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第10話 突然の再会

「──!」
 
 鈴心(すずね)と呼ばれたその少女は目を丸くし、口元も開いたまま固まっていた。
 
「リン!?」
 
 声を揃えて叫んだ蕾生(らいお)(はるか)に対して、鈴心は少し諦めた様な表情で息を吐く。
 
「運命には、逆らえないということですか……」
 
 そんな呟きが聞こえる間もなく、反射的に動いたのは永だった。
 
「リン! お前だったのか! この前の態度はどういうことだ!? なんでそんなに若い!?」
 
 永はそれまでの冷静さを失って、頬を紅潮させながら必死の形相で鈴心に詰め寄り、その細い腕を乱暴に掴む。
 
「痛い、痛いです。落ち着いてください、ハル様」
 
 鈴心は顔を歪ませて身を捩った。それでも永は手を離さなかった。

「リン! どうして──」
 
周防(すおう)くん、やめて!」
 
 二人の間に星弥(せいや)が割って入り、永から鈴心を引き離して守るようにたちはだかる。その顔はそれまでの彼女が見せたことのない、険しいものだった。
 
「永、落ち着け」
 
 今、冷静でいなければならないのは自分の方だ、と蕾生は我に返って永の肩を掴んで低めの声で言う。
 
「あ──ごめん」
 
 動揺が収まらない永の、焦点の定まらない目。そんなものを見るのは初めてだった。
 
「とりあえず、座れ」
 
 蕾生は強引に永をソファに沈める。永は黙って従った後、項垂れて両手で顔を覆いながら悲痛な声を絞り出した。
 
「訳がわからないよ、リン……」
 
 そんなに弱々しい声も蕾生は初めて聞く。その永を見て顔を青ざめ、唇を噛んでいる鈴心の表情には罪悪感が見てとれた。
 そんな二人の間に流れる張り詰めた緊張感と蕾生にはまだわからない空気感に、何も言うことができなかった。

 
 
 部屋に流れるその異質な空気を、星弥の厳しい声が刺した。
 
「なんなの? みんなは知り合いなの? リンってなんのこと?」
 
 まるで自分の住処を荒らされた猫のように苛立ちを隠さない彼女に、鈴心がその背に向かって静かに言った。
 
「星弥、席を外してもらえませんか? この二人と話があるんです」
 
「ダメです!」
 
 星弥の放つ大きな声は、猫に引っかかれたかのような衝撃を蕾生に与えた。
 
「星弥……」
 
 鈴心は呆れたように溜息を吐く。
 
「すずちゃんを見ただけで取り乱すような人と、わたし抜きで話すなんて絶対にダメです!」
 
「星弥、お願いします」
 
 振り返った星弥の腕に縋って、鈴心は丁寧に頭を下げた。
 
「とても、大事な話なんです」
 
 その態度に幾らか心を和らげた星弥は、困った顔のまましばらく何かを考えた後、意を決した表情でまず部屋の鍵をかけた。そして窓のカーテンを全て閉めた後、鈴心の方を見て言う。
 
「これが人払いできる精一杯です!」
 
 星弥の頑固な態度に、肩で大きく息を吐いて鈴心は永に問いかける。
 
「ハル様、星弥も同席して構いませんか?」
 
「……でないと説明してもらえないなら仕方ないね」
 
 永は顔色を少し取り戻しており、薄く笑った。
 
「ライ、あなたも座りなさい」
 
 立っていた蕾生の方を向いて、鈴心は顎で促した。その偉そうな態度に少し怒りも感じたが、とりあえず何も言わずに蕾生も永の隣に座る。
 
「星弥、後でわからないことは説明しますから、会話を遮らないように」
 
「はい!」
 
 永と蕾生の対面に鈴心と星弥が揃って座る。鈴心に釘を刺された星弥は忠犬のように返事をするとともに、鈴心の肩をがっちりと掴んでいた。
 
「まず……そうですね、今の私の名前は御堂(みどう)鈴心(すずね)です。年は十三。今年十四になります」
 
 星弥の過保護な態度に呆れつつも、鈴心は深呼吸した後静かに語る。その言葉に永は意外そうな顔をしてみせた。
 
「驚いた、初めて教えてくれたな」
 
「そうですね、今までは私がリンであることが重要だと思っていたので。ですが、今回は私のことは鈴心と呼んでください」
 
「リンじゃだめなの?」
 
「星弥が混乱しますので」
 
 短く答える鈴心の言葉に、何故か満足そうに頷いている星弥。その二人の間にある特別な空気を永も蕾生も感じ始めていた。

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