12話 異世界の洗礼……てきな
メーシャたちは先の戦いでのヒデヨシの活躍の話をしながら、アレッサンドリーテ王国の首都を目指していた。さいわい、転移で到着した位置が首都近くでゆっくり歩いても20分ほどでたどりく距離。
しかもレンガ調の道路が敷かれていて、一定距離ごとにモンスター除けの光を出す街灯まで完備。
ちなみに、この街灯は地球で見るような街灯とは少し違って、ライトの所に薄紫色の宝石……
この街道を進めば強いモンスターをめちゃくちゃに怒らせない限り、車に乗れるタイプのサファリパーク感覚で安全にスムーズに町を行き来できるというわけだ。
「ほぇ〜。マジか、イイなー! あーしも見たかったし〜…………ぜぇ……はぁ……。疲れた……」
声こそ元気に出そうとするも、もう疲労の限界なのか息切れを起こしフラフラで歩くのもやっとだった。
「
戦いを経てなお、小さい体でありながらメーシャに四足歩行で並走するヒデヨシは元気いっぱいなので、ジャッジメントサイス後に地形を修復したのが予想以上に体力を使ったのかもしれない。
「そうなのかな〜。気が抜けてドッと疲れがってやつかなぁ……ふぃ〜」
『……来るの急ぎすぎたか? さっきまで元気だったから油断したな。……すまん。金ならある程度アイテムボックスに貯めてあるし、街に着いたらいったん宿に泊まるか?』
「それがイイかも……ぜぇ。……でも、なんか……こっちに来てからなんだよね……はぁ……」
『こっちに来てから? 何がだ……』
デウスは身体が無いので汗こそかかないが、もしあるならこの瞬間背中に冷や汗を流していたかもしれない。フィオールに来て調子が悪くなったというなら、考えたくはないがもしかすると…………この土地特有の病気だろうか?
普通、その土地に住む者ならその土地の病原菌やウイルスに免疫ができて、コンディションがそうとう悪くなければまず感染しないものでも、違う土地から来た者は免疫できていないので簡単に感染してしまう。
ヒデヨシはネズミだから耐性が違い、調子が悪くなっていないのもなんらおかしくない。
デウスは戦々恐々としながらメーシャの言葉を待った。
そして、聞いた瞬間言葉を失ってしまう。
「身体がめちゃくちゃ重たくなったというか、ズッシリ感じるというか……マジしんどぃ」
デウスはメーシャの顔が見られなかった。肝がスーッと冷える感覚だ。『ああ、やっちまった……』と絶望した。だが、もうデウスはチカラのほとんどを使い切ってしまい、メーシャにはもう何もできないのだ。
こうなったら宿に泊まった所で事態が好転するなんてことはあり得ない。何故なら……。
『メーシャに
「…………え? 今なんて? 聞き間違いじゃなければ、
メーシャの視線がデウスを突き刺す。
デウスは肉体を持たず、エネルギー体であって見ることはできない。そして、より正確に言うならデウスのエネルギー体……霊体のようなものは実際にこの場に存在しているわけではなく、別空間でメーシャたちをカメラを使ってライブ映像を見ているような状態なのだ。
つまり、物質やエネルギーがないので誰も、人ももモンスターも邪神軍ですら見るどころか感知することすらできないはずなのだ。……はずなのだが、メーシャの視線は確実にデウスに突き刺さっていた。
『ひ、ひぇ〜……!!? ごめんなさーい!!』
恐れをなしたデウスは悲鳴をあげて通信をきってしまう。
「……逃げたちゃった。ま、いいか」
メーシャはそう言うと、今の今まで恐ろしい眼差しをしていたとは思えないような気の抜けた目になり、何も気にしていないのかなんでも無いように背伸びをする。
「ちう?」
「ん? ああ、怒ってないよ。ちょっとからかっただけ〜。てか、環境の違いって異世界に来たって実感できてむしろワクワクもんじゃん! 怒るワケないよ。……それにしても、ここって地球より重力強いんだね。どーりで身体が重たいワケだ。う〜ん、10倍くらいかな? 歩くだけで修行になりそー」
メーシャは手から魔法陣を出現させて頭から順にかざしていく。
「ちうっち?」
ヒデヨシはメーシャに何をしてるのか尋ねた。
「これはねぇ、
そんなこんなで、メーシャの体重は
10%まで減らさないのは、デウスから貰ったチカラで筋力が多少強化されているのと修行のためだ。徐々に重力に身体を慣らしていき、最終的に元の重力に適応すれば道中無理なく成長できる。
「っし、身体が軽くなったら元気も出てきたし! じゃあヒデヨシ、街まで競争だっ! 走れ〜!!」
さっっきまでのお疲れちゃんはどこへやら、メーシャはゴキゲンステップでアレッサンドリーテの街まで駆け出した。
「ちーう〜!」
ヒデヨシにも一応重力(約)10倍がかかっているはずだが、
* * * * *
数分後、メーシャたちは
住宅街にはレンガ調の民家が、商業地区にはコンクリートのような素材の建物が立ち並び、街の中心にはドイツあたりにありそうな円錐状の屋根のついたお城がある。そして、何よりメーシャたちの目を引いたのが
東京ドーム1個分はあろうかというサイズの、全体に魔法陣が描かれた真球状の魔石が上空に浮かび、そこからヴェールのように半透明の結界が街を丸ごとおおっていた。この結界はなかなかハイテクで、認証済みのモンスターであれば弾かれずにそのまま通過できるし、逆に普通のモンスターが通れないのはもちろん、街に対して敵意や害意のある者、攻撃魔法や災害までも勝手に反応して通れないようにしてくれるのだ。
だが、城塞都市と言われているのに街を守る壁が見当たらない。普通なら壁があり、門があり、そこで警察や衛兵みたいな方々が検問をしているはずだが、衛兵は街を巡回している者のみ。
まあ、衛兵が少ないのは他にも理由があるのだが、それはそれとして。
実はこの街の地下には王族のみが起動できる巨大な魔法陣が埋まっており、有事の際にその魔法を使えば街を囲む高く強固な防壁が出現するのだ。その防壁は上級魔法を喰らってもびくともせず、並の魔法なら逆に魔力を吸収してより硬くなるという。
なので、戦争時でも基本的に街にひとりは王族を残さないといけないものの、結界と防壁があるおかげで普段は外からの危険をほとんど考えなくても良くなっている。
「──やっと着いた〜! ……のは良いけど、嬉しいような少し残念のような……」
メーシャが街を見渡しながらなんとも言えない顔になる。
「ちうち?」
「だってさ……異世界転移の
そう、地球にあるものと遜色ない自動車も普通にあるし、なんなら一部は空を飛んでいる。
しかも、お店の看板は空中に投影されているし、一定距離ごとに転移魔法陣が敷かれているので街の移動には困らないようになってるし、ちょっとお店を覗けば通るだけで決済できるゲートが設置されていたり、大きな荷物は転送できるサービスがあったりと、夢のような世界ではあるがここで現代知識無双するのは夢のまた夢、みたいな状態であった。
「ちう……。ち、ちゅーちう!」
「まあ、せっかくカレーのシミも落ちる石鹸の作り方とか井戸の作り方とか他にも色々覚えたんだけど、クヨクヨしてて目の前の異世界を楽しめないのはもったいないもんね! 知識自体はサバイバルでも役に立つだろし、いったんフラットな目線になって街をめぐってみよっか!」
「ちうぃ!」
そうしてメーシャは意気揚々と街を進んでいったのだが、またすぐに新たな問題にぶつかってしまうのだった。
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「──ちょっと待って、ウソ!? 言葉が全然わかんないんだけどー!!!?」