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2 魔性…?

 エリオットが王子だとわかって驚きに目を剥くジェイとアニー。そんな二人の反応をエリオットは得意げになって見ていた。背筋はちょっとふんぞり返っている。

「ふっふ……」

「王子殿下でしたか。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。カエルレウム近衛歩兵隊のジェイ・アルバトロスです」

「……うん?」

 ジェイは幾分か態度を改めたが、ほぼ直立で少し頭を下げただけだった。その態度にエリオットは意外そうにしていた。

「ああ、オウジサマねえ、なるほどぉ。俺は関係ないな、遠いルブルムの一般庶民だからなー」

 アニーはアニーでエリオットの素性を知ってもどこ吹く風、何かを納得した顔で頭の上で腕を組んで興味なさそうに呟いた。

「んん……!?」

 そんな態度を取られるとは露ほども思っていなかったエリオットは更に驚いて固まった。その隙に、ジェイは無表情でアニーを促す。

「アニー殿、済まないが一応自己紹介だけでもしてもらえないか」

「い、一応……!?」

「えー、しょうがねえなあ。どーも、アルブスから来たアニー・ククルスでっす」

「お、お前たち! なんだその口の聞き方は!」

 エリオットは期待していた様な(多分、二人とも土下座して額を地面に擦り付けると思っていた)事にならず、あまつさえぞんざいな態度を取られて地団駄踏みながら喚いた。
 精神年齢二十歳だと見積もったのはアマかったかな……とミチルは苦笑してしまった。

「ほっははは! 王子様、国政に出たこともないくせに敬ってもらおうなどとお考えめさるな」

「黙れ、クソ魔ジジイ!!」

 スノードロップも自国の王子が雑に扱われたのに、それを怒るどころか大爆笑している。エリオットは味方を一人も得られずに真っ赤になって怒った。

「おーっほっほ! 何やら愉快な事態になっているようじゃ。長生きはするもんじゃなあ」

 スノードロップはエリオット、ジェイとアニー、それからミチルを順番に見て更に笑った後、持っていた杖を軽く振り上げた。

「では、とりあえず邪魔なヤツは処理するかのう」

「ええっ!?」

 ミチルは地面に転がって気絶している刺客と思しき男を、スノードロップが冷たい目で見たので思わず血の気が引いた。
 処理って言った!?人を処理するってまさか……

ウェルカム、(おいで私の)プテラノドン(コンドルちゃん)!」

 スノードロップが杖を宙に振ると、その空間がグルグルと歪んで大きな怪鳥が飛び出した。

「ケケー!」

 怪鳥は羽を広げて、嘴で刺客を縛っている縄を引っ掛けて持ち上げる。

「コンドルちゃん、そいつを城まで頼むぞい。拷問でも何でもして口を割らせるんじゃ」

「拷問!? てか、コンドルじゃないし、どう見てもプテラノドンだし!」

 ミチルがどこから突っ込んでいいのか迷っているうちに、コンドルちゃんは刺客を咥えて飛び去った。

「さて。後は……魔性のお前か?」

「え?」

 ミチルを振り返ったスノードロップの目は、刺客に向けた時と同じように冷たかった。その視線にミチルは金縛りを受けたように動けなくなった。
 息も出来ず、ミチルは突然の緊張感に頭が真っ白になる。自分の意識も、体の自由も捕らわれてしまったかのよう。

「スノー! 何してる!」

 するとエリオットが厳しい顔でミチルとスノードロップの間に立った。それでミチルは意識を取り戻し、体も動くようになる。

「ハッ、ハァ……ッ」

 止まっていた肺が急に酸素を取り込んで、ミチルは荒い呼吸を繰り返した。

「大丈夫か、ミチル!?」

「はふっ、う、うん……」

 エリオットの腕に体重を預けて、ミチルは少しホッとする。それまで爆笑していたお爺さんとは思えないほどの圧力だった。

「スノー、どういう事だ。いくらお前でもミチルに手を出したら許さねえぞ……!」

「ふむ。我が王子をここまで取り込むとは、やはり魔性……」

 エリオットの睨みを意にも介さず、スノードロップはミチルに近づいてその顔をじっと見た。

「──にしては、間抜けな顔をしておるのう」

「くそまじじい!」

 ニンマリと笑ったスノードロップの顔は百戦錬磨のタヌキジジイのようだったので、ミチルは思わず突っ込んだ。

「ほっほっほ。すまんの、ちいと確かめようと思っての」

「……何をだよ?」

 エリオットが怪訝な顔で聞けば、スノードロップはやっぱりタヌキジジイ風に首を振った。

「いやあ、よくわかりませんのう」

「クソ魔ジジイ!!」

 エリオットの怒号も華麗に無視して、スノードロップは空を見上げながら言った。

「とりあえず、コンドルちゃんが運んでったヤツが何なのか説明してもらえるかの?王子様よ」

「クソ、わかったよ……」

 スノードロップはそこで漸くにっこり笑って、一同を小屋に招き入れた。

「老人に立話は酷じゃからの、家に入れてやるわい」

 スノードロップの一連の気迫に黙ってしまったままのジェイとアニーは、表情を強張らせたまま促されるままに中に入った。
 その後に続くエリオットは、ミチルの手をずっと握って神妙な顔をしていた。

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