5話 『奪う』チカラ
「
それがウロボロスの持つチカラだ。
『そうだ。しかも、ただ相手の物を奪うんじゃねえ。周囲の物質とかはもちろん、電気とか炎みたいな実体の無いものまで自分のものにできちまう。まあ、自分より強かったりスペック以上のものは難しいが、工夫したり強くなれば可能性は無限大! どうだ、興味出てきただろ?』
つまり、お前のものも、お前のもの以外のものも俺のものにできるということだ。
「すご! あ、でも自分のものにした後はどうすんの? 手がいっぱいだと奪えないんじゃ……。それに、手から離れたら元に戻ったり、持てる分だけとか、時間制限とか……そう言う条件は?」
『なななんと! そういった制限は一切ございません! 俺様が独自に創造した異空間、通称アイテムボックスにほぼ無限に収納できますので奪いたい放題ですし、手元から離れてもマーキングはされていますので、念じれば瞬時に手元に引き寄せることも可能。
そして、奪ったものが壊れたり消えたりすれば消費されるものの、時間は無制限かつ、アイテムボックスではその奪った瞬間の状態で保存されますので、取り出した時に劣化したり腐ったりという心配がないんです!!』
デウスはなぜかテレビショッピングのような口調でメーシャに
「うぉおおお!! ぶっ壊れユニークスキル的なやつじゃん!! それにアイテムボックス! ゲームとしては疑問に思いつつスルーしてたシステムだけど、神様とか高位の存在が創った世界をそのまま物置にしてるって、とんでも発言だし贅沢だけど納得できるかも!」
メーシャのお気に召したようだ。
『まあ、他にもある程度身体能力も上がるが、基本的にはメーシャの戦い方次第で善戦も苦戦もする。クセは強いが、受け取ってくれるか? 一応、本当に嫌ならお前を助けて、離れた場所に避難させる余裕くらいはある』
デウスは
だが、メーシャが万が一断った場合を想定してあえて身体の回復はせず、他の候補者が見つかるまでの間、邪神軍からの攻撃から守るためにエネルギーをストックしていたのだ。
「何言ってんの! こんな面白い展開見逃せるワケないって! デウスがこの先何させたいかは知らないけどさ、多分悪いことじゃないんでしょ? そんならこの、いろはメーシャにまかせとけ!」
『良いのか!?』
「もちろん! 困った人を助けるのが番長の使命だかんね! それが地元でも、異世界でもさ」
デウスの心配をよそにメーシャは快諾。
その言葉を聞いたデウスはメーシャに全てを賭けることを決心した。
『っしゃあ!!! メーシャ、お前は俺様の見込んだ以上だぜ! じゃあ受け取ってくれ! そして、俺様に希望を見せてくれ!!』
──ドクンッ。
メーシャの周囲が一瞬脈打つように振動した後、天から伸びた光が滝のように海に降り注ぐ。
そしてその光は次第にまとまりを見せ、まるで輝く龍のような形の
* * * * *
一方、地上では。
助けを呼びに行った者、恐怖で逃げた者、あきて帰ってしまった者、己の無力を知り去った者、理由は様々だが、この浜辺でメーシャを待っているのはヒデヨシと釣り人のおじさんだけだった。
「なかなか上がってこないけどお嬢ちゃん大丈夫かなぁ……? なんかパワーを感じる子だったし戻ってくるとは思うけど」
そうおじさんが海を眺めながらつぶやくと、頭の上に乗っているヒデヨシが『ちうちう』と返す。
いつの間に仲良くなったのだろうか?
メーシャがタコに連れ去られ、誰か来るまで、もしくはメーシャが帰ってくるまで帰ることもできず、とは言え今何かできるわけでもないので、おじさんは海を眺めることしかできないのだ。
「ちう……!?」
そうこうしていると、ヒデヨシが何かに気付きヒョイっと砂浜に降りた。
「こ、これは……!!」
先程までさざなみ位しかたっていなかった海からボコボコと泡が浮き上がり、おもむろに眩い光が昇ってくる。
その刹那。
──グォオオオオオオ!!!
海水を巻き込みながら、巨大な龍が轟く雄叫びをあげその姿を現した。
「龍……なのか!?」
よく見るとその龍は水以外の実体はなく、目視できるほどの高濃度のオーラでできているようだ。
しかも先ほどのタコの推定体長をゆうに超えるサイズであり、それがこの地球で姿を見せているのだからその
「もしかして、こっちに来る!?」
龍がこちらを見ていることに気付いたおじさんは、とっさに離れようとするが時すでに遅し。
「はやく逃げ──」
──ズドドドドドドンッ!!!
龍はダイナミックにうねりながら、おじさんのすぐ隣に砂をこれでもかというくらいぶっ飛ばしつつ頭から着地。
「──ただいまっ」
そして龍の形が霧散。その中から出てきたのは、緑のオーラをまとわせてギュインギュインと音を鳴らしているメーシャだった。
「──力がみなぎる……。これが必殺技ゲージがマックスになった時の感覚か……。なんかめーっちゃ走り出したい気分」
メーシャがキリッとした顔でつぶやく。
遊園地に着いた瞬間ちびっ子がテンションマックスで走り出すようなエネルギッシュさだ。
「おじょうちゃん! 帰ってこれたんだね! 怪我はないかい?」
「ちっちうちぃ!」
おじさんとヒデヨシがメーシャにねぎらいの言葉をかける。
「無事だよ〜! てか、むしろ元気がありすぎるってカンジ! …………まあ、それはそれとして、ふたりともなんで体が半分地面に埋まってんの?」
「「………………………………」」
メーシャ龍のダイナミック着地に巻き込まれたものの、ふたりは無事だった。ただ、ぶっ飛ばされた砂をもろに浴びてしまい、あっという間に半分生き埋め状態になってしまっていたのだ。
「?」
メーシャが首をかしげる。
「……ちうっ!?」
メーシャが本気で分かっていないと察したヒデヨシは、勢いよく砂から抜け出してメーシャに詰め寄った。
「ちちうちゅうち、ちぅちちゅぉちうつちう!!」
「ごめんごめん!! あーしが砂を巻き上げちゃってたの完全に忘れてたし〜!」
まるで新しいゲームを買ってもらった小学生が宿題を忘れてしまうみたいに、メーシャは自分の行いを忘れちゃっていたようだ。
「……それにしてもヒデヨシさ、めちゃ賢くなったよね。昨日までは難しいこととかよく分かってない顔してたのに。パパの注射の効果かな? そのうち言葉も話せちゃいそうだもん」
「ちうち……?」
ヒデヨシはメーシャに指摘され初めて自覚した。自身の知能がだんだん上がってきていることに。今は人の言葉を話せる気はしないが、メーシャの言う通りいつか話せたりするのだろうか?
「あ〜……ごめん。おしゃべりの練習する時間はなさそ」
メーシャは海を見て
それもそのはず。メーシャの目線の先には額に禍々しい赤の宝石をつけた黒く大きなタコの姿があったのだから。