24話 お口が達者
「──さあさ、我々上位者陣営に対し対抗できる者がおらず退屈していたことでしょう! そんな方々に朗報です……! ウロボロスは生存しており、しかも循環のチカラの後継となる勇者まで現れました。それに加え、魔法なき世界のガイアにある星……地球に住むニンゲンが…………なんと、我々の技術を応用して対抗手段を作り上げるに至ったのです!!」
邪悪な気配が広がる暗闇の中、年齢も素性も分からぬひょうひょうとした声が響き渡る。
「なんと、あの辺境の星で……?」
「あの用心深いゴッパが鼻を明かされるわけない。ヤツはウロボロスのチカラも手中におさめているんだぞ」
「ゴッパに賭けているからって過信は禁物ですわ。ゴッパの
観客だろうか、邪神ゴッパやメーシャたちの味方でもなければ敵でもなさそうだ。
「…………しかし、その勇者は賭けに値するかどうか」
観客のひとりが不満を漏らすが、ひょうひょうとした声の主が待ってましたと言わんばかりに意気揚々と声を上げた。
「ん〜……確かに現状では押しが弱い。分かります! このまま進んだところでゴッパ陣営の勝ちは明白。それでは賭けも成立せず、見せ物としても面白くない。
しかし……! そう思うだろうと、わたくしめも少〜しばかり手を加え、ウロボロス側も勝てるよう
「「「おお……!」」」
「では、ゲームのはじまりはじまり……」
* * * * *
メーシャは今回の作戦でラードロに有効打があるか、本当にウロボロスの勇者かどうかを証明するには弱かったが、戦闘能力は十分以上であること、ヒデヨシには浄化能力があること、そしてデウスの声とカーミラの口添えによってなんとか近衛騎士団団長補助として騎士や兵士たちに納得してもらうことができた。
カーミラは王家近衛騎士団長なので、ドラゴン=ラードロにさらわれたジョセフィーヌ王女を救わなければならない。そこでメーシャは臨時の近衛騎士としてカーミラを補助、状況に応じて王女救出とドラゴン=ラードロ討伐をするのが役目だ。万が一の場合退路の確保もしておかなければならない。
灼熱=ラードロを倒して数日。
メーシャは宿屋を拠点にかまえて街周辺のプルマルやトレントを倒しつつ、来たるドラゴン=ラードロ討伐作戦に向けて身体を重力に慣らしていた。
「──ただいまー!」
さわやかな汗をかいたメーシャが拠点の宿屋の部屋に戻ってきた。
『おお〜! 帰ってきたなメーシャ』
デウスが声でお出迎え。そして、それに続いて声がしてくる。
「おかえりなさいませお嬢様!」
この中性的な少し高めの声の持ち主は……。
「ヒデヨシただいま。どんどんお喋りがうまくなるねぇ」
そう、ヒデヨシだ。ラードロ戦から本格的にお喋りの練習を始め、今ではほとんど意思疎通に問題ないレベルまで上達したのだ。
「メーシャお嬢様とずっとお喋りしたかったですからっ」
チーズをいえるようになった後、初めて喋られるようになった言葉が"メーシャ"で次に"お嬢様"だった。
『あぁっと、それよりメーシャ聞いたか? なんか農場の方で騒ぎが起きたそうだぜ』
「農場? 聞いてないよ。カーミラちゃんからもまだなんも聞いてない。」
メーシャがトレントの森から帰るのに使った道は農場とは逆方向なので、騒ぎどころか穏やかな日常そのものだった。
この世界にもスマホのような機械があったので、メーシャはカーミラと連絡先の交換をしていた。
転移ゲートで会った声の主がしたのか他の理由なのか、なぜかメーシャのスマホは普通にこの世界でも使う事ができた。とは言え、地球まで電波を飛ばすことはできなかったが。
「そっか、じゃあそんな大きなことじゃないのかもしれないな。まあ、農場で農家さんを困らせてる輩が出たって、兵士のフレッドが言ってたんだよ」
フレッドはメーシャが初日に出会ったドワーフの兵士だ。
「おけ。ちょっと様子みてくるか」
メーシャは一時的に近衛騎士所属だが守るべき王家は王様ひとりだけなので、王家守護の代わりに兵士と一緒に治安維持をすることになっている。
「僕も一緒に行きます!」
● ● ●
「──おお、メーシャさん! 来てくれたんですね」
穀物を扱う農場のはじっこに兵士のフレッドがたたずんでいた。
「どしたの?」
「
「あちらで今は農場主が対応しているんですがね、一応何かあった時止められるよう自分は待機しているんです」
フレッドが指差す方にはオーバーオールを着たおじさんと、他に見たことある姿がふたつ。
『……あいつって』
「もしかして洞窟で戦った子らじゃん!」
そこにいたのはバトルヌートリアとデスハリネズミだった。
「また農場を荒らしに来たんですか? ……でも、普通に会話してる?」
「最初来た時は自分もそう思ったんですが、どうやら違うみたいで。聞くところによると、美味しい穀物と家畜を頂いたから謝罪とお礼を込めて農場や牧場の手伝いをしたいとかなんとか」
ラードロに操られていた時にここの農場の穀物や牧場の家畜を食べていたのだが、ふたりはその間の記憶があるようだ。
「特に迷惑とかじゃないならイイけど、ちょっと話聞いてみるか」
メーシャはフレッドの話を聞くと、駆け足で農場主たちがいる所に向かった。
「──ワシは水の扱いが得意じゃから水やりは任せてくれ。スプリンクラーよりはやい自信があるぞ。…………って、若頭を倒した姐さんと、助けてくれた少年じゃねえか!」
農場主さんと話していたバトルヌートリアがこちらに気がついたようだ。
姐さんというのはメーシャで、少年はヒデヨシのことだろう。
「ふたりとも やほ。なにか揉めてんの?」
メーシャが軽い感じで事情を聞き直す。一応フレッドから聞いてはいるが、念のために情報にズレが生じていないか確認だ。
「ヒト手が増えるのは嬉しいけど、知らないモンスターなわけだしあたいらは少し前まで迷惑かけてたからね。やる気と自分たちの持ち味をアピールしてんのさ。ちなみにあたいはハリを立てて丸まって移動すりゃ、地面をすばやく耕すことができるよ」
と、デスハリネズミ。
「……能力は魅力的なんですが、まあ……正直信用するのはまだ怖い部分もありますよね」
農場主のおじさんの眉が下がる。確かに操られていたとは言え、農場を今まで襲っていたモンスターをふたりも雇うとなれば怖いのも仕方のないことだろう。
「…………分かった。後でカーミラちゃん経由で兵士さん派遣できないか確認してみる。それなら安心できるっしょ? それと、もし働いても良いってなったら、バトルヌートリアとデスハリネズミのふたりが住民登録もしないとだよね」
メーシャは慣れた手つきでスマホを操作してカーミラにメッセージを送る。これはカーミラとつながっているメーシャだからこそできる仕事だ。
「ありがとうございます」
農場主のおじさんが頭を下げた。
「気にしないで。……それより、灼熱……だっけ? あの子はいないの?」
ラードロ化していたロボロフスキーハムスターのようなモンスターが見当たらない。
「ああ、若頭は洞窟で留守番してもらってるんです。若頭は戦闘はイケても他はからっきしだからなあ」
「ラードロ状態の時は火力こそありましたがあまり強い、という印象はありませんでしたよ? 僕でも倒せそうでしたし」
火炎放射をしたと思ったら、いつの間にか燃料切れでよわよわになっていた印象しかない。
「そうかい? 若頭は、火が切れても自分で増やして回復できるし、炎吸収するから敵によっては一方的に勝てるし、炎の扱いの才能ならゲッシ随一だし、火力の出し過ぎで暴走して味方すら近寄れない以外弱いところは無いはずなんだけど……」
「連携取れないのは玉に
「そうなんだ。じゃあ、ラードロ化してむしろ弱体化したパターンってことか。おもしろ。…………住民登録の件でどうせ会うことになるし、戦力は多いに越したことはないし、一回会って話を聞いてみよっかな」
『まだドラゴン=ラードロ戦まで時間があるっぽいし、様子を見てみるか』
「ドラゴンと言えば炎を吐くイメージですし、炎吸収できるならもしかしたら助けになるかもしれませんね」
そして、メーシャたちはバトルヌートリアとデスハリネズミたちと一緒に泉の洞窟に向かって行ったのだった。