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閻魔帳

彼らはどこにでもいた。背広姿で、事故現場とかには特に多くいた。彼らは俺だけにしか見えないようで、一人に一人づづ張り付くように人間を尾行し、時々メモ帳を開いて、何かを書き込んでいた。で、その日、俺はいつも通りに出勤しようと駅に向かっている途中、運転操作を誤ったらしい乗用車にはねられた。救急車が近づくサイレンの音を聞きながら、彼らが、俺の様子を見ながら熱心にメモを取っているのが見えた。彼らの額には角があり、服装は背広でも、間近で見た顔はやはり鬼だった。
救急車の中で意識をなくし、気が付くと俺は亡者の列に並んでいた。
「ほら、お前の番だ」
俺は鬼に小突かれて閻魔様の前にいた。日本画の閻魔様の想像図とそっくりだった。
「うむ、お主は,善行もないが、悪行もないの・・・、ならば、極楽行きだ」
「極楽行きですか」
「そうだ、悪いことを何もしてないなら地獄で罰する理由もなかろう。さっさと転生して、今度は功徳を積み、その後極楽浄土を楽しめばよい」
「あの、ところで、閻魔様、一つ聞いていいですか?」
「なんじゃ、自分から進んで地獄を経験してみたいのか?」
「いえ、生前、地上で鬼を観ました。彼らは、もしかして閻魔様の部下で、その閻魔帳に人間の罪状を書き込むために人間を見張っていたのですか」
「ほほぉ、生きてる間に見えておったのか、その通り、この閻魔帳を正確に作るため、現世にはたくさんの鬼が見張っておる。どんな罪も見逃さん。それを知らずに悪事を働く悪人が多くていかん。だが、お主のように良いことも悪いこともしないものが優れているというわけではないぞ、処罰する地獄がないだけだ」
閻魔様は、そう言って苦笑した。

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