8話 影響
メーシャは邪神の手下を圧倒的なチカラで倒すことができた。
その相手は邪神軍の幹部サブラーキャがこの地球で
ゆえに、タコ撃破により邪神軍の作戦は
だが、それを予見していた邪神ゴッパが対
「──ただ、あの黄金のチカラが腑に落ちぬ。ウロボロスの動向は把握していた……。あの地でかようなチカラを手に入れた様子は無かったが、他にも協力者がいたのか? それとも、あの
ゴッパは揺るぎない勝利をおもい仮面の下で静かに笑うのだった。
* * * * *
「──じゃあ、あの釣りのおっちゃんは帰っちゃったんだね?」
「ちうちう」
釣り人のおじさんと一緒に遠くに避難していたヒデヨシは、戦いが終わってからメーシャの元へひとりで戻ってきた。しかし、おじさんはメーシャが元気そうなのを遠目で確認した後ヒデヨシと別れて帰ってしまったようだ。
「メイワクかけちゃったから、ごめんなさいとありがとうをしときたかったんだけどな」
『知り合いじゃねんだろ? 近くにはもう反応も無いし、手がかりも無いし、また偶然出会えるまではおあずけだな……』
デウスはメーシャにチカラを継承したり、先の戦いで動物や人間を避難させるために転送したりしてエネルギーのほとんどを消費していた。なので本調子とはいかないが、ひとりぶんの反応を探すくらいなら半径数kmくらいの探知を使えるのだ。
それでも見当たらないということは、おじさんは比較的早い段階で車か交通機関を使って帰ってしまったのだろう。
「うん、そうしよっか。これから異世界だし」
そう、メーシャはこれから異世界で暴れている邪神軍を倒しに冒険に出なければならない。
「ちううっち、ちゅーちゅう」
『ああ、それもそうか。じゃあ一旦メーシャの家に転移ゲートをつなぐか』
デウスはヒデヨシの言葉がわかるようだ。
ちなみに転移ゲートとは、現在地と違う場所をつなぐ魔法で作ったワームホールのようなものだ。
「あっ忘れてた。確かにしばらくお家から離れるならお泊まりセットとか、水とか非常食的なのとかも必要だし、パパとママにも挨拶しとかないとだね」
チカラのおかげなのか、メーシャも理解しているみたいだ。
『っし、ゲート開いたぞ〜』
うずを巻いた先の見えない穴のようなものを、デウスはさらっとメーシャの近くの空間に出現させる。これがゲートだ。
「じゃあ、お家までしゅっぱー……」
「──ま、待ってくださ〜ぃ!」
メーシャがゲートに飛び込もうとした瞬間、少し離れたところから女の子が呼び止めてきた。
「ちう?」
メーシャと同じ学校の生徒のようで、よく見るとその手には見慣れた
「……あ、ヒデヨシのケース置きっぱなしだったみたい」
その女の子は忘れ物を持ってきてくれたようだ。
「……ぜぇ……はぁ……ぜえ……こ、これ。……あっちの方に……置かれてて、もし……あっ! 憶えてたんならごめんなさいっ!」
女の子は緊張しているのか全力疾走して疲れているのか、言葉に詰まりながらもなんとか事情を説明しようとする。
「でも、いせか…………あっえっと、どこか! どこかに行くって聞こえたので、番長さんが万が一忘れてたら……と思って」
言葉を濁したが、メーシャが異世界に行くことが聞こえていたようだ。まあ、メーシャの声は大きいし実はデウスの声も周囲にダダ漏れなので聞こえていても仕方ないのだが。
「あんがとー! えっと、隣のクラスの
メーシャが樹からケースを受け取ると、流れるように魔法陣を出現させてアイテムボックスを収納してしまう。そもそも隠す気がないのかもしれない。
「あっはい。
樹ははにかみながら頬をかいた。メーシャにお礼を言われて嬉しくなってしまったようだ。
余談だが、樹はスポーツは苦手で黒髪のボブで太ブチ眼鏡をかけた物静かなタイプで、活発なタイプなメーシャとの間に特別関係は無く今までも学校行事やすれ違った時に何度か話した程度。
ただ、メーシャはトラブルに首を……もとい、困ってる人を放って置けないので学校内外問わず頼りにされていたり、体育大会で一年生なのに上級生をさしおいて無双していたり、不良学校にひとりで
なので、樹もそうだがメーシャに憧れる生徒も少なく無いのだ。
「まあ、そういうわけだからそろそろ行くねっ。たぶん大丈夫だけど、樹ちゃんも気をつけて帰るんだよ」
メーシャはそう言うと、ヒデヨシを肩に乗せて何のためらいもなくゲートに飛び込んだ。
『メーシャってば何かと順応するの早くね? 転移魔法とか初めてじゃ無かったりする?』
「うん。空を飛んで転移とか、魔法陣と魔法陣の移動とか、明かりを灯してそこに移動とか、何万回とやってきたからね。慣れたもんよ!」
『やっべー! メーシャぱねえよ!!』
デウスは割と本気で訊いていたのだが、もちろんメーシャが言うところの転移はゲームでのことである。
「……ありがとうございます。えと、番長さんもお気をつけて……!」
徐々に姿が見えなくなっていくメーシャに手を振って見送った。
「魔法って本当にあるんだ……。異世界とか転移とか言ってたし、謎の声も聞こえてきたし……。なんならさっきも、人間離れした戦いもしてたもんね」
樹は抑えきれない高揚感に包まれながら、ポケットの中から『ぜったい見るな』と書かれている小さなノートを取り出す。
「パンダもゴリラも初めは
樹がノートを開くとそこには可愛らしいタッチの2頭身のキャラと色々な魔法のイラストが描かれている。
「人間が想像できることは人間が必ず実現できる。じゃあ、魔法だって理論が確立できれば……!!」
樹は小さい頃魔法に憧れていた。いや、今までも心にしまっていただけで、1日だって忘れずに魔法を使うことをずっと夢に見ていた。だから、樹はこの日のことを絶対に忘れないだろう。
高揚感も熱意も、目に焼き付けた光景も全て。
「ふふっ。家に帰ってまずは歴史書から洗っていこうかな!」
樹はノートを胸に抱きしめ、ルンルンで家に帰っていくのだった。