、どこを見ても車だらけ。九時の開庁直後とあって、車の出入りが激しく、呆然と立ち尽くす誠の横を人が頻繁に本部建物と駐車場の間を行き来している。
そんな中、神前誠少尉候補生は呆然と一人、利き手の左手に辞令、右手に最低限の身の回りの荷物を持って立ち尽くしていた。
七月半ば過ぎ。そもそも大学卒業後、幹部候補教育を経てパイロット養成課程を修了した東和宇宙軍の新人パイロットが、この時期に辞令を持っていることは奇妙なことだった。
前年の三月から始まる大卒全入隊者に行われる幹部候補教育は半年である。その後、志望先に振り分けられ、各コースで教育が行われるわけだが、パイロット志望の場合はその期間は一年である。
本来ならばその時点、六月に配属になるのだが、そもそも人手不足のパイロットである。教育課程の半年を過ぎたあたりから、見どころのある候補生は各地方部隊に次々と引き抜かれていく。一人、一人と減ってゆき、課程修了時点では全志望者の半数が引き抜きで消えていく。それが普通なら六月の出来事である。
普通ならそこで残った全員の配属先が決まる。それ以前に東和軍の人事の都合上、その時点ですでに配属先は決まっていて、個別の内示などがあるのが普通である。実際、誠の同期も全員が教育課程修了後、各部隊へと散っていった。
しかし、誠にはどの部隊からも全くお呼びがかからなかった。
教育課程の修了式で教官から誠が伝えられたのは、『自宅待機』と言う一言であった。
誠にもその理由が分からないわけではなかった。
誠は操縦が『下手』である。下手という次元ではない。ド下手。使えない。役立たず。無能。そんな自覚は誠にもある。
運動神経、体力、動体視力。どれも標準以上。と言うよりも、他のパイロット候補生よりもその三点においては引けを取らないどころか絶対に勝てる自信が誠にもあった。
しかし、兵器の操縦となるとその『下手』さ加減は前代未聞のものだった。すべてが自動運転機能で操縦した方が、『はるかにまし』と言うひどさ。誠もどう考えても自分がパイロットに向いているとは思えなかった。