バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

正義執行

噂を流す人間は、その噂が真実であるかよりもその噂を流すのが正義だと思っている場合が多い。例えば、殺人犯のような凶悪事件の加害者の親や職業などの個人情報は、多くの人に広めるのが世のためだと思い込んでいるのか、ネットで噂として流すのが日常になっている。彼らは個人情報の拡散が、凶悪犯への制裁にもなっていると思い込んでいるようだ。
その書き込みも、どこそこの駅前で、何々事件の逃走中の殺人犯と特徴の似ている男性がいるという書き込みだった。ちょうど、俺もその駅にいたので、まさかと思いつつ辺りを見渡したが、それらしい人物はいないが、代わりに、そのSNSの書き込みの人物の特徴が俺に似ていてゾッとしてしまった。すると、キョロキョロして、ますます怪しいと追加で書き込まれ、俺は気分が悪くなって予定よりも少し早く改札を抜け、電車に乗った。すると、その電車に乗った様子まで克明に書き込まれ、俺は乗り込んだ車内を見渡した、サラリーマンも学生も、みなスマフォをのぞき込んでいる。誰が書き込んでいるのか、俺が電車に乗り込んだ様子や、辺りを不審そうに見渡していることも書き込まれていて、しまいには、警察に、通報した方がいいかも、私、通報しましたという書き込みまでされていた。
この電車にはいられない。俺はすぐ、次の駅で電車を慌てて降りた。すると、待ち構えていたかのように駅員と数名の警官が俺の方に駆けてきた。このままでは、身に覚えのない殺人犯として捕まると思い俺は思わず後ずさり、ホームから足を踏み外し、ちょうど下り電車がホームに入って来た線路に落ちた。
残された俺の携帯から、俺を追い詰めた書き込みの詳細が判明し、書き込みをした連中には一切のつながりはなく、逃走中の殺人犯と特徴が似ていただけで実況の書き込みをしただけで、彼らに悪意はなく、線路に過って転落するなんて予見できなかったとして誰も罪には問われなかった。

しおり