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バレンタイン監禁

はっと気が付くと、休憩室のパイプ椅子に後ろ手に手錠をかけられていた。しかも足首には、ぐるぐるとガムテープが巻き付けられている。
なんだこれはと、頭の中で状況を整理する。今日はバイト先のファミレスが定休日で家でのんびりしていたところ、後輩のバイトの女の子から大事な話があると呼び出されてバイト先のファミレスに来た。彼女は、ようやく仕事を覚えて使えるようになってきたばかりであり、突然バイトをやめられたら困ると思い、俺は急いで家を出た。バイト歴がそこそこ長いので、店の鍵を預かっていて、それで中に入り、後輩を待っていた。が、誰かに後ろからガツンと殴られて気が付いたら、この状態である。
まったく訳が分からない。俺を呼び出した後輩の女の子が怪しいとは思うが、こんなことする理由がわからない。だいたい、とてもまじめで、仕事もそこそこできて、入った直後は、分からないことが多くて、俺たちに迷惑をかけたこともあるが、ひどいミスもなく、多少の注意はしたことあるが、恨まれるほど酷くののしった覚えもない。
そうやって当惑していると、その俺を呼び出した後輩が、更衣室を兼ねてロッカーのある休憩室に入ってきた。
「あ、起きました? 鈴木さん。頭痛かったですか?」
「やっぱり、君の仕業なのか、なんでこんなことを」
「大切な話があるからです」
「は? こんなことしなくても,話なら聞くけど」
「じゃ、聞いてくれます? 鈴木さん、バレンタインでみんなから、お客さんからもバレンタインのチョコをもらってましたよね?」
「それが何? お客さんからとはいっても、ここの常連のおばさんからだし、みんな義理チョコだったけど、それが何?」
「鈴木さんは、私のこと、好きか嫌いかどっちですか?」
「・・・嫌いだなんて言った覚えはないけど」
「私、鈴木さんが大好きなんです、それとなく気づいてたですよね?」
「え、そうだったの?」
寝耳に水というやつで、俺には全然心当たりがなかった。
「それなのに、あの日、みんなの義理チョコと同じように受け取って、何の返事もくれなくて・・・、だから、こうして、二人きりで、答えを聞かせてもらいたくて・・・」
「こ、答えって?」
「私のこと、好きか嫌いかです、答えてください」
正直、後輩の彼女を恋愛対象として、見ていなかったので、好きか嫌いか咄嗟に答えられなかった。しかも拘束された状態で、彼女を逆上させるような発言は避けるべきだろうと、頭の中でいろいろ考える。
「さ、さぁ、返事を」
彼女の手に、きらりと光るナイフが握られているのに気が付き、ますます、なにも言えなくなるが、ゴンっと鈍い音がして、彼女が倒れる。
「大丈夫ですか、鈴木さん」
清掃用のモップの柄で彼女の頭をどついた、バイト仲間の田所さんが、俺に駆け寄る。
「田所さん、どうしてここに」
「いつも見てましたから、仕事中も休みの日も鈴木さんのこと」
「いつも?」
「はい、いつもです。だから、こうして助けに・・・」
いつもってストーカーってやつじゃないかと俺が思ったとき、田所さんは、後輩の落としたナイフを手に俺に詰問した。
「いい機会です。鈴木さん、バイトの女の子の中で誰が一番好きですか」
「ひっ・・・」
「正直に話してくれたら、解放してあげます」
田所さんは、ナイフと俺を交互に見た。

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