第四話🌿同窓会と同伴と再会
あれから月日は経ち、季節は秋から冬になった。
『同窓会か……
どうするかなぁ……』
はっきり言って、僕は乗り気じゃない。
『何がです?』
僕は手に持っている同窓会のお知らせを掲げて見せた。
親しい友人はいたけど身体のこともあり遊びの誘いも断っていた。
それでイジメにあったこともある。
唯一、救いだったのは共学だったこと。
『私が同伴したら行きますか?』
まぁ、同伴者可とは書いてある。
『凌杏はそんなに僕に
同窓会に行ってほしいのかい?』
『いえ、どちらかと言いますと
私があなたの学生時代に興味があるのですよ』
そういうことか(苦笑)
『わかったよ、一緒に行こう』
**当日**
『段差、気を付けてくださいね』
凌杏は妊娠してから過保護になった(笑)
『大丈夫だよ、学校でだって
階段を上り下りしていたじゃないか』
うん?
そういういえば、校内では
あまりに過保護にならないな。
『校内は見取り図を把握してますし、
うちは私立で無駄に広いですから
エレベーターもありますので安全面では心配してません』
確かにエレベーターを使う頻度は増えたかな。
そんなことを考えていたら後ろから声をかけられた。
「心綺人か?」
声の主は直ぐにわかった。
『廉耶、久しぶり』
振り返りながら
久しぶりに会う友人の名を呼んだ。
手は凌杏と繋いだままだけどね。
廉耶は僕のお腹を見て目を見開いている。
十数年ぶりに会った男友達が妊娠してたら普通、吃驚するよね。
『吃驚しただろう(苦笑)
隣にいるのが僕の旦那さんでお腹の子の父親だよ』
凌杏に甘える仕草をしながら告げる。
『初めまして、向瀬凌杏と申します』
律儀に自己紹介している。
「初めまして、花咲廉耶です」
続けて廉耶が自己紹介した。
『私は、年下ですので
心綺人と話す時のように
話していただければと思います』
三人で話しながら
会場になっている八階に
行くためにエレベーターに乗った。
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「先生のところに
挨拶に行こうぜ」
廉耶は少し先に雲川先生を
見つけたらしく、そんなことを言った。
僕も挨拶には行きたいけど
凌杏から離れたくない。
そんな僕の気持ちを察したらしい。
「三人で行けばいいだろう?」
本当に昔から人の気持ちを
察するのが上手いよな。
『凌杏、一緒に来てくれる?』
自分は部外者だから
此処で待ってると言いそうだなぁ。
『えぇ、勿論ですよ』
よかった。
「決まりだな」
僕は凌杏に手を引かれながら
雲川先生のもとまで来た。
「先生、お久しぶりです」
廉耶が声をかけると
気付いた先生が嬉しそうに笑った。
「あら、花咲君と知らない子と
そっちは寿々崎君かしら?」
凌杏の後ろに
隠れるようにしていた僕。
「そうそう、心綺人と旦那さん」
廉耶が勝手に応えた。
「あらまぁ」
『初めまして、
向瀬凌杏と申します』
さっき、入り口で廉耶に
したのと同じ挨拶をしている。
「寿々崎君達の
担任だった
雲川月花咲です」
先生はあの頃から
変わっていない。
『心綺人、私の後ろに
隠れていないできちんと
ご挨拶されてはどうですか?』
年下の凌杏に言われちゃしょうがない。
『お久しぶりです』
凌杏の隣に立ち、挨拶をした。
当然のごとく視線はお腹にいく。
「そのお腹だと色々大変でしょう」
先生は僕が両性具有だと知っている。
『そうですね』
三人の子を産んだ先生は
パワフルだけど可愛らしい人だ。
「でも、よかったわ。
妊娠してるってことは
寿々崎君は彼の子を
産みたいと思ったんでしょ?」
そう、僕は凌杏の子を産みたいと思った。
『はい』
雲川先生が頭を撫でてくれた。
「困ったことや分からないことが
あったら連絡してね」
鞄からメモ帳とペンを取り出し
連絡先を書いて渡してくれた。
『ありがとうございます』
お辞儀をして先生のもとを
離れて飲み物を取りに
行こうとしたら、久崎が来た……
「げっ」
廉耶が
嫌悪感丸出しの
「さっさと行こうぜ」
飲み物は諦めて入り口に向かう。
僕の妊娠を知られたら
色々、言われるだろうし
面倒なことになるだろうな……
『そうだな』
しかし、
そう上手くはいかなかった。
「花咲・寿々崎、久しぶりだな」
「俺達に何の用だ」
廉耶がイライラしてる。
それもそのはず。
久崎は僕をイジメてたんだから。
『彼は久崎グループの
副社長ですよね?』
小声で凌杏が訊いてきた。
『そうだよ。
高校時代、僕をイジメてた
相手でもあるけどね』
僕も小声で答えた。
『だから、花咲さんは
あんなに嫌そうな:表情(かお)を
されているんですね……』
苦笑しながら
凌杏と繋いでる手をギュッと握った。
「そう邪険にするなよ」
久崎は昔から
本当にしつこいんだよな……
「大した用がないなら
俺達は帰るからどけ」
イライラがピークに
なってきたんだろう
廉耶に凌杏が何事かを告げると頷いた。
その直後、凌杏が僕を
背に庇うようなしながら
久崎の横を通り過ぎた。
僕の腕を掴もうとした手を
凌杏が抱き寄せたことでかわせた。
『ありがとう。
廉耶、下で待ってるよ』
何か言いたげな久崎は無視して
同窓会の会場を出た。
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「あの馬鹿のしつこさは
昔から変わってねえな……」
うんざりした
表情《かお》をしながらも
廉耶はわりと早く下りて来た。
『お疲れさん』
ふざけて言うと肩をすくめた。
あの性格でよく、
副社長やれてるような……
『花咲さんはこの後、ご予定は?』
会場となっていた
◆◆ホテルから出たところで
凌杏が廉耶に訊いた。
「特にないな。
妻には遅くなるって言ってあるし」
子育て歴は廉耶の方が先輩だな(苦笑)
『では、我が家へ来ませんか?』
妊娠がわかってから
一緒に住むようになった。
『心綺人は妊娠してますから
何処かお店に入るのは無理ですし
お二人も折角、
再会したのですから
積もる話しもあるでしょう?』
凌杏の思惑はわかった。
「俺は大丈夫だぜ」
タクシーを呼び、家に帰って来た。
最初は廉耶が
高校時代の話しをしたりしていたけど
その内、科学者二人の話しを
僕が聞いていた。
文系の僕にはよく分からない
数式やら、専門用語が
次から次からへと出てくる。
『お茶を淹れてこよう』
話しに夢中な二人を
リビングに残し、キッチンに向かった。
廉耶は泊まっていくことになった。
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僕の同窓会が十二月の初めだった。
廉耶と凌杏は仲良くなった。
同じ理系同士で話しが合うみたいだ。
友人と旦那さんが
仲良くなってくれるのは嬉しい。
そして、クリスマスまで
一週間となった今日は
凌杏の同窓会だ。
勿論、同伴している。
『入りましょうか』
エレベーターで会場になっている八階へ。
凌杏が
会場のドアを開けて入った。
「凌杏、遅い‼」
入り口近くにいた男性が言った。
『おや、遅刻魔だった
桜祈がいるとは驚きです』
この男性が彩月ちゃんの叔父か。
「あの頃の
ままだと思ったのかよ……酷ぇなぁ」
彼は口では“酷い”なんて
言ってるけど:表情(かお)は笑っている。
『嘘ですよ。
大体、私の職場に
彩月さんがいるのをお忘れですか?』
姪の護身用に
折り畳みナイフを
持たせるってある意味凄いよな(苦笑)
「そうだったな。
ところで、隣にいる彼は恋人か?」
僕を見てから凌杏に訊いた。
『えぇ、年上の恋人で奥さんですよ。
今、妊娠六ヶ月です。
彼も同じ職場ですから
彩月さんとも面識がありますよ』
凌杏の同級生ってとこは三つ下だよな。
『凌杏の妻で
寿々崎心綺人と申します』
よく見ると彩月ちゃんに似てるな。
いや、彩月ちゃんが似てるのか(笑)
「雪原桜祈です。
姪がお世話になってます。
そのお腹のまま
今も仕事してるんですか?」
今は産休中だ。
僕の妊娠を知っているのは
校内では四人だけ。
夫の凌杏・【父さん】
彩月ちゃん・校長だ。
『いえ、今は休んでいます。
実は彼女には
この間、助けてもらったんで
僕の方がお世話になりました』
彩月ちゃんが居なかったら
僕はあの二人に
犯されていたかも知れなかったと
想像するだけで恐怖だ……
「寿々崎さんは
年上なんですから
普通に話してください」
自然と教師モードになっていたみたいだ。
『桜祈は彩月さんの
親族ですから心綺人も
無意識に教師モードに
なってしまったのでしょう』
凌杏に見抜かれた(苦笑)
「成る程……
ですが、俺に対しては
普通で大丈夫です。
そういや、善哉先生が
凌杏はまだかって言ってたから
挨拶に行ってくれば?」
仲のよかった先生なのかな?
『それはそれは。
先生はどちらに?』
「前の方にいる。
妊娠っていえば、柊和さんも
今六ヶ月って言ってたな」
雪原さんの言葉に
眉間にシワを寄せた。
『いくら、
柊和さんが若いからって……』
凌杏がため息を吐いた。
前の方にいるという
その先生に会うために
雪原さんと別れた。
『先生、お久しぶりです。
私の奥さんの寿々崎心綺人です』
僕が自己紹介する前に
凌杏が言った。
年は【父さん】と同じくらいだよな?
「久しぶりだな。
柊和には負けるが
綺麗な奥さんもらったな」
ぇ……?
『柊和さんと心綺人では
“綺麗”の系統が違うと思いますけど』
ぇ~と……
「凌杏達の
担任だった善哉要だ。
こいつは何時も科学準備室に
籠ってて、色んな実験ばかりしてたな」
話しに割り込めずに
いたら善哉さんが話し始めた。
如何にも凌杏らしいな(苦笑)
『そんなことより、
桜祈から聞きましたが
柊和さん、妊娠六ヶ月なんですってね。
その年で子作りって、
生まれてきた子が二十歳に
なる頃には七十歳越えてるんですよ?』
呆れ顔のまま、元担任に
淡々と告げる凌杏。
たが、善哉さんは
何処吹く風だ。
『順調に行けば、
先生ん家の四人目のお子さんと
私達の子が同学年にまりますね。
そういえば、柊和さんは
心綺人と同い年でしたね』
四人目⁉
奥さん、凄いなぁ。
しかも、僕と同い年⁉
「お前より年上だとは
思ったが柊和と同い年なら
話しが合うんじゃないか?
同じ妊夫同士だしな。
二人がこの後、
予定がないなら家に来ないか?」
僕の同窓会の時は
凌杏が廉耶を我が家に
誘っていたけど、今日は
誘われてしまったな。
『私は構いませが
心綺人、どうしますか?』
僕は行きたいかな。
『お邪魔でなければ』
善哉さんの家は
会場となっていたホテルから
車で一時間程だった。
「柊和、ただいま。
今日は客がいるんだ」
僕達は玄関で待たされた。
『連絡、
入れとけばよかったものを……
年とってボケましたかね?』
さりげなく、酷いことを言うな(苦笑)
『柊和さん、突然
来てしまってすみません』
凌杏が叫ぶように言うと
奥から返事が返って来た。
「客って凌杏か……
要も先に言えよな」
文句を言いながら
玄関に来た彼は
僕と同じような身長なのに
身体は痩身で
三人も産んだとは思えない……
だけど、
妊娠しているのはわかる。
そして、確かに綺麗な人だ。
『お久しぶりですね。
彼は私の妻で
柊和さんと同い年なんですよ』
『凌杏の妻で寿々崎心綺人です』
同い年とはいえ、初対面。
「タメなら敬語なんてなし‼
普通に話してくれていいから。
呼び方も柊和でいいし、
俺も心綺人って呼んでいいか?」
サバサバした感じだ。
『僕は全然いいし、柊和って呼ぶよ』
呼び方も決まった直後、
柊和が言った言葉は……
「あの馬鹿が……
妊夫をこんな
寒い玄関で待たすなよな。
悪ぃな、リビング行こうぜ」
綺麗なのに
結構、口悪い?
「俺は元々要の生徒だったんだ。
在学中は休み時間毎に
科学準備室に行ってて
凌杏みたいに実験したり
他愛もない話しをしたりしてたんだ」
僕の周りは理系が多いな(苦笑)
『凌杏と俺達は
ちょうど入れ違いだろう?
凌杏は入学そうそう
科学準備室に来るなり
実験させてほしいって
言ったらしくて、要に
一年にお前みたいな奴が
入って来たって
言われた時は笑ったね』
想像できてしまった。
話している間にリビングについた。
「そういや凌杏、大分前
離れの実験室で
何か{薬}作ってただろう?」
どういうこと?
『媚薬を(ニヤリ)』
実験室?
「へぇ~
で、成果は?」
しかも、何で彩月ちゃんも
柊和も凌杏の{薬}に驚かない?
『大成功ですよ♬*゜
何だったら、
動画見せてあげますよ?』
録ったんだ……
「相変わらずえげつねぇな。
まぁ、見せてもらうけどよ」
そんな二人の会話に
僕はついていけない……
「そうだ、なぁ、凌杏
前に作った
◇◇って薬残ってるか?」
『ストックは何本かありますけど』
凌杏は何種{薬}を作ってるんだ?
「じゃぁ、今度持って来てくれないか?」
『いいですよ』
二人の間で話しがまとまったらしい。
この後、四人で沢山話した。
「今日はありがとうな」
帰り際に柊和が言った。
『こっちこそ、ありがとう』
来た時と同様、
善哉さんに送ってもらった。
『先生、◇◇は
後日で持って行きますね』
「悪いな、最近、
また情緒不安定でな」
僕にはわからない会話……
「話していいからな」
『わかりました。
気を付けて帰ってくださいね』
善哉さんの車が見えなくなるまで
僕達は外にいた。