買い取り屋
俺は小一時間ほど休憩した後、近くの買い取り屋に向かった。
この店は俺がよくお世話になっている場所で、大体なんでも買い取ってくれる。
路地裏でひっそりと営業していて、店に来るのは大体常連の者ばかりだ。
「こんちわー」
ガラガラとやかましいガラス戸を開けて店に入る。
店内は薄暗く、湿っぽい空気が充満していて俺の他に客はいなかった。
所狭しとガラクタが並べられているせいで圧迫感がある。
奥からジジイの声が聞こえてきた。
「おー。その声はシラネか」
「ああ。また売りに来たぜジイさん」
俺は床に無造作に置かれているガラクタを踏まないように気をつけながらカウンターへ向かった。
なんとかレジカウンターに辿り着くと、薄汚いジイさんと目が合った。
ジイさんはニヤリと笑った。
「今日は一体何を持ってきたんだ?」
「くだらないもんさ」
俺はポケットから取り出したものをジイさんに見えるようにカウンターに並べた。
ジイさんはそれを見て鼻で笑った。
「ふん。確かにしょうもないもんばっかだな」
「買い取ってくれるかい?」
「まぁ買い取りはするが……全部合わせて5ゴールドってとこだな」
「ガキの小遣いだな。まぁいいさ。買ってくれ」
ジイさんは頷いて俺が渡した物を丁寧に仕舞い込むと、5ゴールドを差し出してきた。
「まいど~。んじゃまた来るわ」
「おう。あ、そういえばお前、パーティーをクビになったんだって?」
俺は眉をピクリと動かした。
「あ? 何で知ってんだよ」
「噂になってるからな」
「昨日の今日で? いくらなんでも早すぎないか?」
「まぁあのパーティーは最近実力をつけてきて注目されてたし、メンバーの人柄も良くて人気が出始めてたところだったもんな。お前以外のメンバーの話だが」
ジイさんは意地悪く口角を上げて余計なことを付け加えた。
そして呆れたような調子で訊いてきた。
「お前これからどうするつもりなんだ?」
「ほっとけ。どうにかするさ」
俺は吐き捨てるように言って店を出た。
薄暗い店から出ると、太陽が腹立たしいほど眩しく感じた。
嫌な気分だ。
町を歩いていると、素敵なご婦人からも薄汚いおっさんからも面白がるような目を向けられる。
俺はわざと音を立てるように地面を踏み鳴らしながら歩き回った。
しばらく歩いていると、いい感じの花屋が目に入った。
マーヤさんに花でも買っていこうと思い、立ち寄ることにした。
花屋で花を選ぶ時は、店員さんに訊くのが一番手っ取り早い。
「すみませーん」
「はーい」
俺が声をかけると、愛想のいい若い女性店員がやってきた。
「特別な日とかってわけじゃなくても、女性に花を贈るのってアリだと思います?」
店員さんはにこやかに頷いた。
「もちろんです。喜ばれると思いますよー。失礼ですが、お相手の方とはどのような関係でいらっしゃいますか?」
「母親っすね」
「お母様でございますね。でしたら……ヒユネリなどはいかがでしょうか」
店員さんは花びらが小さくて薄いピンク色の花を指して言った。
「あーじゃあそれで。金が無いんで一輪だけ」
「かしこまりました」
1ゴールドだった。
会計の時、レジのところに魔王軍の襲撃を受けて復興中の村への募金? みたいなことをやっているのに気づいたから残りの4ゴールドを突っ込んだ。