腹の中
「あっ、やっとつながった」
「ん? どうした?」
「詳しい話はなしだ。家から一歩も出るな、外はやばい」
「は? 何言ってるんだ」
窓の外は、気持ちのいい晴天で、土砂降りとか暴風とかやばそうな気配は一切ない。
「いいから、真面目に聞け、外には出るな。家の中に閉じ籠ってろ」
「お前、どうした、どこにいる?」
「いま、奴の腹の中だ、お前も溶かされたくないだろ?」
「溶かされる?」
「いいから、忠告したからな。今から、母さんに最期の電話を掛けるから、切るな」
「お、おい・・・」
「・・・」
通話は途切れ、俺は首を捻りながら、こちらから掛け直してみた。
が、母親と通話中なのかつながらず、俺は浩二の言葉の意味を考えていた。そして、俺の部屋のドアが、ドンドンと激しく叩かれた。
誰だうるさいなと思いつつ、ドアに近づく、新聞の勧誘なら、きっぱり断ってやろう。そう思いながらアパートのドアをうっかり開けてしまい、俺は一瞬でそれに食われ、浩二と同じように腹の中で、溶かされた。