31話 虹色のオーラを目指して
「──まずヒデヨシさん。身体能力ですが、打たれ強くは無く力も種族がら高く無いものの、俊敏で小さいので攻撃を回避しやすく、テクニックや的確に急所を狙って短所をうまくカバーしていました。
次にスキル面ですが……普通のモンスターに対しての初期スコアは高くありませんでした。炎を吐いたり爪や歯を使っていて倒せはしますが、冒険者の上位30%程度の才能といった所でしょうか。
……ただ、ラードロと相対した時にスコアが跳ね上がりまして、格上でも一瞬の隙さえ突くことができれば圧倒できていましたね。それに、その後もう一度普通のモンスターと戦った時に新しいスキルを巧みに使いこなしスコアが一足飛びに伸びていたのも印象的です。
職業としましては、アサシン、シーフあたりの素早さの要求されるものか、唯一無二の特殊な近接型スキルを使う"トリッカー"というもので登録するのがオススメです」
ヒデヨシのデータを受付のお姉さんが説明してくれた。
ちなみにこの職業は、就いたからといって覚えられるスキルが変わるというものではない。
冒険者のデータベースに登録しておいて、助っ人が必要な時や複数ギルドで協力するときに参照するためのものだ。ただ、登録した職業に対応した訓練を受けることができるので、すぐには決められなかい初心者や、気になった職業があったり、パーティのバランスを考えるために一度職業を変えるなんてこともよくある話だ。
「トリッカーですか?」
ヒデヨシが首を傾げる。
「はい、トリッカーは先ほども言ったように近接型の希少性が高かったり唯一無二のスキルを持った方が、他の職業の型にハマらない、スキルを活かした戦い方をする場合に名乗ることが多いですね。
例えば、敵を麻痺させたり毒にしたりする状態異常スキルを活かしたサポートや、特殊な人形を使って戦ったり、手品のようにトランプやコインなどを使って意識外から攻撃したり。
モンスター種の方が多いんですが……よくあるパターンだと炎や氷などのブレスを吐いてみたり、牙や爪を使った戦いをしたり、珍しいパターンだと身体から溶岩を噴出させたり、姿をドラゴンやゴーレムなどにその都度変化させて戦ったり、翼がある方は貫通力の高い羽を飛ばすなんて方もいますね。訓練される場合はもちろん、ベテランの教官がスキルに応じた戦い方をアドバイスしてくれますよ」
「……アサシンがかっこいいなと思ったんですが、僕のスキルも客観的な視点で知りたいですし……トリッカーにしましょうか」
ヒデヨシは悩みながらもトリッカーを選択した。
「星1の冒険者の職業は一応"仮登録"になってますので、変えたくなったらこちらに仰って下さい。手続き無しで変更できますからね」
お姉さんがそう言いながら、パソコンを操作してヒデヨシの職業欄に『トリッカー』と入力する。
「──はい。それでお次はメーシャさんですね」
「きたきたっ」
今度はメーシャの番だ。
「素の身体能力もさることながら、魔力の総量もすさまじく、こと攻撃系のスキルや魔法に至っては上位0.5%の才能がありました。特殊スキルを駆使してどんな状況でも臨機応変に対応できていて、まさにダイヤの原石です」
メーシャの才能に対しベタ褒めだったが、それを1番喜んだのはメーシャでは無かった。
『くぅ〜!! っぱ、そうだよな? 初めて見た時から他とはひと味違うと感じたんだよな! へへっ、俺様の審美眼もさることながら運命力の振り幅もすさまじいってな!』
「振り幅がすさまじいって、マイナスもすごそうだけどイイのかっ」
『ことツッコミの切れ味に至っては上位0.5%の才能ってか?』
今のデウスなら何を言ってもウキウキで喜びそうだ。
「……ただ」
「『ただ?」』
しかし、そこに不穏な香りのする言葉が付け足される。
「才能に甘んじて無理やり突撃するシーンが散見されました。それに、魔法も特殊スキルも使う時に勢い任せなので、必要量の数倍以上魔力を消費しており、長期戦や強敵と戦う場合倒しきれないとジリ貧で追い詰められていました。
同じ格上の敵と戦った時、メーシャさんは毎回途中でバテてしまってスコアが振るわないのに、不慣れな状態のヒデヨシさんの方が大幅にスコアが高いなんてこともありました。慣れれば尚更です。
……まさに原石。原石のまま放置されている状態ですね。個人的にとてももったいないです。差し出がましいかもしれませんが、メーシャさんはこれからしっかり戦い方を学んでください」
『……つまりメーシャの戦い方は大ざっぱで、後先考えてないってこったな』
「……デウスはせめて『全力で今を大事にしてる』みたいな言い方してよ。こんなの、言葉の切れ味上位0.5%だよ」
先ほどまでの大はしゃぎはどこへやら、メーシャとデウスはお通夜なみにテンションが急降下してしまった。
「……あ、審査で他に良かった点とか向いている職業とかってなんですかっ?」
見かねたヒデヨシが慌てて話を進める。
「良かった点ですね。……まずやっぱり欠かせないのが特殊スキルでしょうか。これは前例のない唯一無二の性能で、敵の出した魔法や武器を奪い取って無力化できるのはもちろん、仲間のスキルをタイミングをズラして使って相手を
『……だろうな』
デウスはもし実体があったらきっとこれ以上ないくらいドヤ顔をしているだろう。湧き上がる嬉しさがまったく隠しきれていない。
「あと魔法の適性も軒並み高く、現状風魔法しか使えないようですが、他にも炎、水、地、雷、闇、光全ての魔法も学べば習得できそうですね。ただ、全てを最高まで成長させるとなると時間がかかりますので、2〜3種類を極めて他の属性に手を出すのもありです。
それと、やはり身体能力の高さなんですが、ただの回し蹴りが音速を超えて衝撃波を放ち敵を一網打尽にしていました。
小さな衝撃波を出すだけならさほど難しくはありませんが、ダメージを与えるだけでなく複数の敵を薙ぎ払う威力にするのは高ランク帯の前衛職冒険者でも難しいと言われています」
メーシャはやはり勇者に選ばれただけあって才能が突出しているらしい。
「……あーしがすごいのは分かったけど、冷静に聞いてるとあーし並かそれ以上にすごい人もいるんだね。世界って広いな」
上位0.5%ということなら、冒険者が1000人いたらメーシャの他に4人は同じかそれ以上のそれ以上の強さの者がいるわけだ。
「そうですね。メーシャさんはまだ駆け出しでもありますし、才能を引き出したりそれに見合う経験もない現状では、メーシャさんより強い冒険者の方は少なくないでしょうね。とは言っても、メーシャさんも適切な努力をすれば、特殊スキルと合わせて冒険者のトップに立つのも不可能ではないと思いますが」
「そか。がんばんないとだね」
「それで、メーシャさんの職業のおすすめですが……」
お姉さんはそこでニヤリと笑って焦らす。その表情はどこか、子どもにサプライズプレゼントをする前の親のようだ。
「なになに?」
その表情に釣られてメーシャも笑顔になってしまう。
「ずばり……"
これが言えたのがよほど嬉しいのか、お姉さんの言葉尻も弾んでしまう。
「勇者……?」
メーシャはその言葉に驚いてしまう。
受付のお姉さんはメーシャがウロボロスの勇者だということは知らないはずだったからだ。
「はい。隣国の"コリンドーネ"の貴族サフィーア家の方がひとり勇者と名乗っているそうですが、才能や特異性を考えればメーシャさんだって負けてないはずです。近接も魔法もできて、身体能力も魔力も才能も申し分ありません。特殊スキルもあります。それに……」
お姉さんはそこまで言うと声をひそめ、結界がしっかりあるのを再度確認して言った。
「不確かな話ですし、騒ぎになるとご迷惑かもしれませんのでここだけの話ですが……審査のデータを見ていたら、メーシャさんが一度だけ虹色のオーラを出したんです。虹色のオーラというのは、昔話とか神話で知ったんですが『ウロボロス様のチカラ』を示しているんだとか。……機械のバグかもしれませんが、メーシャさんは才能もありますし私にはなんとなく本当のような気がするんです」
メーシャは今まで虹色のオーラは出したことがない。宝珠を手に入れてチカラを解放すれば、もしかするとそのオーラが出せるようになるのだろうか?
「虹色……」
「だから、嫌でなければ勇者を名乗っちゃいましょうよ」
お姉さんはノリノリでニッコニコだ。
「…………」
メーシャが少し考えていると。
『メーシャが虹色か。虹色のチカラは
デウスと同じ領域。いや、デウスの協力があるのだから、それ以上のチカラを使えるだろう。そうなればデウスだけでなく、たくさんの人を救うことができるはずだ。
「……そっか。じゃ、いい機会だし"自称"を取り払って大々的に『勇者』と名乗っちゃうか!」
それで何かが変わるわけではない。しかし、メーシャはひとつ勇者としての覚悟が強まったのだった。