便秘みたいなもん
あれから一週間経った。
俺は毎日ギルドで暇してる奴らに声を掛けたが、やはり駄目だった。
嫌われてるのは知ってたけど、まさかここまでとは。
何年も俺をパーティーメンバーとして受け入れてくれていたゼオルたちって懐が広かったんだな。
諦めてもう一回マーヤさんに頼んでみようかなと思いかけた時、例のボロ椅子に腰を下ろしていた俺に声を掛けてくる奴がいた。
ユブメだった。
「シラネさん。こんにちは」
「ん。ああ君か。また会ったな。お、背ぇ伸びたか?」
「一週間でそんな変わらないですよ」
「そっか。で、こんなむさ苦しいとこで何してるんだ?」
「あれ、ご存じないですか? 私も冒険者やってるんですよ」
「ふーん……は!? え、嘘だろ」
「嘘でも冗談でもないですよ」
「待て待て。君、確か体が弱いんじゃなかったっけ?」
「……それを覚えててなんであのことを覚えてないのかな」
ユブメは小声で何かを呟いた。
「ん? ごめん。聞き取れんかった」
「なんでもないですよ。えーっと、とりあえずここ座っていいですか?」
「もちろん」
ユブメは俺の対面の席に着いた。
「シラネさんの言う通り、私は生まれつき体が弱かったんですけど、以前に魔法でなんとかしてもらったので今はもう大丈夫です」
「へぇー。……俺その説明のされ方ちょっと苦手だわ。魔法のこと全然分からないし」
「そうですか。それじゃあもう少し詳しく説明しますね。私の体が弱かった原因は、体内を巡るマナを体の外に放出する器官が詰まってしまっていたことなんです。それで本来体外に放出しなければならない不要になったマナも体の中に留まり続けて体に不調をきたしていたという感じです」
「なるほど。つまりは便秘みたいなもんか」
「ま、まぁそうですね。……そしてそれを解消するために、詰まっていたマナを放出する器官を魔法で治療してもらったんです」
「へぇー。そういうことね。……ん? なんでジト目で見てくるの?」
「別に。なんでもないですよ。ただ、本当に他人事だなと思っただけです」
「え、俺そんな素っ気なかった? ごめん」
「いや、そういうわけじゃないですけど……」
ユブメは複雑そうな表情をしている。
この辺は姉のウタメと似てるな、と俺は思った。
ウタメも主張が激しい方ではなく、何か伝えようとして相手に話しても、通じなかったらすぐに諦めるような奴だったのだ。
俺はウタメが自分の意見を引っ込める癖があることに気づいていたから、そういう時はしつこく訊いて、考えてることを無理やり聞き出していた。
よくよく話を聞けば結構面白いことを考えている奴なのだ。
それを表現することが苦手なだけで。
そんなことを考えていると、ウタメのことが少し心配になってきた。
ゼオルもポニテノも自分の意見をはっきり言うタイプだからなぁ。
ゼオルとポニテノがウタメと喧嘩、というかゼオルたちが一方的にウタメに対してキレたりしないように俺は緩衝材の役割を担っていたつもりだ。
俺がいなくなったあのパーティーは果たしてちゃんとやれているだろうか。
普通に仲良くやってたらそれはそれで悲しい気がするけど。
まぁ今は自分のことで精一杯だ。
あいつらのことは落ち着いた時に考えることにしよう。