ソロキャン
子供が急にいなくなったら母親がパニックになるのは仕方ないだろう。だが、だからと言って、たまたま、その少し前まで、その近くでソロキャンをしていた俺を疑い、騒いで警察に俺が怪しいと訴えて、逮捕させようとするのは、やり過ぎだった。
あの日、たまたま俺は、あの家族の近くでテントを張った。俺は仕事がひと段落して、有給を消化するため平日に一人でキャンプに来ていた。その家族も、夫婦で子供一人連れて、たまたま旦那さんの都合で平日に家族でキャンプすることになった。平日で、他に利用者もいなかったから、俺は軽く挨拶はした。で、一人の俺の方が先にテントを片付けて、そのキャンプ場を去った。その後、その家族も片付けて帰ろうとした。だが、荷物をすべて車に乗せて、いざ出発しようとしたときに、子供の姿がないことに気づいた。夫婦は、さっきまで片づけを手伝っている子供の姿を見ていたし、トイレに行くとも、何も聞いていなかった。帰るのが惜しくなって、近くで遊んでいるのだろうかと、夫婦は子供の名を叫んで必死に探したが、どんどんあたりが暗くなり、パニックになった母親がついに警察に連絡した。警察の対応は迅速で、すぐに人手を集めて子供の捜索を始めた。そして、警察に色々と事情を聞かれている間に母親は、先に帰っていた俺が怪しいと言い出した。人手を動員しての山狩りで何の手掛かりもなかった警察も、その母親の証言に踊らされて、そのキャンプ場の管理者から俺の連絡先を聞き出して、昼間キャンプしていた場所で子供が行方不明になった、何か知らないかと、最初はただ情報提供を求めるだけのような感じだったが、山狩りが、一日、二日と空振りになると、警察は、俺に任意同行を求めた。やましいことは何もないので、堂々と警察署に向かった。すると、マスコミが、容疑者らしき男性が警察の事情聴取を受けたとスッパ抜き、しかも、仕事先にもその噂が伝わって、俺が子供を誘拐した凶悪犯のような視線を感じるのに一週間もかからなかった。最悪なことに、マスコミの取材を受けた母親が、あの子は賢い子だから、一人で勝手に行動して迷子になるわけない、絶対に事件に巻き込まれたんだと、子供から目を離した親の責任には言及せずに、誰かのせいだと涙ながらに訴えていた。マスコミのコメンテイターも、母親に同情するように誰かに連れ去らわれたのではないかと涙ながらに訴える母親の映像を何度も流して凶悪な誘拐犯がいるような報道をして、容疑者として噂された俺は仕事もしずらくなり、有給を貯め込むほど一生懸命働いた仕事場から逃げるように通勤途中の電車に飛び込んだ。
だが、俺が自殺したことで、ますます、俺が怪しいということになり、俺の自殺で事件は迷宮入りしたみたいな雰囲気が漂った。
しかし、数年後、白骨化した子供の遺体が沢の下で見つかり、状況から、ふらふらと車から離れて、遊んでいたら沢に落ちたのではないかと、当時は木が茂り、遺体が見付けられなかったが、子供がふらふらと親から離れて遊ぶというのは珍しくないとして、俺の容疑は完全に晴れた。だが、その時パニックになっていた母親は、見つかった子供の遺体に縋りついて泣くだけで、自分の証言で追い詰められて自殺した俺に詫びの言葉はなかった。