第14話
「攻撃……?」レイヴンは衝撃を覚えながらも心の片隅で、こいつは法螺を吹いているのではないか、と勘繰りもしていた。「君たちを、ということは、ギルドを?」
「そう」ルルーは頷きながら地上でいまだ震えている傷ついたチンパンジーを見下ろし、次の瞬間その赤い目から鋭い光線を迸らせ件のチンパンジーに照射した。チンパンジーは黒こげの様相になり地上に倒れ伏して、完全に動かなくなった。
「あっ」叫んだのはレイヴンだけでなく、コスもキオスもだった。
「うん」ルルーは頼みもしないのに、今自分が何をしたか説明した。「あいつはもう死ぬだろうから、無傷のDNAだけ回収しとくよ。参考までに」
「──」おい。レイヴンはすんでのところでそう怒鳴るのを抑えた。「参考って……何のための?」いかにも参考までに知りたいという姿勢を見せて質問する。
「そりゃ決まってるさ」ルルーは少し吹き出しながら答える。「宇宙への関与度調査だよ」
「関与度──」レイヴンは茫然と呟いた。
「そう。こいつの遺伝子がどの分子をどれだけ使って何を生みだし、環境に如何なる影響を及ぼしたか。さらにその環境から如何なるフィードバックを受け如何様に進化していったか。まあざっくりいえばそんなところかな」
「へえ」レイヴンはそっと頷くことしかできずにいた。「そうか、それがギルドの」
「彼の幸福追及の権利は?」溜らず口を挟んだのはコスだった。「彼は宇宙である前に一個のチンパンジーだろ」
「そうだ、その通りだ」キオスも同調する。「ギルドは傲慢だ」
「あれ」ルルーは真顔になった。「我々に楯突くのは地球の動物だけじゃないようだね」
「いや、違う」レイヴンは咄嗟に触手を最大限に伸ばし収容籠を庇った。「攻撃するつもりなんか一切ない。ただ彼らの、そう──哲学というものがあるんだ、それを述べただけだよ」
ルルーはじっとレイヴンを見ていたがしばらく答えずにいた。
「よく、言って聞かせとくから……今日のところは、ね」レイヴンはルルーの赤い目からいまにもあの光線が照射されるのではないかと思うと伸ばした触手が震えるのだったが、それでも広げたまま動かさずにいた。
「あ」突如ルルーは上空を見上げた。「そうだこうしちゃいられない。私は先遣隊としての任務を遂行しなければ」そう言ったかと思うと出し抜けにブレードをくるくる回転させ空高く昇って行きはじめた。「君らの無事を祈るよ、レイヴン。そして哲学動物たち」
「あ」レイヴンは拍子抜けしながらも「ありがとう」と挨拶したが『またいつか』とは続けなかった。