家族団らん
「あの子がいなくなったのに、まだご飯作ろうとしてるの、無駄なのに?」
「だって、夕飯は必ずみんなで食べるのがうちの決まりでしょ」
「だから、まず、いなくなったあの子の分は必要ないって言ってるの」
「なに? あの子から、今夜、ご飯はいらないって電話あったの」
「ないけど・・・」
「ないなら、あの子の分も用意しなくちゃ」
「だから、あの子はいないんだって、母さん。それから、みんなのご飯を作る必要は、もうないの」
「なによ、この子は。別に母さん、あんたに夕飯を手伝ってって言ってないでしょ」
「そうじゃなくて、父さんも何か言ってよ」
「いいじゃないか、母さんの好きなようにやらせてやりなさい。どうせ、もう私たちには何にも触れられない。あの子だけは助かって、兄夫婦に引き取られてこの家を出て行った。この家も取り壊されるようだし、そうなれば、母さんもいやでも現実を見るだろうさ」
「なによ、この家が取り壊されるまで、母さんの現実逃避に付き合えっていうの、私は早く成仏したいのに?」
「急な事故で、母さんも混乱してるんだ。こういうときこそ、家族だろ」