1 三人目の恋敵!?
魔法の国アルブスにて現れたベスティアを倒したミチルとエリオットは、エリオットが師と仰ぐ(予定)のスノードロップの危機を感じて急ぎ彼の住む小屋にやってきた。
そこで鉢合わせたのは、既に刺客をボコボコにしていたジェイとアニーの二人。
イケメンダブルチューンのオーラをミチルが見紛うはずもなく、ここに感動の再会は果たされた。
「やっぱり二人ともアルブスに来てたんだね!」
「ミチルぅう!」
嬉しくてエリオットの後ろから飛び出したミチルを、まずアニーが歓喜とともに抱きしめた。
「ああ、ミチル! 良かった、本当に良かった!!」
ぎゅむぎゅむのスリスリでアニーのいい匂いがムンムン!
久しぶりのスキンシップにミチルの心臓はパンパンに膨らんで破裂しそうだった。
「ほわあぁ……!」
「ミチル、済まなかった。もう何処にも行かないでくれ」
今度はジェイが後ろからハグハグのグリグリッ!
挟まれたミチルは二人からの抱擁になんか出ちゃいそうになった。魂的な何かが、である。
「もきゅぅ……」
有頂天に達しそうになったミチルの腕を、エリオットは乱暴に引いてイケメンコッペパンからミチルを引っこ抜く。
「あっ!」
「む?」
アニーもジェイも、ミチルを奪った先の人物に注目した。
身なりのよいおかっぱ頭の青年が、ミチルを後ろに隠して唸りそうな顔で二人を睨んでいた。
「何だ、お前ら。俺の妻に触るんじゃねえ」
「つ!」
「……ツ?」
雷に打たれたように驚くアニーとジェイに、ミチルは大声で否定した。
「妻じゃねえからぁっ!」
だがエリオットはまだ二人を睨みながら低い声で威嚇した。
「さてはテメエらがミチルとデキてた野郎共だな?残念だったな、ミチルはおれがNTRしてやったぜ!」
「
「……ね?」
真っ青になって衝撃を受けるアニーと、ひたすら首を傾げるジェイ。
「違う違うッ!」
後ろでジタバタしてミチルは訴えたが、エリオットはミチルを横から抱きしめて二人に舌を出す。
「ミ、ミチル……嘘でしょ?」
わなわなと震えるアニーは、すでに膝に力が入らず生まれたての子鹿のようだった。
「ウソウソ!」
「ウソじゃねえ、ミチルはこのおれ様がキッス30回で完全に上書きしてやったんだ!」
「お前、大人になったんだからエロガキ発言はよせえ!」
ミチルが喚いて首を振るけれども、アニーの耳には届いていなかった。
「…………(ぴよぴよ)」
「アニー殿、しっかりするんだ。灰の様だぞ」
ジェイが揺さぶるがアニーは立ったまま気絶していた。
「へっ、ざまあみろ!おれの妻に二度と手ェ出すんじゃねえぞ」
「エリオットぉお!」
ミチルの嗜める声も無視し、エリオットは舌をべえっと出し続ける。完全に調子こいたエリオットを真っ直ぐ見つめて、ジェイは静かに言った。
「僭越ながら申し上げるが……」
「……あ?」
「こちらのアニー殿は遠いルブルムからミチルを守って、こちらの大陸に連れてきてくれた勇敢な御仁である」
「それで?」
「私はミチルがこの地に降り立った時、騎士の端くれではあるがこの腕でミチルを守り抜いたと自負している」
「ふーん」
え。ちょっと待って。
ジェイ、怒ってる……?
ほぼ聞き流しているエリオットに、とうとうジェイはずいと近寄ってその長身で威圧した。
「そちらも恐らくアルブスの地でミチルと触れ合い、彼を守ってくれたのだろう。ならば我らは同等。そのような振る舞いは手前勝手ではないか」
えーっと……
つまり要約すると?
ミチルについて優位を語るな、俺達三人は同等でミチルにアタックする権利がある!
……てこと?
「きゃああああっ!」
ミチルはジェイがエリオットをずもももと睨んでいる隙に、ジェイの言葉を分析した。
その分析が当たっていたかはわからないが、妄想が広がったミチルはなんか興奮して奇声を上げた。
「──はっ! ミチル!?」
灰になったはずのアニーは、ミチルの悲鳴で元の人型に戻った。
「まずは私達に暴言を吐いたことの謝罪を要求する」
「ジ、ジェイ……ちょっと落ち着いて」
ミチルはジェイがここまで怒るのを初めて見た。
引きこもっていたためヒョロヒョロのエリオットと、訓練に明け暮れたガチムチのジェイでは、エリオットの方が分が悪い。
「お前、生意気だな! カエルレウムの下級騎士の分際でおれに意見しようっての!?」
だが、体格で劣っても身分では圧倒的に優位のエリオットは物怖じしなかった。
ジェイの服装から正確に身柄を当てて見せる頭と、強力な魔術を彼は持っているのだ。
「……」
「……むむむ!」
二人の睨み合いは数秒にも、数分にも感じられた。それだけ緊迫した空気が流れていた。
「そこまでじゃ、小僧ども!」
すっかり傍に追いやられていた一人の老人が、漸くその場を一喝する。年齢の割に、その声は往年の声優の様に朗々と響いた。
「黙って聞いていれば大の男が三人寄ってたかって痴話喧嘩など! 全くもって度し難いわ!」
ゆっくりと前進してくる長い白髭の老人は、ザ・魔法使いといった黒いくたびれたローブを身に纏って、三角帽子を被り杖をついている。その様に、ミチルでさえもこの人が王様が信頼している大魔法使い、スノードロップ翁であることは瞬時に悟っていた。
「出やがったな、クソ魔ジジイ……」
「ほっほ、十年ぶりですかな。まさか魔法が解けているとは思いませなんだ」
歯軋りするエリオットに、スノードロップはカラカラ笑って話しかけた。
それから膝を折って頭を下げる。
「王子様……我が君よ、ご立派に成長されて喜ばしいことでございます」
「え……あ、うん」
『ご立派』に成長したかはさておいて、エリオットはいきなり跪かれて少し面食らっていた。
そしてそれを見ていたジェイとアニーは、目を丸くして驚く。
「王子様!?」
だよねえ。そうだよねえ。デジャヴだなー。
ミチルは一人岡目八目でその場を俯瞰して見ていた。