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第2話 クラブを作ろう

 月曜日の学校は、まだ調子が上がらない者と、リフレッシュ済みで元気な者が半々の不思議な空間だ。
 (はるか)蕾生(らいお)は今週に限っては前者で、昨日の鈴心(すずね)とのやり取りを経ていたため疲れが少し残っている。
 
 だが、星弥(せいや)の方は優等生らしく月曜日から溌剌としていた。そんな星弥から昼休み、ある提案がされた。
 
「ねえねえ、三人でクラブ作らない?」
 
「うん?」
 
 昼食後、中庭に集められた永と蕾生は桜の木に寄りかかって欠伸を噛み殺しながら聞いていたが、星弥の突然の提案に困惑した。
 
「なんだよ、藪から棒に」
 
 蕾生が聞き返すと、星弥は少し興奮した面持ちで説明する。
 
「部室棟の端っこに、狭すぎてどの部も使ってない部屋がひとつあるんだって。でも同好会レベルなら広さは十分だよ」
 
「へー」
 
 明らかに永の反応はそれに興味がないことを表している。それでも星弥は続けた。
 
「それをね、わたしがクラブを設立するなら使ってもいいって先生が言ってるの!」
 
「はいはい、エコ贔屓」
 
 右から左へ受け流す永の態度に、星弥は少し苛ついたように眉毛だけ吊り上げて言う。
 
「二人はもうウチに来ない方がいいよ」
 
 会話の方向転換が急角度過ぎて、蕾生は思考を繋げることが即座にはできなかった。
 
「──なんか兄貴から言われた?」
 
 永の方は敏感に察しており、それまで眠そうだった顔を突然真面目にして星弥に向き直る。
 二人の両極端な態度に、溜息を吐きながら星弥は言った。
 
「直接はないけど。多分兄さんには気づかれてると思う」
 
「ま、そりゃそうか。二週続けて大騒ぎしたしねえ」
 
 永は蕾生が感じているよりも落ち着いていた。その覚悟はすでにあったのだろう。
 
「すずちゃんが言うように、わたし達の行動くらい筒抜けだと思うの。昨日突然兄さんが戻ったのもタイミングが良すぎて……」
 
「そう言われると確かに」
 
 ようやく蕾生にも話の方向がわかってくる。
 
「だからね、兄さんやお祖父様の目の届かない場所が、これからは必要だと思うの」
 
「あ、そういうこと?」
 
 そこまで聞いてやっと永は膝を打つ。
 
「そのための部活か」
 
 蕾生もそれに続くと、星弥は眉をひそめて愚痴るように言った。
 
「そうだよ、察しが悪いよ。単純にクラブ作りたいだけなら誘わないよ」
 
「あ、ひどい言い方!」
 
 永がわざとショックを受けた様な反応をしたが、蕾生は冷静に納得する。
 
「それもそうだな」
 
「ライくん、それでいいの!?」
 
 また永がお得意のワチャワチャをし出す前に星弥が言い放つ。
 
「で、どうするの? 作るの、作らないの?」
 
「もちろん作りますとも、銀騎(しらき)サマ!」
 
 永は完全降伏の意で大袈裟に頭を下げた。
 
「何部にするんだ?」
 
 蕾生が聞けば、星弥はうーんと空を見上げながら呟く。
 
「そうだね……先生に受けが良くて、それでいて他の生徒は微妙に入りたくないクラブ、かな?」
 
「なんだよそれ、そんなもんあんのか?」
 
「だよねえ。部員募集しなければいいんだけど、それも角が立つし──」
 
 二人で悩んでいると、横から永があっさりと答える。
 
「そんなの簡単だよ」
 
「ええ?」
 
 星弥が目を丸くして聞き返すと、永は得意気に人差し指を立てて言った。
 
「名付けて『これからの地球環境を考える』部! 活動内容は主に環境問題の研究と校内ボランティア──清掃したり、ちょっとしたお手伝いしたり」
 
 付け足した内容は誰かの普段の行動を連想させた。
 
「げ。絶対入らねえ」
 
 蕾生が嫌そうに言うと、星弥はにっこりと微笑みながら怒る。
 
「二人とも、わたしをいじってるんだね?」
 
「まあまあ、そのおかげでいい思いしてるんじゃない。よっ、部長!」
 
 永が茶化すと星弥は白けた顔をして言った。
 
「何言ってるの、部長は周防(すおう)くんでしょ」
 
「え! なんで!」
 
「わたしが部長までやったら、先生との癒着がバレるもん」
 
 ついに認めた、と蕾生は開いた口が塞がらなかった。
 永の方は抵抗しても意味がないと悟り、すんなり承諾する。
 
「ハイハイ、わかりましたよ、銀騎サマ。じゃあ、先生とナシつけといてね」
 
「うん。じゃあ、放課後部室棟に集合ね」
 
「もう今日からできるのか?」
 
 蕾生が尋ねると、星弥は立ち上がってブイサインを掲げる。
 
「銀騎サマに任せなさーい!」
 
 勢いよくそう言いながら、星弥は小走りに駆け出し校舎の中に消える。
 
 月曜から行動力があるな、と蕾生はその姿を感心しながら見送った。
 永がまたひとつ欠伸をしたところで予鈴のチャイムが鳴った。

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