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禁猟区

気がついたら、SF的空間にいた。壁も天井もツルツルの金属製で横になっていたベットらしき台だけが柔らかかった。
「お目覚めですか」
なんか無機質に事務的な声で銀髪の女性が、俺を覗き込んでいた。
「こ、ここは・・・」
「あなた方の言葉でUFOと呼ばれるものの中です」
「なに・・・」
俺は自然公園でウォーキング中に目の前に強烈な光の玉を見て、そこからここまでの記憶がないことに気がついた。
「俺をさらったのか?」
UFOに人間がさらわれるという与太話はたくさん聞いていた。
だが、その女性は苦笑を返してこう俺に言った。
「逆です、密猟者からあなたを助け出したんです」
「は?」
「最近、地球人の肉は極上の美味という噂が銀河中に広まりまして、それで密猟して地球外に地球人を連れ去る宇宙人が急増しまして、我々はそれを取り締まる警察のような組織の者です」
「密猟?」
「はい、まだ恒星間航行の技術を持たない地球人類は、文明の発達していない未開種族に分類されますので、保護対象として地球は不可侵の宙域となっています。ですが、その禁を破ってでも、地球人の肉を欲する者が後を絶たず、あなたを巻き込んでしまいました。申し訳ありません」
「地球人の肉って、そんなに美味いの?」
「さあ? 防腐剤や添加物だらけの食品を食べているあなた方を、わたしは美味そうに感じません。一時的なデマで、すぐに密猟者は減ると思います」
「それは良かった。もちろん、俺はすぐに地球に帰してくれるんだろうな」
「はい」
そうして地球に帰された俺は、この体験談が金にならないか、あちこちに当たったが、どこも信じてくれず、大抵頭がおかしいヤツという目で見られるだけで、俺も、しばらくして、誰にもその話をしなくなった。

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