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勇者の書

「この、勇者の書は、私が書いたものなんだ」
それを聞いた瞬間、俺は驚きのあまり声が出なかったよ。
まさか先輩がこんなものを書いているとは思わなかったからね、
でも同時に納得もしていたんだ。
何故なら先輩ならやりかねないと思っていたからだよ。
それに、よくよく考えてみれば彼女の行動力には目を見張るものがあったからね。
きっとこれ以外にも色々とやっていたんだろうと思ったんだよ。
だからこそ俺も負けていられないと思って頑張ってきたわけだけど、今となってはそれも過去の話になってしまったな。
そう思うと寂しい気持ちになってくるんだが、それよりも今は目の前のことに集中しないといけないよ。
そう言って気持ちを切り替えた時だった。
「そろそろ、行こうか」
そう言ってエルナさんは俺の手を取ると、そのまま歩き出してしまったんだ。
そして、辿り着いた先は転移装置がある部屋だった。
どうやらここから別の場所に移動することができるらしいのだが、その前に一つ確認しておきたいことがあったので聞いてみたんだよ。
「あのー、本当にいいんですか?」
そう聞くと彼女は笑顔で答えてくれたよ。
その笑顔はとても眩しく見えたんだけど、同時にどこか儚げでもあったんだ。
まるで何かを決意したかのような表情に見えたのが印象的だった。
でもそれが何を意味しているのかまでは分からなかったけど、ただ一つだけ言えることがあるとすればそれは彼女が本気だということだけ、
だからこそ俺も覚悟を決めてついていくことにしたんだ。
そして、いよいよ出発の時が来た。
彼女が装置を起動させると眩い光が俺たちを包み込んでいったんだ。
あまりの眩しさに目を瞑ってしまったが、暫くして目を開けるとそこには信じられない光景が広がっていたんだ。
何と、さっきまでいた場所とは全く違う場所に移動していたんだ。
しかもそこは森の中だったんだけど、木々の隙間から差し込む太陽の光によって幻想的な雰囲気を漂わせていたのを覚えているよ。
そんな景色に見惚れているとエルナさんが声をかけてくれたんだ。
どうやらこの場所は彼女の故郷であるらしいんだが、そこで何があったのかについては教えてくれなかったんだ、
ただ一言だけ教えてくれたことがあった。
「ここには、私の思い出が詰まっているの」
そう言って微笑む彼女の顔はとても美しく、思わず見惚れてしまうほど、
そして、そのまま手を引かれて森の中を進んでいくことになったんだが、途中で彼女が立ち止まったんだ。
どうしたんだろうと思って見ていたら突然振り返ってきて言ったんだ。
「ありがとう、ここまで連れて来てくれて本当に感謝してるわ」
俺はそれを聞いて照れてしまったけど素直に嬉しかったからお礼を言ったんだ。
すると彼女は微笑んでくれたんだけど、その笑顔を見た時に思ったんだ。
この笑顔を守りたい、その為にも頑張らないといけないなって、そして、俺達は更に森の奥深くへと進んでいったんだ。
暫く進むと開けた場所に出たんだが、そこには大きな屋敷があったんだ。
しかも、まるで俺達が来ることが分かっていたかのように門が開いていたので驚きながらも中に入っていったんだ。
するとそこには綺麗な庭園があって、噴水や花壇などが置かれていたんだけど、何よりも驚いたのはそこに植えられていた花々だった。
「凄いな、これ全部先輩が育てたんですか?」
そう聞くと彼女は微笑みながら頷いてくれたんだ。
そして、そのまま屋敷の中へと案内してくれたんだけど、中に入ってみて更に驚いた。
外観もそうだったけど、内装もかなり豪華だったんだ。
まるでどこかのお城のような作りになっていて、正直言って圧倒されたよ。
ただ一つだけ気になることがあったんだが、何故か人の気配が全くしなかったんだ。
でもエルナさんは特に気にしていない様子だったから俺も気にしないことにしたんだけど、それから暫くの間、彼女と話をしていたんだが途中で彼女が席を外したので
俺は一人で待つことになったんだけれど、その間に色々と考え事をしていたんだ。
これからどうすべきなのかを考えていたんだが答えは出なかったんだよ。
「お待たせ、そろそろ行こうか」
戻ってきたエルナさんはそう言うと俺の手を優しく握ってくれたんだ。
その手はとても温かくて、心地よかった。
だから俺も握り返すようにすると彼女は嬉しそうに微笑んでくれて、それがまた可愛かったんだよ。
そんなやり取りをしながら屋敷を出るとそこには大きな湖があって、その畔には小さな小屋があったんだけれど、
そこで彼女が足を止めたんだ。
そして、俺の方を見るとこう言ったんだよ。
「この場所は私にとって特別な場所なの」
そう言って懐かしそうに眺めていたんだが、俺はそんな彼女の横顔を見ながら考えていたことがあるんだ。
それは彼女の過去についてだったんだけど、聞いてもいいものか迷っていたんだ。
だけど思い切って聞いてみることにしたんだ。
「あのー、一つ聞いてもいいですか?」
と聞くと彼女は笑顔で答えてくれた。
「うん、いいよ」
「エルナさんって、シルフィー先輩のことどう思ってたんですか?」
と聞くと彼女は少し考えた後で答えてくれた。
その内容は衝撃的なものだったんだが、それでも最後まで聞くことにしたんだ。
そして話が終わった後で俺はある決断をしたんだ。
それは彼女と共に行動するということだったんだけれど、その理由についてはまた今度話すことにしようと思うから今はここまでにしておくことにする。
(それにしてもまさか先輩が魔王だったなんてな)
そう思いながらも俺達は小屋の中へと入っていったのだが、中に入った瞬間、思わず息を呑んでしまった。
何故ならそこには様々な武器や防具が置かれていたからだが、その中でも一際目立つものがあったんだ。
それは漆黒の鎧だったんだが何故か禍々しい雰囲気を醸し出していたんだ。
しかもそれが二つもあったものだから驚いた。
「これは、一体?」
思わずそう呟くとエルナさんが教えてくれたんだ。
「それは、私の両親が残した遺品なの」
そう言って指差した先にあったものは、漆黒の鎧だった。
しかもよく見ると所々に傷や凹みがあったんだが、それでもなお輝きを放っているように見えていたんだ。
そんな姿を見ていたら急に胸が苦しくなって来て、気が付いたら涙を流していたんだよ。
そんな俺を見た彼女は優しく抱きしめてくれたんだけれど、それがまた嬉しくて余計に泣いてしまった。
それから暫くの間泣き続けた後なんだけど、ようやく落ち着いたところで彼女に聞いてみたんだ。
どうしてこの場所に連れてきたのかを、すると彼女は微笑みながら答えてくれたんだけどその内容が凄かったんだ!
なんとこの小屋は彼女の両親の家であり隠れ家的な場所でもあったらしいんだ。
「この場所は、私が初めて魔王として覚醒した場所でもあるの」
それを聞いて驚いてしまったんだが、それと同時に納得もしていて、何故なら彼女の強さを考えればそれも頷けたからだし、
何より彼女自身がそれを証明していると思ったからだ。
だから俺は素直に認めることにして、そして、改めて彼女にお願いすることにしたのですが
「エルナさん! 俺と一緒に旅をしてくれませんか?」
俺の緊張した声とは、裏腹に彼女の返事は、とても軽いものだった。
エルナさんは、微笑みながら頷いてくれたんだ。
それが嬉しくて俺は思わず叫んでしまった。
「よっしゃああああ」
と、そんな俺を見てエルナさんは笑っていて少しはガスしかったのを覚えている。
そして、そのまま二人で小屋を出ると、俺達は次の目的地に向かうことにしたんだけれど、その前に一つ気になったことがあったので聞いてみたんだよ。
それはどうしてこの場所に俺を連れてきたのか?
ということだったんだが答えは意外なものだった。
「ここの依頼美味しいのよ」
そう言って、彼女は微笑んだんだ。
(なるほど、そういうことだったのか)
と納得していると、彼女が突然立ち止まったので何事かと思って見ていると、そこには小さな泉があったんだが、その水はとても澄んでいて綺麗だったよ。
思わず見惚れているとエルナさんは微笑みながら教えてくれたんだ。
この泉の水は飲めば体力が回復する効果があるということや他にも色々な効能があるということを説明してくれた後で、
俺に飲むように勧めてきたんだけど流石に遠慮しておいた。
「大丈夫ですよ、それよりも先を急ぎましょう」
と言うと、エルナさんは残念そうにしながらも頷いてくれて、
それから暫くの間森の中を進んでいったんだが、途中で魔物に襲われてしまったんだ。
しかも相手はゴブリンの群れだったんだが、数が多い上に数体ほど上位種のホブゴブリンがいたから苦戦していたんだけど、
そこでエルナさんが助けてくれたんだ
彼女は一瞬で距離を詰めると一撃で仕留めている。
その手際の良さに見惚れていると彼女が声をかけてきてくれたので我に返ると、
俺は慌てて戦闘態勢に入ったんだけれどその時は既に遅くて囲まれてしまっていたんだ。
絶体絶命のピンチだと思った瞬間だった。
突然俺の目の前にいたホブゴブリンが真っ二つになったと思ったら今度は別の方向から悲鳴が聞こえてきたかと思うと
次々と倒されていくのが見えたので驚いてしまった。
「一体何が?」
と思っていると、そこにはエルナさんの姿があった。
どうやら彼女が助けてくれたのでした。

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