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天才2

 前回のエピソードタイトルは天才だった。
そして今回のもそうだ。
では、その天才とは誰のことなのか。

ボクのことだ。

こいつは一体何を言っているんだと思ったことだろうが、嘘でも冗談でもない。

ただの事実だ。
まぁ別に信じなくてもいい。
どうせそのうちはっきりすることだ。


 ということで、今日は水曜の放課後。
ボクはいつも通り一人で下校しようとしていたのだが、小野寺に捕まった。

「みなもーん。今から学校の施設を一通り見て回りたいのでゴザル。案内頼めるでゴザルな?」

いきなり現れた小野寺を視界に入れないようにしながらボクは答えた。

「断る」
「何か用事があるんでゴザルか?」
「何もないが、今から作ろうかと思う」

「拙者の誘いを断るためにわざわざそんなことするなでゴザル。別に拙者と二人っきりってわけでもゴザらんよ? 恭介殿も一緒でゴザル」
「は?」

気づかなかったが、よく見ると小野寺の隣には佐々木が立っていた。

アーメン。
冗談じゃない。

小野寺一人でさえ面倒なのに、佐々木も加わるとは。
絶対断ろう。

そんなボクの気持ちを察したのか佐々木は小野寺に
「なんかあんまり乗り気じゃないっぽいし、無理言って一緒に来てもらうのも申し訳ないよ」
と言った。

いいぞ佐々木、もっと言ってやれ。

「え~案内お願いしてるだけでゴザルのに~」
小野寺はボクの腕を掴んでぶんぶん振った。

アーメン。
ボクは知っている。
こいつらの身体能力は尋常じゃないのだ。
力じゃ絶対に敵わない。

試しに振り払おうとしてみたが、まったく効果はなかった。

「……はぁ。分かった。案内を引き受けよう。だから離せ。痛い」
「あ、ごめんでゴザル」

小野寺はボクの腕を掴んでいた手を離すと、ニッコリ笑った。
「ありがとうでゴザルな」

佐々木は申し訳なさそうに謝ってきた。
「ごめんねなんか無理やりで。えーっと」
「月写水面だ」

「月写か。僕は佐々木恭介」
「ああ」

小野寺がボクのことを紹介するように
「恭介殿。こちらは冷酷な錬金術師、みなもんでゴザルよ」
と言った。

「あー。わんぱくクラブに所属してるんだ」
佐々木は今知ったというような言い方をしたが、それが演技であることにボクは気づいている。

小野寺と同様に周囲のことをよく観察している佐々木が昼の放送に気づかなかったということはないだろう。

佐々木はわざと知らないふりをしているのだ。
まぁわざわざ指摘するほどのことでもないが。
ボクは黙って頷いた。

「さて、そんじゃ行くでゴザルか」

小野寺が教室の外に出た。
佐々木もそれに続いた。

ボクはため息をついて
「アーメン」
と呟いてから、二人を追うように荷物を持って教室から出た。


 それからボクたちは適当に歩いて学校を見て回った。

ボクはあまり学校にいるのが好きじゃないから普段は授業が行われる場所以外に行くことは少ない。
放課後になればすぐに下校する。
こんなにちゃんと学校を見るのは初めてだった。

校長室の場所を確認した後に
「次は図書館に行きたいでゴザルな」
と小野寺が言った。

図書館へ向かっている時に佐々木が訊いてきた。
「みなもんは部活入ってるの?」

佐々木もボクのことをみなもんと呼ぶことにしたようだ。

「例のわんぱくクラブ以外には入ってないな」
「そっか。わんぱくクラブにはいつから入ってるの?」

「入学してから二か月くらい経った時だったと思うが」

「へぇー。じゃあもうベテランだね」
「この場合それは褒め言葉にはならないけどな」
ボクがそう答えると、佐々木は苦笑いを浮かべた。

「そんなにずっと入ってるなんて、みなもんはなんか悪いことをしたんでゴザル?」
「いや、ただ不真面目なだけだ」

「眼鏡かけてても不真面目な人間っているんでゴザルな」
「そりゃいるだろ。眼鏡をなんだと思っているんだ」

こいつの場合、冗談で言っているのか本気で言っているのか判断つかない。

小野寺も佐々木も今までの人生であまり多くの人間と関わっていないはずだからだ。
それはさておき、図書館に着いた。


 小野寺は
「ちょっと見てくるでゴザル」
と言って本棚を眺めながら歩き始めた。

ボクは入り口付近の本を適当に手に取って、表紙だけ眺めてまた本棚に戻した。

佐々木は図書館で本を読んでいる生徒たちを観察している。

しばらくして小野寺が戻ってきたかと思ったら踏み台を持ってまた向こうの本棚の方に行った。

そしてまた少ししてから今度はニンニンと口ずさみながら踏み台を持って戻ってきた。

「おまたせでゴザル。いや~そこでほたる殿と会ったんでゴザルよ」

「ああ。そういえばバイト行く前に図書館に寄るとかなんとか言ってた」
佐々木が納得したように頷いた。

「そうなんでゴザルな。ってか拙者はこれでもう学校全部見て回ったでゴザル」

「そっか。けいはこの前も部活を冷かしながら学校回ったんだったね。じゃあどうする? もう帰る? 僕はもういいけど」

佐々木がそう言うと小野寺は
「んー。そうでゴザルな。帰るでゴザルか」
と答えた。

よし。
やっと帰れる。

「付き合わせて悪かったでゴザルな、みなもん」
小野寺はニコニコしながら謝ってきた。

「別にいいさ。こんな機会でもなければ学校の施設を見て回ることなんて無かっただろうからな」

「そう言ってもらえるとありがたいでゴザル。あ、帰る前にちょっと寄りたいとこがあるでゴザルわ。いいでゴザル?」
「自由にするといい。ボクは帰るけどな」

そう言って背を向けたボクの肩を小野寺が掴んできた。

振り返ると、小野寺は人差し指でボクの頬をぷにっと突いた。

「え? 一緒に帰ろうでゴザルよ。あんま時間かからんと思うでゴザルから待っててくれでゴザル」

「……分かった。で、どこに行くんだ?」
断る方がアーメンだと思ったボクは素直に従うことにした。

「可愛いもの愛好会の部室でゴザル」

小野寺はボクの質問に対して相変わらずニコニコしながらそう答えた。

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