迷子
マーヤさんが暇になるまで、まだまだ時間がある。
俺はヒユネリの花を片手に町を歩き回った。
この国は魔王城から遠い位置にあり、比較的平和で治安も悪くない。
平和が一番だ。
人々の防犯意識が薄いと物を盗るのも簡単だし。
それに人が笑顔でいるのを見ることが俺は好きだ。
俺が今まで冒険してきた中で立ち寄った国では、魔王軍の侵攻に怯え、今日を生きることで精一杯な人を見ることも多かった。
それに比べてこの国は、この町はなんて平和なんだろう。
やっほーい!
平和最高!
そんなことを考えてながら歩いていると、道端で泣いている子供を発見した。
道行く人々はみんな見て見ぬふりをしている。
けしからんな。
誰か声を掛けてやればいいものを。
仕方がないので俺が行くことにした。
「どうしたんだ? なんで泣いてる?」
しゃがみ込んで声を掛けると、子供は顔を上げて腫れた目で俺の顔をじっと見てきた。
「おかあさんとはぐれちゃった。迷子になっちゃったの」
「はーん。迷子ねぇ」
俺は周囲をざっと見渡してみたが、この子の保護者らしき人物は見当たらない。
視線を子供に戻すと、また俯いてシクシク泣いていた。
「なぁ。どこで離れ離れになっちまったんだ? ……おい、男がいつまでも泣いてんじゃねえよ。ってかお前名前は?」
「……ソーヤ」
「ソーヤね。で? どこまで一緒にいたか覚えてるか?」
「……分かんない」
「そっか。じゃあどっちから来たのかは分かるか?」
「あっち」
ソーヤは俺が来た道を指差した。
「じゃああっちに向かって歩いてれば出くわすんじゃねぇの? とりあえず行ってみようぜ」
「え……うん。わかった」
ソーヤは俺の顔をじっと見つめたかと思うと、こくんと頷いて立ち上がった。
そして俺の方に手を差し出してきた。
「ん? なんだよその手は?」
「……また迷子にならないように」
「あー。手繋いでたら迷子にならなくて済むもんな。お前頭良いな」
「へへ」
そうして俺たちはソーヤの母親を探し始めた。