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私の父親はカナイ人だ。「桜坂」という名字を受け継いだ。結構気に入っている。淡い桜色の、比類なき美しさが浮かんでくるから。
だけど、本名とは別に"ヴァーチャルネーム"の使用を用いて以降、その名字を披露する機会は減少した。
周りは私のことを、変わり者と言う。自己紹介の時、流行りのゲームや音楽に触れず、古語をマスターすることが生きがいだと言うから。
母国語はカナイ語ではないが、ルーツを辿る意味でもカナイ語を勉強している。
「言語を勉強して何になる」、「時代遅れだ」など必要ない言葉ほど、耳に入ってくる。
もう馴れた。「そんなんじゃ、モテないよ」って、余計なお世話なのに。私は恋愛に興味はない。理由は単純。面倒だから。
読書会に参加するのも、運命の人との出会いを期待してではない。言葉や物語を愛する人たちの話を聞くのが好きなだけ。
アイビーは私と違って、彼氏が欲しいと嘆いている。その割には行動に移さない。「クレンみたいに、美人じゃないし」と言うけど、私なんかよりよっぽど女の子らしい。
アイビーとは、数年前に出会ったばっかり。ペットの散歩中に声をかけてくれた。
私は犬のコウメを連れて、いつものルートを歩いていた。すると、向かいから歩いてきた彼女が、挨拶をしてくれた。
「こんにちは!可愛いワンちゃんですね。お名前を訊いてもいいですか?」
「こんにちは。この子はコウメって言います」
「コウメちゃんかぁ。いいなー、私も飼いたい」
アイビーはしゃがんで、コウメに熱い視線を送っている。撫でるのを我慢しているのかと思い、私は「撫でていいですよ」と言ってみた。
「え、いいんですか?ありがとうございます!」