浮気癖
俺は、ひとりの女で満足するということが、できなかった。
それは中学の時からそうで、同級生の子と付き合っていたときに、年上の先輩の女子生徒と初体験を済ませていた。
そこそこ顔が良くて、親しみやすい口調で近づき、一回だけやって二度と会っていないような子が何人もいた。俺が、そういう軽薄な人間だということはすぐに、周りの奴らに知られ、少し遠くに出かけ、遠方の女の子と親しくなって、何回か会って、飽きたら、携帯の着信を拒否する。大抵の女は着信拒否された時点で察して、終わりになる。
たまに、しつこい女もいるが、そういうのも、いつの間にか消える。ま、俺みたいな奴との出会いは蚊に刺されたようなものだと思ってくれたらいい。
で、こんな俺でも、十年近く付き合い、俺の浮気癖を知っていてもなお、俺と同棲してくれる女がいた。女友達からは、俺みたいな奴とは早く別れた方がいいと言われているらしい。俺も、その友達の言うことはもっともだと、いつか別れ話を切り出されるだろうと、心の準備はしていた。
「おかえり」
アパートに帰ると、いつものように彼女が夕飯の準備をしていた。
「お、今日はビーフシチューか」
「好きでしょ、ビーフシチュー」
「あ、ああ。好きだよ。美佳子の作ってくれる料理なら何でも、好きさ」
「うふ、ありがとう」
だが、俺は気づいていた。俺が飽きたのを察せずにしつこく毎日メール等で連絡してくる女がいて、そういう女が、ぱたりと連絡してこなくなった日には、必ず、ビーフシチューが出た。もしかして人間の肉を使っているのではと、俺は彼女に問い詰めたくなる時があるが、そういう勇気は俺にはない。