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死体があった。

「ここに死体があったんだ。本当なんだ」
警察に通報して、ちょっと目を離した隙にその遺体は消えていた。
「いたずらは困るんですけどね」
警官は俺に苦笑して見せた。
「いやいや、ここにじっと動かない死体があったんです」
「どんな遺体ですか」
「どんなって」
「ほら、交通事故にあったみたいな、暴漢に襲われたみたいなことですよ。通報では、男性とありましたが、どんな男性でした」
「それは・・あっ」
俺は、ようやく、その警官と遺体の顔が似ているのに気付いた。
「ようやく気付きました? さっき、ここで死んでたの私なんです。数日前、非番でこの辺りを歩いていたら、若者のケンカを見て、お節介に止めようとしたら、逆にボコられて死んでしまって。いや、あなたのような人があの日、早く通り掛かっていてくれたら、私も助かったでしょうに」
「あ、え?」
「通報、ありがとうございます」
そう言って、その警官は消えた。

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